シオンとの出会い
ラブコメではないですが、感動できる作品になっています。(多分)
「ねぇ」
「あなたはなんで私の手を引っ張るの?」
女児は問う。しかし俺は答えない。答えるよりも先にこの子に温かさをあげたかった。
「ほら、家着いたぞ」
どうしてこんな言葉を発したのかは自分でもわからない。俺の家はこの子の家でもないというのに。
なぜ俺がこの子を自分の家に連れてきたかというと一時間前の話だ
それは仕事で疲れている俺が毎日見る見飽きた景色をほうけて見ながら帰っていた道の途中だった。もうそろそろ寒くもなってくる時期にTシャツ一枚と薄いスカートという恰好を見て異常だと思った。こんな時期にこんな格好をさせるのは流石におかしいとは思った。
でも俺はこの子を見放せなかった。その理由は、この子の頬を伝う一粒の雫だった。
「...」
これを見て気にするなというほうが難しいだろう。
「キミ。お母さんかお父さんは?」
「いない」
「え?そうか...」
「じゃあ...」
ということがあって今に至る。
「キミ、名前は?」
「...オ..ン」
「シオンっていう名前?」
「うん」
正直、いきなり見知らぬ男の家に連れ去られたら怖いだろう。でもこの子が話す通りなら親がいないということになる。つまりこの子は生活できるかすら危ういんだ。
そしてこの子..シオンはかなり心も体も傷ついた様に見える。
俺としてもシオンが親からの愛を十分に受けれていないのなら、俺がシオンに愛を教えたい。そう思ったから今のこの状況になっているんだと思う。
「おじさん...」
「どうした?」
「これから私、おじさんの子供になる?」
「それは俺にもよくわからないよ」
「お腹空いた。ご飯ほしい。」
「ちょっとまってろ。今作るから。」
そうして俺は台所に向かった。
「なにがあったか話せるか?」
そう俺が問うとシオンはどこか怯えたような表情になった。
流石の俺でも何があったかは大体想像はつく。
「おじさんの名前なに?」
「俺?俺は連っていうんだよ」
「じゃあ連!!」
「これからシオンにいろんなこと教えて!」
「あぁ。勿論。」
「もちろん?ってなに?」
「あぁえぇと、いろんなこと教えてあげるからな!」
そう俺が言うと
「うん!約束!」
「じゃあ早速シオンに小指で交す指切りげんまんを教えてやる。」
「なにそれ!教えて!」
シオンが元気そうに喋っていたので俺は少し安堵した。
「ほら、小指出して。」
「...こう?」
「で、指切りげんまん嘘ついたら針千本飲~ます、指切ったっていうんだぞ」
「分かった!」
「せーの、「「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲~ます、指切った」」
「はい。シオンと俺の最初の約束な。」
「うん!」
とりあえずシオンの笑顔が見れてよかったと思うのが先であり、事情を聴くのはもう少ししてからにしよう。
「ほら、オムライス食べよう」
「「いただきます」」
なんというか前日までの俺の家と俺の心に光が差したような感じだった。実際、シオンは小さめな体ではあるがかなり美人だ。何歳なのか聞いていなかったな。
「シオンは何歳なの?」
「シオン?15歳だよ!」
えっと口から声が出そうになった。ちょっとまて、15歳?!
小学生くらいにしか見えなかったぞ?!
「学校はいけてないのか?」
「うん...」
「あ、いや怒ってるとかじゃないから勘違いしないで!?」
「うん...」
「とりあえずオムライス食べ進めよ!」
パクパク。そんな擬音がほんとに聞こえてきそうなかわいらしい食べ方だった
「えーっとね。シオンはね、お母さんとお父さんに捨てられたんだと思うの」
わかってはいたがかなり心が痛む内容だった。こんな小さい子供を捨てるというのは相当ななにかがあるとは思う。しかし今シオンを温まらせるためには、そんなことではなくこれからどうしていくかだと思った。
「お母さんとかにね、酷いこと言われたり、勉強もさせてくれなかったり、たまに頬っぺたも叩かれたし、お父さんには出てけって言われて今出てってるの。もう二度と帰らないと思う。」
「...連...胸貸して..よ」
「あ.うん、いいけど...ってシオン?」
その時俺の胸が温かくなると同時にシオンから熱い雫がこぼれたのを見てしまった。
「...連。あん..まり..見ないで..」
「シオン...我慢しなくていいから、全部吐き出してくれ」
「うっっ..」
その時から小さな嗚咽が聞こえてきた。
頼りない俺の背中を抱きしめて俺もしっかりとシオンを抱きしめた。
大きくはなく小さすぎるわけでもない鳴き声は全部シオンからあふれ出るもの
シオンの悲しみをすべて俺が解消することはできない。しかしシオンがいままで溜め続けたものを少しでも減らせるのならと俺の力にも力が入る。
シオンはずっと一人で耐え続けてきたのか。そんなシオンの鳴き声と
『支えて』と言ってるように俺の背中を強くつかむのを感じて俺も少しだけ泣いた。この涙でシオンと分かち合えるかと言えばそうではないだろう。
そしてシオンは長くは泣かなかった。
シオンの悲しみ、苦しみの大きさからしてもっと泣いてもよかったと思ってしまうところはある。でもさすがにずっと泣いていたら疲れてしまうだろう。
シオンが抱きついていた俺のTシャツは涙でぐちゃぐちゃだ。
「連..ごめんね」
「なんで謝るんだよ友達だろ?」
「と..もだ..ち」
「とりあえず今日はこの家に泊まってくれ」
「う、うん」
子供というか友達みたいな関係で今後もやっていけばいいと思った。
愛をシオンに教えたい。
この作品は同人サークルA1stのlostが書きました。この作品を読んであなたの心に響いたら幸いです