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11︰逃げ場だったのだが

3限は剣術訓練の授業だ。

俺は常と同じ様に授業には出ず図書室へ向かい、授業後に担当の教師であるゴルド・アズペラ子爵に提出する論文を書く。彼は王宮騎士団の訓練長も務めている実力者だ。

因みに論文の内容は剣術における効率の良い訓練方法についてで、主に魔法との掛け合わせを書き記している。俺の論文は結構評判が良く最近では騎士団での訓練にも取り入れているとの話を聞いた。俺の家名をとってトゥ式訓練と呼ばれているらしい。



「あら、オルフェン様。」

「…奇遇だな、王太子妃殿?」

「ふふ、気が早いわ。」


論文を書き終え、適当に取った本を読んでいると背後から声を掛けられた。振り向くと、昼ぶりに会うフィアンがそこに居た。

1冊の本を抱えた彼女は他の席も空いているというのに、何故か俺の向かいに座り本を読み始めた。

本のタイトルは【歴史とマナーの関係】だ。


「…勤勉な事だな。」

「次期王太子妃ですもの。」


授業を終えているのに勉学に励んでいる様子は、正に貴族令嬢の、否学生のお手本のようだ。こんな人が王妃となるなら国の将来も安泰だろう。

と、暫く本を読みふけっていると、フィアン嬢の隣に誰かが座った。



「隣、失礼するよ。」

「ユリー様。」

「やあ、フィアン。」

「王太子殿下に御挨拶申し上げます。」

「オルフェン、ここは学園なのだから要らぬ礼儀は尽くさないでくれ。」

「申し訳ございません、性分なもので。」


この国の第1王子であり王太子である、ユリーテイル・ロイヤル・グウィルデラ。心優しき完璧王子だ。

彼は俺の無駄にへりくだった挨拶に溜息を漏らすも、直ぐににこやかに口を開いた。


「随分と、2人は仲が良いようだな。」


牽制されている。

にこやかに笑む口元とは対象的に、目に宿るそれは冷たい。俺は心の中で溜息を吐いた。

殿下とフィアン嬢はかなり仲睦まじいと評判だ。それもそのはず、殿下が明らかに彼女を大切に扱っているから。彼女を見る殿下の視線は熱く、彼女に擦り寄る子息達を遠ざけるべく腰に手を回すのを俺は何度も見た。ついでに言うと彼はアルカリウムと親友である為か、俺の事をあまり好いていないのだ。表情は取り繕われているが。

次期王と王妃が仲睦まじいのは結構な事だが、その影響が自分に向けられると正直言って面倒だ。


「次期王太子妃となられる方と仲が良いなどと、恐れ多いことでございます。」

「だからその態とらしくへりくだるのを………まあいい。ところで、何故ここに?授業中のはずではないか?」

「…王太子殿下ともあろう御方に私のような者を気にかけて頂くなど。」

「…減らぬ口だな。どうせ剣術訓練の授業なんだろう?」

「…流石殿下、他学年の授業も把握しておられましたか。」


殿下は呆れた様に溜息を吐いたが、俺は気付いていない振りをする。

俺が剣に対してトラウマがあると打ち明けた人はディーザス先生やゴルド先生ぐらいだが、俺が剣術訓練に絶対に参加しない事は学園の生徒なら誰もが知ることだ。貴族の情報共有速度は速い。だから、史上最悪のデビュタントと呼ばれるあの日の事を知る殆どの貴族の間では、俺が剣を握ることが出来ないのでは、と囁かれている。


さて、本当にその通りで俺は剣を握る事さえ出来やしない。剣を握るとその瞬間にあの日の恐怖がフラッシュバックして動けなくなってしまう。

と、考えている今でさえ少し手が震えそうになる。



「…ところで、オルフェン。最近は(トゥレラ)の噂を聞かないな。」

「私など、誰の目にも留まらぬ路傍の石でございますので。」

「ふ、よく言う。君の様な人間でも高熱を出せば良心が芽生えるのか?」

「何を仰いますか。私は元来世間に一滴の害も与えられぬ様な小物でございます。善も悪もございません。」


殿下がいつになく話しかけてくるが俺は話を終えたくて仕方がない。

それに、微笑みながら腹を探ってこられるのは良い気分では無い。まあ、貴族だから当たり前にやる事だが。


「そう言えば、ノルマンド・シピアは無事か?何やら事件があったとようだが。」

「流石、御耳が早い。シピア卿は元気ですよ。ヴェロニカ先生がキュリオ卿を直ぐに抑えて下さったので。」

「ほう?風の噂では君がシピア卿を魔法壁で護ったと聞いたが?それも、氷魔法で。」

「はは、級友の危機ですから。それに、私が持つ魔法の中では氷魔法が最も防御力に優れておりますので。」


どうやら殿下は最近俺が悪事を働かなくなった上に級友を庇ったと聞いて怪しんでいるようだ。それから闇魔法ではなく氷魔法を使った事も。何か企んでいるのではと思われている。

企むも何も、悪事を働く必要も闇魔法に拘る理由もなくなっただけで。だが前世の記憶が蘇ったから等と言える筈もない。


これ以上言う事は無いですよと、俺は微笑み返して殿下から目を逸らさない。殿下も俺から目を離してはくれない。

暫く微笑みながら見つめ合う気持ちの悪い時間が続いたが、終わりを告げたのはフィアン嬢だった。



「ユリー様、そろそろ3限が終わる時間ですよ。」

「ん、もうそんな時間か。助かるよ、フィアン。」

「いいえ。」

「では私はこれで。失礼致します王太子殿下、次期王太子妃殿下。」

「……ああ、また。」

「またお会い致しましょう。」


図書室を出ると丁度チャイムの音が鳴った。

そのままゴルド先生の研究室へ向かい、授業を終えて戻って来た彼に論文を渡した。

軽く目を通した彼に出席扱いにすると頷かれたので、挨拶をしてそのまま校門へ行く。

待機してあった家紋が飾られた馬車に乗り、帰宅する。


そうして転生後初の学校生活が終わった。

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