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7︰計画の始動は魔法にて

前世で言うところの体育館程の大きさがある研究室1で行われるのは魔法研究の授業だ。先生はヴェロニカ・ネテロ子爵夫人。彼女は魔力量は多くないもののコントロールにおいてはあのディーザス先生からもお墨付きを貰っている程で、21歳と若いものの信頼のある教師だった。

この授業では魔法の基礎についての座学や、魔法の新たな使用方法を考えるグループワーク、適正魔法や魔力コントロールの訓練等を行う。

今日は魔力コントロールの訓練で、2人1組になって互いの魔法を相殺し合うといった内容だった。

ペアは先生がランダムで決めた相手になる。俺のペアはカイン・イースルゴッテだった。彼は伯爵家の次男で嫡子、家庭内の立場的には俺と同じだ。灰色の髪と赤色の瞳が特徴的で、魔力量は平均より少し多いくらい。風と家系魔法である星魔法を使い、本人が自称する程平々凡々な男だ。だが記憶力は誰もが認めるほどで、座学の成績がずば抜けて良い。


「オ、オルフェン、よろしく。」

「よろしくするつもりは無い、さっさと始めるぞ。」

「お、おお…」


引き気味に返事しながら彼は俺から距離をとって向かい合った。約10m程の距離。そこから放出系の魔法、今回で言えば手から放つ魔法を使って相殺し合う。

この訓練では速度と威力のコントロールを行う。

まず片方が魔法を放つ。それを受けたもう一方が同じ威力とスピードで相殺できる魔法を放つ。流石に適正魔法があるので、同じ属性とは限らないが、相性は勿論あるのでそれも考慮しなくてはならない。

よって知識も感覚も技術も必要とされる、学生にもってこいの訓練なのだ。


まずは俺が受ける番だ。



「来い。」

「行くぞ!【風刃(ウインドカッター)】」

「【氷弾(コールドガン)】」


氷は風と相性が悪い為、少し相手より強めに出す。

するとぶつかった地点で静かに互いの魔法が散った。キラキラと散る氷結晶が美しかった。

と前を見るとカインが少し驚いた表情を見せた。


「…お前は人前で阿呆面を晒せと教育されたのか?」

「い、いや。…怒らないか?」

「フン、怒らせたくないのなら黙ればいいだろう愚図め。」

「それはそうなんだけど…」


正直なところ早く訓練を再開したかったのだが、カインは構える様子がない。ため息を吐きつつ、仕方無く話を聞くことにした。


「…いやさ、お前ずっと闇魔法を使ってただろ?氷魔法を使うところ、始めてみたから驚いたんだ。」

「……ああ。」


成程。先程から周りがざわめきながら此方を伺っていたのもそのせいか。

確かにあの事件からオルフェンは闇魔法に拘っていた為その他の魔法を学園で使ったことがない。だが俺には特に拘りは無いし、家で訓練は毎日しているのだから他魔法も精度は変わらない。なんなら1番好きなのは雷魔法だ。


「訓練を再開するぞ、構えろ。」

「ええ!?理由は教えてくれないのか!?」

「無駄口を叩くな喧しい。」

「ええー……分かったよ…」


俺が構えると渋々といった様子でカインも構えをとった。

5回交代制なので4回程異なる魔法をぶつけ合い、相殺した。学年首席どころか飛び級までしてしまうこの体は十二分過ぎるほど優秀で、さも当然かのように全ての魔法をミリも違わず相殺しきった。


「次、お前の番だ。」

「お手柔らかに頼むぜ。」

「甘ったれるな。【閃雷岩(フルグライト)】」

「【星雨(スターレイン)】!」


雷を纏う宝石と煌めく星の様な物質がぶつかり合い砕け散る様はキラキラと煌めいて幻想的だった。

ほんの少しだけカインの魔法の威力が強かった為完璧では無いものの、及第点には十分に到達しているだろう。


(どうやらカインは器用貧乏のようだ。)


5回とも問題なくこなし、俺達の訓練は終了した。

かなりハイペースで行った為、他のペアはまだ終えておらず、俺達は適当に腰を下ろして周囲の訓練を眺めることにした。


(レイモンド王子はやはり飛び抜けて上手いな…)


彼の相手はこのクラスで最も魔力が少なく、また扱いもお粗末な令嬢だった。彼はきちんと相手に合わせたレベルで弱く遅い魔法を放っている。それによってどうにか令嬢も相殺しきっているようだった。

俺の取り巻きをしている3人ー茶髪ボブがベイル・クルーベル子爵令息、茶髪1つ結びがジュノール・アルタ子爵令息、水色髪オールバックがノルマンド・シピア伯爵令息ーの様子を見てみると、それぞれペアと共に苦戦しているようだった。

暫くボーッと眺めていると、突然ノルマンドのペアが明らかに威力の高い風魔法を放った。魔力量の少ないノルマンドでは対抗し得ないものだ。慌てている彼と固まっているノルマンドを見て、俺は駆けた。咄嗟に、ノルマンドを想ってなどではない。理解して、思考した結果駆けたのだ。そう、計画の始動である。

悲劇の少年になる為には周りの好感度を少しずつ高めていかなければならないのだ。


「っひ、」

「【氷壁(アイスウォール)】!」


引き攣った声を上げた彼の前に走り込み氷の壁を創る。

ギィィンと衝撃音を立てて魔法同士がぶつかり、後に風魔法のみが消滅した。風魔法の消滅を確認して俺も氷壁を消す。


(あっぶなー……)


静まり返る室内に、慌てている先生の声が響いた。


「カイン君、オルフェン君、怪我は無い!?」

「だ、大丈夫です…」

「貴様本当に教師か?生徒より出遅れてどうする。」

「そうね、本当に危ないところだったわ。ありがとうオルフェン君。」


ヴェロニカ先生は礼と謝罪を口にすると、俺達に怪我が無いことを確認して魔法を放った生徒の元へ向かった。

横目に見ると彼は顔を真っ青にして震えているが、彼は確か王家派閥の令息で、王家よりも力を持つトゥレライラ公爵家とその支持をしている公爵家派閥を敵視している過激派だったはずなので、俺の取り巻きであるノルマンドを狙った悪意あるものだったのだろう。派閥問題にも色々あって複雑なので、後でまた紙に纏めておこう。計画にも関わってくるだろうから。

多分今回の件ではそこら辺も先生は分かっているので、恐らくは厳重な処罰が下されるだろう。

一通り思考し終えてノルマンドの方を向くと、彼はビクッと肩を揺らしてそれから震える口を開いた。


「オ、オルフェン様、助けてくださってありがとうございます。」

「俺の犬は随分と役に立たないようだな。」

「も、申し訳ございません!」


好感度を上げるために助けたが、気をつけろと言おうとしたらこうだ。

このまま会話を続けたらプラマイゼロどころかマイナスになりそうだったのでその場を後にした。俺が去ると直ぐにベイルとジュノールがノルマンドの元に駆け寄り心配していた。


(彼奴ら、結構仲良いんだな。)


俺の取り巻きとしての関わりしかないと思っていたが、彼奴らは彼奴らで友情が芽生えていたようだ。貴族は貴族でも、普通の、俺が前世で憧れた学生らしい一面もあるのだと少し安堵した。





「意外だな。」

「…なんです?藪から棒に。」


カインの元に戻る途中でレイモンド王子に声を掛けられた。笑みを浮かべて振り返れば訝しげな表情の彼が立っていた。


「お前が誰かの為に動くとは思えないのだが。」

「それは随分な評価でございますね。」

「……一体何を企んでいる?」

「人聞きの悪い。友を助けて何が悪いのですか?」

「お前に友などいるものか。」

「はは、手厳しい。それより殿下、訓練にお戻りください。ご相手が此方を見ておりますよ。」


確固として疑い続ける彼の相手が面倒臭くなり話を終わらせようとすると、彼は顔を顰めた。そして一言だけ残して訓練へと戻った。


(「俺は君を信用していない。」って、言われてもだな…)


そんな事は元より知っている。

それに、この計画の対象に王家は入っていない。何故なら面倒だから。それに、以前よりアルカリウムの味方である言動の多い彼らのことはまあまあ嫌いである。

父と兄の俺への認識を変えること、それから貴族間の悪名を雪ぐこと。この2つを達成出来れば万々歳だ。

だから、レイモンド王子の信用を得られなくたってどうでもいい。



カインの傍に腰を下ろすと彼が声を掛けてきた。


「やっぱりオルフェンって強いんだな!」


彼は能力こそ平々凡々だが、あまり物怖じをしない。俺に敬語を使わないところも貴重な人物だ。

特に返す言葉もなく黙って再開された訓練を眺め、ふとチラリと横を見ると、彼は口をムニムニと動かして少し嬉しそうな表情をしていた。


(変な顔…)


俺達は全てのペアの訓練が終わるまで、一言も喋らずただ眺めていたのだった。

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