表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弓彦と学園七不思議  作者: 廣瀬智久
5/18

学園七不思議とは

学園七不思議だと?


 たしかそんな漫画本を読んだことがある。トイレの花子さんとか音楽室の幽霊とかだ。


「学校の中でよくわからへん現象が起きるというのですわ。しかも6つも。最近増えて7つになってしもうて。SNSでうちの高校は変な事件が起きると噂が立ってしまいまして。困っとるんですわ」

 校長が説明すると、前江田さんは2本目のタバコに火をつけた。

「その学校七不思議というのはね」

 彼女の説明する7つの不思議は以下である。


①校長室の髭の伸びる肖像画の謎

②疾走する人体標本の謎

③奏者がいないのに流れる音楽室のピアノの謎

④午前4時44分に触ると異世界に連れていかれる鏡の謎

⑤体育館で首のない男子生徒がバスケットボールをしている謎

⑥てけてけの謎

⑦動く初代校長の像の謎

 

 この7つの謎を解明するために探偵が校内に潜り込んでいるというのだが、いまいち成果が上がっていないという。


 ちなみに『七不思議』とは『世界七不思議』からきている。もともとは古代ギリシャ・古代ローマ時代における7つの注目すべき建造物のことをさしている。


 『七不思議』は紀元前2世紀にビザンチウムのフィロンの書いた「世界の7つの景観」の中で選ばれた、古代の地中海地方に存在していた7つの巨大建造物を指す。ギリシア語で「必見のもの」といった意味である。


 しかし、日本語ではギリシャ語の「必見のもの」「景観」が「不思議」と誤訳されてしまった。さらにその呼び名が定着してしまったために、現代ではオカルトブームなどと結びついて、「当時の土木技術のレベルを超越している」、「物理的に可能とは思えない」といった意味で解釈されることがある。それがゆえに、七不思議の実像が誤解されることが多い。


 前江田さんは続ける。


「ただの都市伝説なんだけど教育委員会がうるさいらしいのよ。生徒の学習の妨げになるって」

「オカルト研究会なる非公認サークルもあるみたいですな」

「みんな都市伝説に振り回されてるのよ」


 前江田さんは深々とタバコを吸った。


 都市伝説とは、近代あるいは現代に広がったとみられる口承の一種である。「口承される噂話のうち、現代発祥のもので、根拠が曖昧・不明であるもの」と定義されている。


 都市伝説は、何万人もの人々を巻き込みながら延々と続く伝言ゲームのようなものである。噂話がまるで真実のように語られていくのである。アメリカの民俗学者ブルンヴァンによれば、「古くからの民話と同じように、大真面目に語られ、口から口へと広がっていく」という。


 よく勘違いされるのだが、「都市伝説」は、「都市の、都会の」というような地域を示しているのではなく、「都市化した」という意味で使用されている。なので、舞台設定が農山漁村であっても都市伝説と呼ばれる。田舎の噂話も都会の噂話も「都市伝説」なのである。


 ちなみに一見新しそうに見える都市伝説であっても、その起源が古くからの神話や民話にあったり、あるいは、より古い別の都市伝説の焼き直しだったりする事も多い。


 都市伝説には起源や根拠がまったく不明なものも多いが、何かしらの根拠を有するものもある。特定の事実に尾ひれがついて、都市伝説化することが多い。


 たとえば「東京ディズニーランドの下には巨大地下室があり、そこで賭博等の行為が行われている」という都市伝説は、同施設が実際に地下通路を持っていることが起源の一つになっている。だが、東京ディズニーランドの地下に施設はない。東京ディズニーランド一帯は埋立地なので、地下通路くらいなら作れるが、巨大空間を作ってしまうと沈んでしまうからである。


「前江田さん、どうしましょう?あの探偵を解任しますか?」

「あの人は時間がかかるのよ。でももう少し調査いるかもね」


 校長に話しかけられると前江田さんはタバコを吸う手を止めた。


「あ、あなた、やりなさい」

 前江田さんはタバコを弓彦に向けた。


「お、おいって!」

「この人はコンビニの店員さんなんでしょう?仕事があるのに内偵なんて」

 校長がたしなめる。


「いいのよ。どうせ店なんてお客さん来ないんでしょ?あなた、あの探偵と一緒に働きなさい」

「おいって」

「あなたの父さんに言っとくし、いない間の店長はワタシが選んどくから」

「おいって」


「いいでしょ?校長」

 前江田さんは足を組んでスパーっと煙を吐いた。


「分かりました。この人を探偵として雇います。ですが、さすがに教員というのは」

「俺っちは国文科卒業って。国語ぐらいなら何とかなるってもんよ」


 弓彦はコンビニ経営とは何の関係もない文学部卒である。卒業論文には『古事記における愛欲の世界』というよくわからない論文を書いた。ちなみに論文を読んだ担当教授は、査読の時に弓彦の顔を見て数秒呆れた顔をしたらしいが、「君らしいね」と笑って単位を認定した。担当教授が人格者であったことを物語る逸話である。


 校長が汗をかいた。脇もびっしょりである。


「国語の教師はもうおりますのや。あの探偵さんと同じように用務員でいいんでないかい?昔は用務員も一人で大変そうでしたし、前の用務員も体調不良でもうしばらく復帰には時間がかかりそうですからな」


「あら、校長がそう言うならそれでいいわ」

 前江田さんが笑った。自分で決めて後は人にたきつける悪女である。


「おいって、俺っちはこれからどうなるってもんよ?」


 こうして弓彦は自分の意志にかかわらず学校七不思議の謎を解明することになったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ