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虫けら

作者: 岡村

君は何かを成すために生きてきたのか?


とあなたは聞いた。


わたしは

わからない

と答えた。


だろうね。


そう答えた。


何者かになることを目的とするのはよした方がいい。

何者かになった後も、なれなかった時も、君の人生は続いていくのだから。


男は

トン

と、自分の胸を突いた。


心臓?

生きている限り人生は続く

と、そう言いたいのだろうか。


目標や中間地点を設けないのは逃げではないでしょうか。

どうせ失敗するからやらない

と言っているように聞こえる。

わたしにはそれが賢い生き方だとは思えない。


なら愚かだと思うかい?


愚かとも思わないけど。

わたしはその道を選ばない。選びたくない。


ニヤッと笑った。

なんだかいやらしい笑みだ。

自分の主張が小馬鹿にされたような気がした。


わたしの言ってることはおかしいですか?


少し喧嘩腰だったかもしれない。

それでも出来る限りトーンを抑えたつもりだ。


いや、そんなことはしない。

愚者のカードが太陽を笑うかい?


男が息を吸い込むと、咥えた紙筒の先が赤く輝いた。


君はそうやって生きてきたし、これからもそうやって生きていくんだろう。

大いに結構じゃないか。格好良いよ。


彼が肯定するほどにわたしは馬鹿にされたような気持ちになって仕方がなかった。


地に沈んだものから学ぶものなど何もないよ。

地べたを這いずってるのはろくでもないものばかりだ。

だけどね


ククっと笑った。

炎は葉を煙に変え、不快な匂いに変わった。


時々ね。

這いずりまわってる虫ケラが無性に羨ましくなる時があるのさ。

あいつらには何か不思議な魅力があってね。

醜いくて、踏み潰せば簡単に散らせるような瑣末な存在さ。

でも何か、自分とは違う世界を見ているように感じることがある。

それは彼らが本当に光を放っているのかもしれないし、目標に向かう君が疲れてしまっただけかも知れない。

湿った岩の裏でのたうつ陰鬱な存在に心惹かれることなんてあるわけないのさ。

光に目を焼かれない限りはね。


根元まで吸い尽くされた煙は線香花火のようにぽとりと落ちた。


嫌な感じだ。

すごく嫌な感じだ。


希望など持つな

そう言われているような気分だ。


優雅な白亜の邸宅がいつの日か大波に攫われても、そこらの岩をひっくり返してみりゃ、案外生きてるのは虫ケラたちの方かもな。


それでもわたしは白亜の邸宅で死にたいです。


そうだな。それがいいだろう。

戦う前から負けちゃいけないよな。

最強の盾と矛を持っていても、闘志がなくちゃいけない。


そんな眉唾の武具に頼るのも人の弱さですかね。


男は膝を叩いて笑った。


眉唾いいじゃないか。

薄汚れたパチスロのコインだって、女神に託されりゃ幸運のコインになるのさ。

思い込みで結果を出せるなら上等だ。

あんたにやるよ。今日の記念だ。

俺にもらったんじゃアンラッキーコインになるかもしれないがね。


ありがとうございます。

ハンデを背負って結果を出せたならわたしの力は本物ですね。


いいね。

そうやってクソ生意気なツラしてた方が人生ってやつは面白くなるんだよ。俺が保証するよ。

湿った岩の裏からね。


ちょっと待っててください。



あっち、

なに?これ、奢ってくれんの?


コインと自己啓発セミナーのお礼ですよ。


カフェオレが良かったな。


選ぶ権利まで与えたらお礼の対価が高すぎるかなと思って。


違いないな。

クソ寒いから助かったよ。


なら帰ってくりゃいいのに。


やだね。

一度捨てたもんはいつまでも同じとこに落ちてねえんだよ。


バーカ。

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