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4︰銀の刃に心深傷

6歳の時、オルフェンは王宮騎士団の訓練兵の試験に落ちた荒くれ者4人に人質にされた事がある。4人の要求は馬鹿らしい事に騎士爵位を授かる事と王宮騎士団に入る事だった。




王宮で行われるデビュタントには、父と兄と共に参加した。母は当時精神を病んでおり、父が参加を許可しなかった。

一通り他者と交流した後、デビュタントする子は親と共に過ごすのが普通なのだが父が兄だけを連れて再び挨拶回りを始めたので、放っておかれた事に傷付きオルフェンは庭にでた。

王宮の広く美しい庭を見ていると、門の方から男達が言い争っている声が聞こえてきた。その声が気になって門の近くへ向かうと、門から少し離れたところにオルフェンは抜け穴を見つけた。子供一人が漸く通れる程度の小さな抜け穴だった。

オルフェンは好奇心からその穴を通り抜けた。

すると、門番をしている騎士達2人と声を荒らげている盗賊の様な格好をした男4人が見えた。体格の大きい彼等に少し怖くなって抜け穴に戻ろうとすると、男達に気付かれてしまった。

そして、オルフェンが貴族の子だと気付いた男達によってオルフェンは抱き抱えられ首に剣を突き付けられ、人質にされてしまった。


騎士達は直ぐ様応援を呼んだものの、オルフェンが正真正銘トゥレライラ公爵家の嫡子だと分かっている為に手が出せず、そのまま荒くれ者達は王宮の中へと足を踏み入れた。

激しい音を立てて王宮の扉を開けるとデビュタントを行っていた会場に集まっていた貴族が一斉に此方を振り向く。そして立ち待ち場は騒然とした。


「誰か!あの男達を捕まえて!」

「待て!子供が人質に取られているぞ!」

「あれはトゥレライラ家の御子息ではないか!?」

「子供達を避難させろ!」

「おいお前たち私を守らんか!!」


貴族達が騒いでいると、玉座に座る王が毅然とした態度で一喝した。


「鎮まれ。其方達には貴族としての矜持を持たぬのか。」


静かだが凛としてよく通る声に、皆が黙った。

王は荒くれ者達を見るとそのまま要望を尋ねた。


「要求を申せ。」

「はい、王よ。これまで私共は真摯に剣と向き合い、辺境の騎士団の一兵として民を守って参りました。」

「…………」


代表して前に出た男は腕を広げて自分達の功績を誇張して語る。その間にも王は黙って彼等を見下ろしていた。

表情が一切変わらない王を見て男は顔を歪める。ギリ、と歯軋りをするとこう言った。


「ええ、ええ、偉大なる王はこれくらいの事など気にも止めないと。では手短に要求を申しましょう。……我々の要求は2つ。騎士爵位の授与と王宮騎士団への入団です。」


固唾を飲んで見守っていた貴族達が騒めいた。

騎士達は荒くれ者達に殺気立っている。


「…成程な。確か貴様らは今年の王宮騎士団の入団試験を受けていたな……受かってはおらぬようだが。」

「うるせえ!それはテメェらが貴族を優先してっからだろうが!」


先程まで余裕の笑みで丁寧に話していたものの、王に入団試験の事を言われると直ぐに逆上した。先程騎士達に声を荒らげていた時もそうだったので、やはりこっちが本性なのだろう。


「騎士団には平民でも入団している者は居るが。」

「そんなモンたった数人しかいねぇじゃねえかよ!!」

「貴族ならば正しく訓練出来る環境があるが、平民にはそれが無い。だから鍛え上げられた貴族には実力者が多い。無論、型はなっておらずとも実力を持つ平民ならば入団させている。」


自分達の実力不足を棚に上げて差別を謳った男は、王によって直ぐに論破された。遂には歯軋りをして黙り込み、怒りで体を震わせている。

と、男が動いた。


「口答えするんじゃねぇ!!このガキがどうなってもいいのかぁ!?」


オルフェンの首元に剣先を当てて、男は力技に出た。

声すら出せずオルフェンは震える事しか出来ない。

目線だけで父と兄を探すと、それは直ぐに見つかった。

ただ冷静に此方を眺めている父と、そんな父の背に守られて怯えている兄。ーー多分兄を嫌いになったのもこの時だったーー

ああ、この人達は俺を助けてくれないんだな、と絶望した。そして唐突に死の恐怖が襲い掛かる。

呼吸が苦しくなったその時、オルフェンは突然解放された。

助けが来たのである。



「【(シャドウ)】」


小さく呟く声と共に4人の男が一瞬で黒い影に捕縛された。

黒い影を出しているのはディーザス・トゥモロウ伯爵。当時から王国最強と謳われ、唯一の全属性適正者である薄紫髪金眼の美男子だ。そして今の俺の学園の担任でもある。

精度の高い隠密魔法と、たった一つの闇魔法で皆が対処出来なかった荒くれ者達を一瞬で捕らえてしまうと、彼はオルフェンを見てこう言った。


「大丈夫か?怖かっただろう、よく頑張ったな。」


そして頭を撫でてくれた。

そんな事をされたのは初めてで、頭に伝わる体温と恐怖からの解放に訳が分からなくなって、オルフェンはその人に縋り付いて泣いてしまった。

因みにだが、この事件からディーザス先生はオルフェンが唯一信頼出来る人で、闇魔法に拘るキッカケとなった人だ。



オルフェン救出後、荒くれ者達は騎士団に引き渡され、処刑が言い渡された。今はもうこの世には居ない。

そして直ぐにデビュタントは解散となり、史上最悪のデビュタントとして歴史に刻まれる事となった。


そしてディーザス先生からオルフェンを受け取った公爵は、一発オルフェンを打ってアルカリウムと共に馬車へと向かった。アルカリウムはオルフェンを気にしながらも、父に着いて馬車へと向かう。

オルフェンは呆然としていたが、ディーザス先生にもう一度頭を撫でられるとハッとして、ディーザス先生に丁寧に礼を述べてそれから父と兄を追い掛けた。

その日は寝るまで頭に残る体温が忘れられなかった。

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