悪魔ってこんな感じなの?
僕は夕闇に包まれた放課後の教室で異世界に行くために黒魔術を試している。幼少期に僕はアニメで異世界を救う勇者に憧れ、なりたいと思った。そして、それはいつしか憧れから夢になった。常に異世界に行く方法がないかとインターネットで調べたり、本を沢山調べたりしてみた、でも、どれもガセネタで実際に異世界へと行くことはできなかった。
だから、今日もガセネタだとは思いながらも胡散臭い黒魔術なんかに手を出して試して見ている。でも、ガセネタだと分かっていても心の中で期待してしまっている自分がいる。そんな自分がいるからこそ反吐が出るような絶望感を味わう。だから、僕は決めた。今日、異世界に行けなければ、異世界に行くこと諦めて、普通の高校生として生きていくと。
そう考えながら机を端に寄せ、教室の真ん中にチョークで円を描きその中に五芒星を描き魔法陣を作る。何とも黒魔術らしい……
「えっと、なんて唱えるんだっけな、『汝願いを聞き入れ給え、我願う。次元の扉を開口せよ!』だっけ?
うわ~!胡散臭!こんなで行けたら苦労しねぇつうの!」と独り言のように呪文と文句を言っていると、魔法陣から黒く怪しい煙が立ち込んだ。そして、中から声がした。
「誰だ!我を呼んだ不届き者は!」
黒煙の中から声がした。姿は煙で見えないが恐ろしく寒気がするような声だった。
「ぼくです。あなたを呼んだのは僕です!」
勇気を振り絞って精一杯の声で言った。正直、僕は異世界に行けるならば死んでもいいと思っていたし、転生という言葉もあるから、ここで死ねば異世界に行けるのではないかと思い、恐怖で震える身体を抑え勇気を振り絞って言った。
「貴様か!!!我を呼んだ不届き者は!許さんぞ!我を誰と思っている!我は悪魔界の王であるサタンだ……ん、ちょっと待ってよ、ここはどこだ?我が知っている場所ではないぞ?というかお主は人間か?ただの人間なのか?そんなバカな!ただの人間ごときが我を呼べるはずもない……熟練した100人の黒魔術師が手足や目を対価にしてやっと我を呼ぶことができるはずなのだが……可笑しい……そして、お、お主、何故ゆえ、無傷なのだ!?……でも、まぁいい、ここがどこであれ、お主が無傷なら痛みに悶えて我のせっかくの決め台詞を聞き逃すということはないじゃろうからな!このために我は数百年間考えに考え抜き、そして、『貴様か!!!我を呼んだ不届き者は!許さんぞ!我を誰と思っている!我は悪魔界の王であるサタンだぞ!』を閃いたのじゃ!だから、今回我はこのセリフを言えたから気分がいい!そして、久しぶりの外界だ!今なら、お主の願いを何でも聞いてやるぞ!」
えっと…………サタンって悪魔だよね?え?悪魔ってこんな感じなの?なんか凄い一人で喋ってるし……しかも、決め台詞ちゃんといえてないし、でも折角、願い事聞いてくれるっていうことだし、水差したら悪いよね……うん、黙って置こう!ええっと、あれ?可笑しいな、僕の願いってなんだっけ……衝撃的すぎて飛んじゃったんだけど…………うん、とりあえず謝ろう。
「すみません……願い事ど忘れしちゃったんで、思い出すまで少し待ってもらえますか?」
「え……願い事ど忘れしたって……どういうこと?ねぇ、我ビックリよ!今までそんな人いなかったよ!お主は本当に何者なの?」
「あ……僕すっか?赤城勇人です。普通の18歳の男子高校生ですよ」
悪魔に何者って言われるって普通じゃないのかな……って自己紹介しながらも思ったけど、異世界を救う勇者になる人が普通っていうのも可笑しいよね、あれ、っていうことは今の僕はあの憧れの勇者に近づいたってこと!……って、あれ?今大事なこと思い出した気がするけど気のせいかな、うん!
気のせいじゃないね!
「すみません、自己紹介したら思い出しました!ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
僕はサタンに一礼して謝った。
「いいよいいよ、そんな悪魔ごときに謝らないで!これからお主の願い聞く代わりに腕や足とか色んなもの貰うんだからさ、そんな謝られたら、こっちも気持ちよく引きちぎれないじゃん!『なんか悪いね、腕引きちぎるよ!』とか言えないじゃん、だからさ、いい人ぶらないで欲しいんだよね、こっちとしては、むしろ悪人とか欲深い人だったらさ、遠慮なく行けるんだよ、まぁ分かった?そういうこと!」
今この悪魔はなんて言った?願いと引き換えに腕や足を貰うって言った?え、そんなの聞いてないんですけど……何とかならないかな?でも、腕や足の一、二本無いハンデがある勇者の方がカッコイイか!じゃあいいか!うん、カッコイイよね!僕は不思議とどこからともなく謎の勇気が湧いてきて、異世界に行けるなら、もう怖いものなんて無いや精神になっていた。
サタンはそんな僕の脳内会話を遮った。
「話が脱線しちゃったけどお主の願いって何?あ、ちょっと待って!やり直させて!」
サタンはそう言うと咳払いをして言い直した。
「汝願いを言いたまえ。我願いを叶えよう」
先程まで消えていた圧倒的に恐怖感を煽るオーラを再び纏ってサタンは言い直した。サタンだけあって立っていられないほどのオーラを感じる。
俺は尻餅をつきながら叫んだ。
「い、異世界で勇者になりたい!モテたい!強くなりたい!お金持ちになりたい!魔王倒したい!………………………………ライトノベルの主人公になりたい!!!!!!」
「んん?ちょ、ちょっと願い多くない?一つにしてよ~強欲だな、そして、ライトノベルの主人公って何?でも、まぁ、いいか!とりあえず!異なった世界にいきたいんじゃな!よし!来た!」
「汝願い叶えよう」
サタンがそういうと先ほどまでサタンを覆っていた黒煙が今度は僕を覆いかぶさり、視界は暗闇と化した。僕は焦った。願いがちゃんと叶えてもらえてない気がする。だから、僕は叫んだ。
「え、ちょ、ちょっと、待ってくださいよ!ぼ、ぼくは、僕は……!ライトノベルのしゅ、主人公になりたいんだ!!!!!!」
僕の願いはどうやらサタンに届いたらしいが、帰ってきた言葉を聞き絶望した。
「それは無理じゃあ、、それではサヨウナラ」
どうやら僕の願いは叶えてもらえなさそうです……何か問題でも?