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第三十八話 オルガネラの秘密

 イブとフェノとの戦いを終え、俺は仲間たちと合流した。

 そして、オルガネラの家族であるアリスとテレスの案内のもと、オルガネラの屋敷にやってきた。……はずなのだが。



「お嬢! 屋敷が! 屋敷がないッスよ!!」

「うるさいですわよテレス。屋敷がないことくらい、言われなくてもわかって……。屋敷がありませんわ!!」


 こんな調子である。


 アリスとテレスの言葉通り、不気味な雰囲気が漂う広い庭の奥には、巨大な氷塊があるだけで、建物の姿は確認できない。


 いや、よく見ると、氷の壁の奥にうっすら建物のようなものが見える。


 あれがオルガネラの家なのか? 確かここに来るときは、5階建てだって聞いてたんだけどな。


 氷に包まれた建物の手前に人影が見える。

 頭を抱えたエリスと、水色のポニーテールの少女から治療を受けるエリト。

 そして、水色のサイドテール少女と泣きながら抱き合う、金髪の壮年男性の姿があった。


 これは、いったいどういう状況なんだ?


 ――§――


「――ということがこの屋敷で起こったわけだ」


 この屋敷の主、オルガネラは静かに呟いた。


 オルガネラの屋敷にある広間でテーブルを囲んだ俺たちは、エリトとエリスがこの屋敷に着いてから何があったのかを聞いた。


 なんか、自分で説明したかのように締めたけど、状況説明をしたのはほとんどネリーゼっていう女の子だったな。


 この屋敷は、1階部分こそエリスが氷の魔術で守ったものの、2階から上はエリトとオルガネラの戦いで吹き飛んだらしい。

 そのため、この部屋には天井がない上に、周りが氷に囲まれているのでとても寒い。


 なぜか天気も悪いし。


「つまり、最終的にエリトの旦那の技で、この屋敷はこうなったって訳ッスね」

「それは……。そうだな。言い逃れはすまい。その通りだ。すまなかった」


 テレスの言葉に、エリトが目を伏せ謝罪する。


「待てテレス。エリトだけのせいではない。戦っていた私にだって責任があるのだ」


 話を聞いていたオルガネラが、2人の間に割って入る。


「ああ、勘違いしないで欲しいッスよ。自分はただ、状況を整理したかっただけッス。ねぇお嬢」

「そうですわね。どうせ、2階より上は空き部屋とお父様の部屋しかなかったですし。屋根さえ直して頂ければ、私は文句ありませんわ」


 こいつら、自分たちの屋敷が半分以上吹き飛んだというのに、随分落ち着いているな。


 まぁ、実際彼らの生活スペースはほとんど1階に集中していたらしいので、使っていない空き部屋が吹き飛んだって……ん? 

 今、オルガネラの部屋も吹き飛んだって?


「いや、お前たち。私にも責任があると言ったが、もう少しだな――」

「お父様。自分のせいでもあると1度言ったのですから、メソメソするのは男らしくないですわよ!」

「それはそうかもしれんが……」


 何かを言いかけたオルガネラは、アリスに制止され、口を噤んだ。


 それにしても、こいつがあのオルガネラか。


 椅子に座って小さくなった金髪の壮年男性を改めて見る。


 未来予知にすら匹敵する慧眼を持ち、権謀術数をめぐらす知将として名を馳せた元騎士団長。

 現騎士団長のエリトと同等かそれ以上の剣術の腕を持ち、魔術師でも難しいと言われている上級魔法も操る最強の男。


 実際ただ者ではないんだろうが、目の前の男からは、どうにもその威厳が感じられない。


 能ある鷹は爪を隠すってことか?


「ふぅ。この状況を見たときにはどうなることかと思ったけど……。とりあえず、魔獣討伐に向けて状況整理しようか」


 一旦場が収まったタイミングで、セルラが切り出す。


 かつて邪悪な竜を討伐した、俺、エリト、エリス、カラム、アミラの五人。

 光属性に特化した異世界転生者のイブと、召喚魔法に特化した、同じく異世界転生者のフェノ。

 アミラの弟で、最高ランクの冒険者である魔術師のセルラ。

 更に、同じく最高ランクの冒険者である、先代の騎士団長オルガネラ。その家族である魔術師のアリスと槍使いテレス。ネリーゼとネムシー姉妹。


 合計13人が、このテーブルを囲んでいる。もっとも、ネムシーとネリーゼはまだ子供だし、邪悪な魔獣の討伐に挑むのは危険すぎるため、残りの11人で向かうことになる。


「これが今の僕たちの戦力だ。ここまではいいね? 次に魔獣の居場所と状況、突入の作戦だけど――」

「む? 待てセルラ。13人だと?」


 状況を説明するセルラを、深刻そうな顔をしたオルガネラが遮る。


「困ったな。なぜこうなった? ……そうか。アミラ殿とカラム殿か。彼らを計算に入れていなかった。……お土産の温泉饅頭が9個しかない」


 一同が沈黙に包まれる


 いや、何言ってんだよこのおっさん。アミラとカラムと自分を抜いても、どっちみち足りないだろ。

 いやそうじゃなくてさ、空気読めなすぎだろ。どうすんだこの状況?


「……オルガネラ。緊張を和らげようとしてくれるの嬉しいんだけどさ、まず話を進めていいかな?」

「……それもそうか。では、一応饅頭を取りに……。いや、饅頭は私の部屋に置いてあったはずだが、まさか……!?」

「お父様! 人様の前で喧しいですわよ!」


 一人でボケを続けるオルガネラを、アリスが叱りつける。


 こいつ、やっぱりなんか変な奴だな。



 ――§――



「オルガネラ」

「む? ニシヤ殿か。どうした?」


 打ち合わせが終わり、解散した後、俺はオルガネラに声を掛けてみた。


 俺たちが港で凶暴化した魔物たちと戦っていた頃、別の場所に他の魔物を誘きだし、戦力を分散させてくれたこと。

 それから、異世界修行の為の「境界結晶(きょうかいけっしょう)」を王国から借りやすくするために画策してくれたことへのお礼を言うためだ。


「そんなことがあったか? 確かにネムシーやネリーゼが好きな干し肉を、王国の食糧庫から拝借したが」


 しかし、返ってきた返答は意外なものだった。


 謙遜している……ようには見えないな。


「ところでニシヤ殿。みんなの前では言い出せなかったのだが――邪悪な魔獣とはなんだったか?」

「……。は?」


 その後も、オルガネラからいろいろ話を聞いて、わかったことがある。


 結論から言うと、こいつは――物凄く強運で、物凄く頭が悪い奴だった。


 今回の騒動についても、彼は干し肉を王国から強奪し、温泉旅行に行ってきただけだったようだ。


 そしてそれが、結果的に魔獣退治にプラスに働いたと。


 目を閉じることで相手の剣を完全に防げるのも、直感を信じて剣を振っているだけ。


 とするとだ、こいつが騎士団長だった頃の王国騎士団は、彼の直感で動いた結果、"たまたま"素晴らしい戦果を上げていたということになる。

 彼は事前に作戦を明かさないことで有名だと言うが……。


「ニシヤ殿、どうかしたか? 顔色が悪いようだが……」

「いや、大丈夫。ちょっと風に当たってくるよ」


 この話は、絶対に人に言ってはいけない。聞かなかったことにしよう。

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