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弓彦と学園七不思議  作者: 廣瀬智久
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学校七不思議その①  校長室の髭の伸びる肖像画の謎

「おいって」


 突然弓彦が尋ねた。タバコを片付けようとした前江田さんがにらみつけた。


「何よ。次の章に行くのに止めないでよ。あたしたち散々喋くってるんだからそろそろ他の登場人物出した方が話が進むのに」

「何のことや?ようわかりませんなぁ」

 校長は汗を拭いた。


「企業秘密よ。そんなことはどうでもいいわ。何なの?」

「七不思議の最初の校長室ってここだってもんよ?」

「そうです」

 弓彦が聞く。


「肖像画ってどこだってもんよ」

「上に飾ってありますよ」

 よく見ると上の方に歴代校長らしき肖像画が並んでいる。前江田さんがぐるりと見渡した。

「多いのね」


 校長がまた汗を拭いた。

「この学校の設立は明治でっせ。つい先日創立100年式典をやったばかりなんや。こう見えても歴史は古いんですよ。昔は農業大学校として設立され、地域の農業の発展に大変貢献したそうですわ。今もその名残で農業科、というかグリーンサイエンスコースがあります」


「横文字なんてナウいわね」


「グリーンサイエンス科は農業だけでなく家畜の飼育をしとりますのや。クリスマスになると鳥の丸焼きを販売してまして、これが大好評なんですわ」

「アタシも食べたわよ。この学校の生徒が作ったとは思えないほど美味だったわ」

 スパッと前江田さんはタバコをふかした。校長は注意すらしなくなった。


「農業のほかに商業、工業もあって、実業高校みたいなものでして」

「偏差値低いからね。進学する生徒なんていないでしょ?」

「おいって、うちのコンビニで万引きするのはだいたいここの生徒って」

 生徒はあまり評判がよくないらしい。


「すんまへんなぁ。いろんなところに迷惑をかけているようで」

 校長は汗をかいて頭を下げた。


「かつては福岡県でも有数の農業高校だったんやが、今は偏差値的には下から数えた方が早いほどの体たらくでしてなあ」

「おいって、入試の時に名前を書いただけで合格って聞いたことがあるってもんよ」

「それはまさに都市伝説ですわ。多少は正解しないと入学できませんよ」

「それはいいから早く肖像画のひげなんとかしなさいよ」


 前江田さんは少しイライラしているようだった。


「私にひげはないんですが、なんでそんな話が出てきたのかわかりません。髭になるような毛根があったらこの頭にほしいくらいなんですが」

「それはわかったってもんよ」


「私も分かりましたよ!」


 突然校長室のドアが開いた。


「あ、探偵」

 立ち上がり帰ろうとした前江田さんが呟いた。そこには、薄汚れた作業服を着た中年男性が立っていた。弓彦のイメージするスマートな探偵とはずいぶんかけ離れている。

 校長がため息をつく。


「さっきから何でノックしない人ばかりなんでしょうか」

「おいって、あ、あんたは、どっかの誰かさんで会ったことあるってもんよ」


 弓彦がそう言った。ほとんど情報量のないコメントである。


「さっきから探偵と言われていますが私はただの結婚相談所の所長です」

「今村さん、新人よ」


 前江田さんが弓彦の肩を叩いた。今村と言われた男は深く帽子をかぶっていた。帽子の隙間から洗っていなさそうなべたべたした質感の髪の毛が覗いている。


「あ、あなたは確か…伊豆宏明さんの息子さんですね。お店が散々な目にあって大変ですね」

「余計なお世話ってもんよ」


 弓彦は思い出した。この男は確か今村信也という、小倉で結婚相談所の所長と兼業で探偵をやっている男だ。何度か会っているが、この男が絡むとろくなことにならない。


「今村さん、あんたの相棒よ。二人で用務員して住み込みで事件の解決をしなさい」

 前江田さんが言った。弓彦が泣きそうな声を出した。


「おいって、店は」

「さっき言ったでしょ。住み込みで3食付きよ」

「鳥の丸焼きやら豚の丸焼きやらすごいものもらってもう3キロも太りましたよ」

 

 今村がそういうと前江田さんがにらみつけた。


「無駄飯喰らいなんだから少しは働きなさい」

「すみません」

「朝起きて夜寝る生活だし、あんたのいつもの仕事と違って夜勤なんてないから生活のリズムを作れるわよ。しっかり頑張りなさい。アタシはこれからアポイントがあるので」


 そういうと前江田さんは席を立った。また宗教の勧誘なのだろうか。


「あとはよろしく」

「はあ」


 汗を拭く校長を後に前江田さんは去っていった。


 男たち三人になった。急に静かになった。


「これが肖像画ですね」

 今村は天井付近に飾られた歴代校長の写真を眺めた。


「いっぱいいますね」

「開校して100年になるんや。わてで18代になりますのや。初代校長は畠先生と言いましてな。ハイカラな人で、日本に入ってきたばかりのドラム演奏が趣味の先生で、なかなかの剛腕だったそうや」


 弓彦は初代校長の顔を見た。そういえば銅像はこの校長だったか。


「カゴイケ校長の写真も飾ってありますね」

「在職中から飾ってもらえるのは光栄なことですわ」


「あの、校長ってほくろありました?」

「は?ほくろなんてありまへん。ほくろの代わりの髪の毛がほしいぐらいですわ」

「いえ、あの写真、おかしくありませんか?校長の鼻の下に二つもほくろがありますよ」


「へ?」


 校長は驚いて天井の写真を目を凝らして見つめた。弓彦も気になって見つめたがメガネが汚くてはっきりと見ることができなかった。校長は今村に指示した。


「ちょっとわからへん。用務員室から脚立を持ってくれまへんか?」

「わかりました」


 校長に言われて今村は脚立を運んでくると、何も言わずに脚立を上げて歴代校長の肖像画から今の校長の写真をはずした。今村が写真を覗きこんだ。


「校長、穴が開いています」

「へ?」


 よく見ると校長の写真の鼻の下に穴が開いている。しかも二つある。


 今村は写真の裏をめくったが小さな空洞があるだけでこれといった不自然なものはなかった。じっと校長の写真を眺め、べたべたと触っていた今村がふと口を開いた。


「なにか、花火のようなにおいがします。誰かがいたずらでこの写真に火をつけたのかもしれませんね」

「ほんまでっか?」


 校長はくんくんと自分の写真をかいだ。おそらくい定年退職の近いであろう初老の男が自分の写真のにおいをかぐ絵はなかなか見たくないものである。校長が頭を掻いた。


「わてにはよくわかりまへんな。ただ、私の鼻の下に穴を開けた者がいるのは確かなようです。しかし、私は出勤して四六時中この校長室におるというわけではありまへんのや」


「そうですか」


「欠勤の教師の代打でホームルームや保護者会、部活の顧問、今は詩吟部を担当しとります。永島先生と畑の見回りなどそれ以外の業務もあっておらん時間の方が多いかもしれまへん。時々別の教諭が応接室に使っとりますがそう頻繁でもないさかいに…」


 校長室は誰もいない状況があるようだ。


「おいって、出入り自由ってもんよ」

「そうなりますね」

「そうなりますな」

 弓彦の問いかけに2人は冷静に答えた。


「校長室と聞くと敷居が高くてなかなか調査できませんでしたが、よい機会をいただけました。これを機にまた励みたいと思います。な、相棒」


 今村はそういって弓彦を凝視した。


「お、おいって」


 今村に引きずられるようにして用務員室に連れていかれる弓彦。それを満面の笑みで校長は眺めていた。 

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