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弓彦と学園七不思議  作者: 廣瀬智久
14/18

幕間

 史銘陽は最近疲れている。


 理由は簡単だ。店長がどこかに出かけているので代わりの副店長がやってきたのだが、その副店長の手腕が現店長よりもずば抜けており、それについていくのが精いっぱいだからである。


 史銘陽の一日はこうである。


 出勤してペットボトルに水を詰めるとそれが飛ぶように売れる。それが終われば駐車場で副店長かどこからともなく持ってきた魚を売りさばく。アジが1匹100円、ナマコも100円なので飛ぶように売れる。汗だくになる。隣では若松の農家さんの産直市が開かれ、人が集まるのでどこからともなくテキ屋が現れた。駐車場からいい匂いが絶えない。


 魚を売れば次は焼肉である。昼になるとこれまた副店長がどこからともなく持ってきた簡易用コンロに炭を入れ、肉と野菜を販売し、駐車場のどこかで客は焼肉をする。しかも、熱いコンロの回収も史銘陽の仕事なので昼飯時は汗だくになる。焼肉が終われば店に戻りまたペットボトルに水をためて販売する。午後2時になればお客はようやく減り始める。この時間帯になると副店長は明日の打ち合わせがあるといって姿を消す。それから史銘陽の本来のコンビニ業務が始まる。


 これの繰り返しである。いくら20代の若い史銘陽でもここまでこき使われれば体は悲鳴を上げる。おかげで本来の学業に滞りが生じ始めた。レジで立っていると途端に眠気に襲われる。恐ろしいことに、肝心の副店長は70近い年齢のはずなのだが全く疲れを見せ図に走り回っている。ワーカホリック極まれり、である。


 しかも最近は出勤時間も早い。朝七時に開店し、午後8時には閉店してしまう。24時間営業のコンビニに開店・閉店時間はないのだが、副店長が言うにはこの時間に客はほとんど来ないので光熱費と人件費を考えると閉めた方がコスト削減になるというのである。確かに一理あるのだが、それでよいのか。本部とやり合っている姿をたびたび目撃したが、史銘陽にはわからない。楽なのだが夜勤の方が時給がよいので、複雑な気分である。


 仕事がひと段落した午後4時過ぎ、眠気を抑えながら史銘陽がレジで突っ立っていると女子高生が来店した。


「いらっしゃいませ。ご了承ください」


 声をかける。副店長は近くの市場に明日の魚を買い付けに行ったので不在である。売れないもの、賞味期限が短く、すぐ廃棄になるようなものは店内に置かない、というのが副店長の指示である。いままであふれんばかりにあった総菜はほとんど姿を消した。客は駐車場で買い物をするので店の中まで来るのはせいぜい『千眼美子の聖水』を買いに来る信者ぐらいである。


 来店した女子高生は、ふらふらと店内をうろついていた。何かを探しているようだったが、よくわからなかった。そのままトイレに入ると出てこなくなった。

 それから一五分ほどしたが、客は一人も来なかった。駐車場の的屋も店じまいしている。史銘陽は眠気をこらえて立っているだけで精一杯だった。


 さらに五分ほど経って、ようやく女子高生が出てきた。店内をうろつくと何も買わずに出て行った。彼女は何をしに来たのか。強烈な眠気と闘いながら史銘陽はぼんやりと眺めているだけだった。

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