ただの肉塊に君は何を想うのか
「愛なんて存在するものか」
放課後。屋上。勘が良ければこれだけで状況は理解できる。
それが告白への答えだった。
拒絶でも肯定でもなく、返したのは疑問。
愛とは人を想う事。その人のために想う事。
しかし人は我欲を満たすだけの生き物だ。
異性を想うのは性欲で。
子を想うのは責任と哀れみ故。
友人を想うのは帰属意識や自身の娯楽のためだろう。
人は自分のことしか想えない。
だから愛など存在しないのだ。そう確信している。
しかし彼女は言った。
「君を愛している」
「それは愛ではない。飾らず言えば性欲だ」
「なんて酷いことを。乙女に向かって失礼じゃないか」
彼女は傷ついたと言わんばかりに胸に手を当てる。
微笑みを湛えたまま。
「愛を信じられない哀れな君。ならば教えてあげよう」
ひらりとスカートを靡かせて、彼女は悠々とフェンスへ向かう。
飛び降り自殺——そんな言葉が頭に浮かんだ。
「試そうか。落ちれば『私』は消えるだろう。真っ赤な肉塊に君は何を想う?」
フェンスに手を伸ばす彼女。
気づけば、その肩に手が伸びていた。
その瞬間、視界は濡鴉の黒で塗りつぶされて——柔らかい何かが唇に触れた。
「それが愛だ。面倒な御託はいいから、黙って私に愛されなよ」