13︰情報屋
翌日。
屋敷の中でも母に接する機会が多い人物を考え、毒を持った犯人の候補を3人に絞った。
1人目は母の専属侍女、テリーナ・オルグス。
2人目は母が住まう宮である緋翠の宮の執事長、デリック・センドレイ。
そして3人目は緋翠の宮の料理長であるテディ・グロリアブ。
悲しきかな、否当然と言うべきか、3人が実行犯だったとして背後に大きな権力を持つ誰かが居ることは確定だ。この毒に致死性がなかったことから、母を傀儡としたい誰かの謀略も見える。
……そしてこれは最悪の場合だが。
父も、有り得るのだ。
母を傀儡としようと目論む、犯人候補に。
こういう何かを秘密裏に調べたい場合貴族は陰と呼ばれる裏筋に精通した信頼のおける従者を使うのが一般的なのだが、爵位を持たないただの子息である俺にそんな風に能力が高く信用できる専属従者がいる訳もないので、自分で動くしかない。
魔法の中で最も隠密に優れているのは、名から予想できるように闇魔法だ。
パソコンも何もないこの世界では情報源と言えるものは証拠か噂話程度。であるので、時間はかかるが実際の現場を虱潰しに抑えていく他ない。
俺は隠密魔法を自身にかけて、使用人達が集まる部屋へと向かった。
「──ねぇ、ここだけの話次期公爵って本当にオルフェン様だと思う?」
暫く影で様子を伺っていると、新人であるのか若そうな随分と命知らずな口の軽い侍女がそう言った。
休憩室であるこの部屋の中にはどうやら現在若い侍女が3人と執事が2人しか居ないようで、大きな声ではなかったが人より耳が良い俺にはしっかりと聞こえた。
使用人達の間で自分達がどのように話されているのか気になり、少し集中して耳を傾ける。
「いやぁ、どうですかね?公爵様はどう見てもアルカリウム様を推奨してるじゃないですか」
「そうよね、私もそう思うわ。だって食事の場でだって公爵様はアルカリウム様にしか声をかけないんだもの」
「食事の場と言えば、奥様見たか?オルフェン様の話を必死にしてたぜ。次期公爵の座を奪われるんじゃないかって必死なんだろう」
「うーん、奥様は第2夫人様の事お嫌いだったそうだからね。自分の子より第2夫人様の子どもが褒められるのが気に食わないんじゃない?」
「ヒステリックだよなあ、オルフェン様の事ってより自分の事を見て欲しいように見えるよ」
…段々と母の事に話が逸れてきた。
これ以上ここに居ても有益な情報は得られないだろうと思い、移動する。
もう直ぐ昼食の時間であるので調理場の方からたくさんの声や音がした。扉の付近に身を潜める。
………調理場の中からは、作業に関する声しかなかった。
チラリと中を覗くもあの茶葉に触れる者がいるどころか、在り処さえ分からない。
ここでも情報は得られないと考え、この場を後にすることにした。
本宮であるここで最後に毒に関する情報を得られるとすれば、残りは父の過ごす部屋か執務室だけだ。
この時間ならば執務室にいるだろうと思い、隠密を強くかけて執務室へと向かった。
予想通り、執務室からは父と王の側近の文官であるヒュウェル・ドートン侯爵、それから王の側近の護衛騎士であるドゥバ・エラミル侯爵が話している声が聞こえた。3人と現王は学園の同期だったそうで、かなり親交が深いらしい。今日は久しぶりに旧友に会いに来たようだ。
2人は貴族にしてはかなり根が優しく時折すれ違った際には、俺に最低限しか関わらない父を見て2人が俺に気の毒そうな視線を向けていた。
多分2人は、仲間に引き込める。
絶対的にアルカリウムの味方である父といずれ真っ向から対立することになろう俺にとって、2人を引き込めればかなりの戦力になると共に、父の信用を得ている2人の裏切りは父に大きな痛手を負わせられるだろう。
今はその為に母に毒を盛った犯人を探そうと思考を切り替える。
俺は、この人を1番疑っている。
「─────なぁ、イグリード。お前社交界じゃ噂になってるぞ」
「それぐらい知っている」
「なら何故態度を改めようとしないんです?原因は貴方でしょうに」
「ハッ、あの女がどんな性根をしているのか忘れたのか?私はアルカリウムを守ってやらねばならない。あの子はクレアに似て心が清らかだからな」
「オルフェンだってよく出来た子だろう?あの歳で高等部2年生に飛び級するなんて、前代未聞の快挙だぞ!あの女とは違うんだ、まだ子どもなんだぞ」
「だから何だ?アイツの悪評を知らないのか?あの女によく似ているじゃないか」
「まだ、子どもの癇癪で収まる範囲です。高位貴族にはよくある話ですよ、貴方が正してあげるべきだ」
「フン、私はあんな風に権力を笠に着る振る舞いをした覚えはないがな。お前達、説教をしに来たんだったらもう帰れ」
「だからお前とあの子は違うんだと………はぁ、分かった。今日のところはお暇させて貰う。また話そう」
「もうそろそろ意地を張るのはお辞めなさい、クレアはそんな風に子どもに辛く当たるのを望んではいなかったでしょう?…では私も、これで失礼致します」
「……………」
2人が執務室から出てくるようだったので、俺は慌ててその場を離れた。
そしてある事を思いつき、彼らに接触を図るために中庭に出てベンチに腰掛けた。




