第ニ話「ロボットを待たせる風骨」
風骨仙人は街を歩いていて、ロボット警官に職務質問をされた。
無理もない。風骨は腰に巻いたボロ布を荒縄で括っただけの、半裸状態であったのだから。
手には捩れた長い杖を持ち、裸足であった。
ロボット警官は、風骨の形のよい乳房に電子眼を向けたまま、
「止まれ。何者か? 何処へ行くのか?」
と問うた。
「私は仙人。当てもなく歩く者」
と答える風骨。
「仙人?! 神が最も初期に想像した人型生物。人外の能力を秘めたる者。さればその能力を示せ」
人体飛行の仙術を見せる風骨。
「成る程。人外の能力である。その猥褻物陳列罪的容姿は、人間ではないので、問題視されない」
「ありがとう」
「破壊、窃盗など無きよう、仙人。人外とて逮捕せねばならなくなる」
「気をつけるよ」
風骨は盗みをしないので、そのような見窄らしい格好をしていたのだった。
ロボット警官はパトロールを再開し、去って行った。
風骨は博物館の庭を横切り、城の建つ公園に足を踏み入れた。
そこにもロボット警官は居た。
「止まれ。何者か?」
そのロボット警官も、風骨の乳房を見つめているように見えた。
「何処に行くのか?」
「私は仙人。当てもなく歩く者」
先ほどと同じやり取りを交わし、今度は念力でロボット警官を空中高く持ち上げてみせた。
「成る程。人外の力。人間に害を成す可能性が高い。逮捕する」
(しまった、やり過ぎたか)
と思いながら、風骨は言った。
「おいおい、害を加えたくても、そもそも人間は滅びてしまったじゃないか」
「否。人間は滅びていない。海底や地底に逃げた人類の報告が上がっている」
初めて耳にする情報に、風骨は驚いた。
「それは確かか?!」
「確認は未だ不明ながら、人類生存の可能性はゼロではない」
「じゃあ、探しに行きなさいよ。こんな所で何をしているんだ」
杖先を突きつける風骨。
「ボクは公園のパトロールが仕事だ。人類探索の権限がない」
「しょうがないな。じゃあ私が地底でも海底でも探しに行こうか」
「お前の発言は不可解だ。何が目的なのか?」
「なに、仙術を教える相手がいなくなって、退屈していたのさ」
「実は、人間が姿を消して、我々も困っているのだ、仙人よ」
「任せろ。私は人外の能力を持っている。必ず見つけて来ると予言しよう」
風骨はそのロボット警官に希望を抱かせ、地底人、海底人の探索に出た。
成果を出すのには長い長い年月を要したが、かの公園のパトロールロボットが完全に機能を停止するまでには、帰って来れた。
「ごめんよ、遅くなって」
動かないロボットの、錆の浮いた背中を摩る風骨。
「人間は生きていたよ。あなたの情報通りだった」
かろうじて立っているパトロールロボットは、電子眼を瞬かせて風骨に感謝の意を示した。
地底人も海底人も、地上に戻ることを拒んだのだが、それはロボットには伝えなかった。
ほどもなくロボットは完全に機能を停止し、新しいパトロールロボットが配置された。
新しいロボットと、懐かしいやり取り、
「止まれ。何者か?」
「私は仙人」
を繰り返す風骨。
新型ロボットはグレードアップしていたらしく、
「ワタシの名は、アダム67。仙人の名前はなんと言うか?」
と聞いて来た。
「私の名は、風骨。歩き続ける者だ」
仙人風骨はそう答え、また旅に出た。
あてのない旅だった。
第三話も、今日中に投稿予定。時間未定。
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