エピローグ
弓彦がローソンに復帰したのは次の日のことである。
手前の県道は相変わらず交通量が多いが、駐車場はなぜか何もなかった。弓彦の車だけが止まっている、いつもの殺風景な駐車場である。
隣のバッティングセンターからは小気味いい打球音が聞こえてくる。寂しい中年男性たちがバットを振って汗を流しているのだろう。ただ違うのは、店が粉々になって何もないことぐらいである。辛うじて無事だったのか、空のペットボトルが山積みに積み重なっていた。
崩壊した店の横に、史銘陽がぼんやりと突っ立っていた。
「いらっしゃいませ。ご了承ください」
「おいって」
「あ、店長。ご了承ください」
「おいって。店がないと仕事ができないって」
「今日はシフトが入っていたので一応出勤しました。ご了承ください」
まじめな男である。出勤したところで仕事場がなければ仕事もできないしタイムカードも押せないのだが
「おいって駐車場に何もないって。副店長はどこに行ったってもんよ?」
「あの爆発のあと、警察が駆け付けると急に青い顔をしてどこかに逃げました。的屋さんもささっと後片付けをして。撤収の速さは見事でしたよ。ご了承ください」
「おいって、じゃあここには何もないってもんよ?」
「売上からみんな持っていきましたよ。店がないと売上もよくわかりませんけど。ご了承ください」
そこへ、古い軽自動車・ミラが駐車場へ止まった。父の車だ。息子も親もミラに乗っている。親子そろって同車種に乗るのはなかなか珍しいと思うのだが。中からレッシーも出てきた。元気そうだ。ここ1か月ほど散歩という苦行がなくなったので元気そうである。
「ああ、どうしてうちの店はこうなるんだ」
車から降りると父がぼやいた。
「おいって。跡形もないってもんよ」
「例の副店長もいなくなってすっきりしたんじゃないか。史君」
「おいって、副店長どこ行ったってもんよ?」
「わかりません。でもかたぎの人じゃなかったみたいなので、またどこか違うところで同じ商売をやっているかもしれません。ご了承ください」
「おっ、いつもの史くんにもどったのか。よかったよかった」
そういって父は二リットルのペットボトルを鞄の中から取り出すと、一口飲んだ。ペットボトルは千眼美子が笑っている。
「さっき本社に連絡して、事情を説明した。明日にでも見に来るそうだ。流石に定期的に爆破されては会社も大赤字だからな」
「おいって」
「次は鉄骨で、3メートルのコンクリートで覆われたセキュリティ万全の新店舗だ。超大型巨人が攻めてきてもビクともしないな」
毎回物理的な手段で破壊されているので、セキュリティ云々は関係ないと思うのだが。
「壁の中に合板の壁で囲まれた丈夫な店ができるんだ。矢でも鉄砲でも持って来い!がははは!」
父が笑った。壁に囲まれ、鈍い鉄の色の外観となるともはやコンビニではない。
「それでいいってもんよ?」
「いいんじゃないか?本社がそういってるんだから。がははは」
父は笑った。
「今日もいい天気だ」
「わん」
レッシーも鳴いた。