四 前編
「質問ですか、先生。というより、ゲドウはどこへ行ったのです」
「最初から君の話を聞いていたのは私だよ」
男には院長の言うその言葉の意味が分からなかった。確かに自分はゲドウに向かって話していたはず。なのにいつからそれが院長にすり替わっていたのか。それが全く以て理解不能だった。
「これは君の人生を語った話なのかね」
「は、はい。それがどうしたと言うのです」
「なら、この先はどうなるのかね」
「この先、ですって?」
男は院長の言葉がやはり分からなかった。まるで別世界の言語で話しかけられているかのように、院長の言葉は要領を得ず、男の脳を混乱させるだけのものだった。院長は再び分かりやすく噛み砕いて質問し直した。
「つまり、鶴子さんと付き合った後は、どうなるのかという意味だ」
男はそこでようやく合点がいったようだった。
「そういうことですか、それならまだ少し続きがあるのでお話ししますよ」
「ああ、そうしてくれ。残りの質問はその後にするよ」
院長はそう言ってじっと黙りこくった。男はそれを見て、目線を離して日記に視線を落とした。彼は頁を捲った。
「恐らくこれが、最後の話です。恋を知ったはずの男が、みっともなく勘違いして、最悪の形で愛を手放す。その一連の話なのです」




