捜査①
今村が福岡県警の山田刑事を尋ねたのはその次の日ことである。
山田刑事はアフロ頭である。そう書いてしまえばそれで終わりだが、冷静に考えると異常である。仮にあなたが電車に乗ったとしよう。
あなたの隣にアフロ頭の男が立っている。自分の顔を2乗したぐらいの髪が立っているのだ。満員電車でないとしても気になるだろう。県警という極めてワーカホリックな職場にそんな人間がいると気になってしょうがないだろう。常に自分の周りを動くもじゃもじゃに。
そんな山田刑事は今村を見るとテーブルと机しかない殺風景な場所に連れて行った。
「今村さん。こんにちわ。まあこちらへ。許可は得ていますから」
「すみません」
「お茶、飲みます?まずいですけど」
「いや、結構です」
山田刑事はまずいお茶を勧めたが今村は断った。山田刑事はアフロ頭で大変特徴があるのだが、それ以外はいたって普通の人間である。
「あの学校、オンブズマンから疑われてますよ」
山田刑事は衝撃発言をした。
「どうも、車いすの教員がいるらしくてですね」
山田刑事はまずいお茶を飲んだ。
「そのためにわざわざエレベーターを設置したにもかかわらず、県からせしめたお金の5分の1しか使ってないみたいでして」
「残りのお金はどうなったんですか?」
「そのお金の出先は行方不明でして、ちょっとした噂になってましてね。まあそれはいいんですが」
良くないような気がするのだが、あまりここでは問題視されていないのだろう。山田刑事は本題に入った。
「今村さんに言われて調べてみましたよ。松井さんでしたっけ?校長?」
「教頭先生です」
「その、行方不明、というか捜索願が出ているという話だったので調べてみたんですけど、捜索願は出ていませんでした。松井先生、変な内容のブログを書いてましてね。今村さんに言われてちょっと調べたんですが」
山田刑事はメモを眺めた。
「黒い組織に狙われているとか、自殺寸前だとか、そんな煽情的な内容が多い。ですけど、捜索願が出されていないので私たちとしても手の出しようがないというのが現実でして…。ただ、内容も信憑性が疑われるところもあります。たとえば旦那の悪魔のノートを見たって、松井教頭には旦那さんいないんですけどね」
「そうですか」
「気になって松井教頭の家まで出かけたのですが、外出していると使用人の方に言われまして、さすがにそこを張るのは怒られそうなので帰りましたが…」
「使用人の方がおられるのですね」
「松井教頭は車椅子生活をされていますから、介助する方は必要なんでしょうな」
山田刑事は持参していた大きなペットボトルで水を飲んだ。ラベルには美女が満面の笑みがこちらを見ている。
「でも松井教頭は女性でありながら男に交じって車いすバスケットボールをやるのが趣味で、一時はパラリンピックの最終選考に入ったくらいのスポーツウーマンらしいですよ。中年女性なのに腕はパンパンらしいです。エレベーターがなくても腕力で2階まで上がっていたらしいですから」
「それは知りませんでした。ということは、介助なしでも健常者と同じ行動ができる、と考えてよいのですな」
今村がそういうと、山田刑事はにやりと笑った。
「車いすで生活をしているけど、我々が思っているほど不自由はしていないようなんです。だから普通に外出もできるみたいなんです」
山田刑事はペットボトルの水を飲んだ。
「あ、そうそう、先日小倉の夜の町を一斉捜査に入ったんです」
思い出したかのように山田刑事は胸ポケットからメモ帳を取り出した。
「ええと、ああ、これですよ。その捜査の中で、おたくの学校の生徒さんの何人かがいかがわしい商売に手を付けてましてね。数名は県警の方で補導したんですがうち1人の女子高生が、その子には逃げられてしまったんですが…。その子について別の補導した子たちにいろいろ聞いていくと、どうやら危険な思想を持っていたようでして。ひょっとしたらおたくの学校で過激な活動をしていませんか?」
「そんな子がいるんですね」
今村が考え込むと、山田刑事は笑った。
「いやいや、これは捜査外の話ですからただの私の好奇心ですよ。その生徒さんについては何にも分かっていないですし。まあ、いいですわ。今後何もあの学校にないことを期待していますが」
山田刑事はそういってペットボトルの水を飲んだ。




