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第三十五話 姉弟の想い

月輝魔法げっきまほう! 〈賢者(けんじゃ)(うみ)〉!!」


 アミラの周りに浮かぶ無数の球体から、白い魔力が水流となって放たれ、セルラを襲う。


 今までの月光魔法と大きく違うのは、術者であるアミラの魔力が続く限り、発動した魔法がいつまでも残り続け、アミラの意思に従って相手を襲い続けることだ。


 放たれた水流は、土の壁に阻まれても、風の刃に切り裂かれても、流動的に姿形を変えてどこまでも相手を追い詰める。その様子は、さながら命を持ったスライムである。


 そこでセルラは、変則的な動きで逃げ回り、数多の水流を誘導しつつ、風の魔術で水流同士の軌道を反らして相殺することで、攻撃を凌いでいた。


「デンプン無しでここまでやるか……。異世界での試練を乗り越えただけはある。けどそれでも――この程度か」

「セルラ……。これでもまだ、私の力を認めてはくれないの?」


 オルガネラの屋敷へ向かう途中の草原。仲間たちと別れ、アミラは彼女の力を試すと言って勝負を挑んで来た実の弟、セルラとの戦いを繰り広げていた。


「魔獣は僕より強いんだ。僕の攻撃すら防ぎ切れないようなら、足手まといだよ!」

「っ!?」


 今まで防戦一方だったセルラが、反撃に転じる。


 アミラが異世界での修行で身に付けたのは、発動後も効果が継続する〈月輝魔法げっきまほう〉と、食べれば魔力を増大させるデンプンを、イメージで食べたことに出来る能力だ。


 対してセルラは、数多の魔法を操るセンスと、最高ランクの冒険者としての戦闘経験でアミラに対抗していた。


 風属性の中級魔法〈ウインドルート〉によって作り出した風のレールに乗って高速で移動しながら、更に複数の無詠唱魔法を同時に発動する。並外れた魔力制御力の成せる業である。


 アミラの攻撃を〈身体強化〉と風の魔術で回避しつつ、正面から炎魔法の火炎弾、足下からは土魔法の岩石弾、頭上からは雷魔法の雷撃を放ち、アミラに波状攻撃を仕掛ける。


 そんなセルラの攻撃は全て、アミラの周りを縦横無尽に飛び回る〈賢者の海〉の白銀の水流に飲み込まれ、アミラにダメージを与えることは出来ていなかった。

 しかし、無視できない威力で放たれ続ける魔法の連続攻撃は、それらを防ぎ続けるアミラの精神を確実に追い詰めていた。


「本気……なんだね。だけど私も……立ち止まれない。世界を守るために……覚悟を決めるよ!」


 ここでセルラを倒せなければ、仲間と共に邪悪な魔獣を打ち倒す道は閉ざされる。弟を傷つけることを躊躇っていたアミラの迷いが消える。


 アミラの感情に共鳴する様に、〈賢者の海〉の勢いが爆発的に上昇する。


 迸る水流が鞭の様にしなり、セルラの魔法を悉く弾き飛ばしていく。そしてその勢いのままセルラめがけて一斉に降り注いだ


「そう来なくちゃね……。でなきゃ意味がない」


 セルラは静かに呟くと、ゆっくりと右手を伸ばす。そして――


「月影魔法<嵐の大洋>!」


 セルラが突き出した掌に黒い渦が現れ、アミラの攻撃が吸い込まれていく。


「セルラ、その技じゃ……私には勝てないよ」


 魔法の発動の為に足を止めたセルラを目掛けて、アミラの追撃が一斉に降り注ぐ。


 セルラを狙った幾本もの水流が、滝壺に落ちるような勢いでセルラの魔法に飲み込まれて行く。それはアミラにとって圧倒的に有利な状況だ。


 セルラの魔法〈嵐の大洋〉は、吸収した物理的な衝撃および、魔法に込められた魔力に応じて、自身の魔力が消費される。

 魔法を放ち続けるアミラと、それを吸収し続けるセルラ。この状況は、いわば魔力比べのようなものだ。


 魔法の技術では敵わなくとも、魔力の量ではアミラが圧倒している。今は拮抗しているように見えても、すぐにセルラは魔力枯渇を起こすことになるだろう。――今までならば。


「セルラ……もう充分でしょう? これ以上やったら――」

「そうだね……。もう、充分だっ!」


 セルラが一粒のカプセルを口に含み、噛み砕く。その直後、セルラの左目が水色に輝いた。


 セルロース。アミラがデンプンを魔力に変換できるように、セルラもまた、切り札を隠し持っていたのだ。


 セルラの魔法〈嵐の大洋〉の黒い渦が、瞬く間に膨張していく。彼の身の丈の倍ほどにまで膨れ上がったそれは、内部に無数の光を内包し、まるで夜空を切り取ったかのようだ。そして――


「セルラ! その魔法は!?」

「姉さんを……魔獣の元へは行かせない!」


 吸収の魔法が反転する。吸い込んだアミラの魔法が一気に放出され、白銀の津波となってアミラに向かう。


 受け続けた攻撃を全て凝縮して放たれた一撃は、今までのアミラの魔法の比ではない。

 自身の最大の攻撃を数倍の威力で返されたアミラは、まさに絶体絶命だった。


 しかし、その瞳に映るのは絶望ではない。


「セルラ……あなたの気持ちはよくわかった。だけど私は……。私は、デンプンが好きなの!!」

「は!? 何を言って――」


 迫りくる津波を前に、アミラがおもむろに小瓶を取り出し、中に入ったデンプンを一気に口に流し込む。

 異世界の修行でデンプンを摂る必要が無くなったアミラにとって、それは意味の無い行動のはずだった。頭の中で思い浮かべるだけで、デンプンを摂ったのと同じ状態になれるのだから。


 だが、それではダメだった。アミラにとってのデンプンは、魔力の源であると同時に、大切な嗜好品でもあったのだから。


 アミラの身体が仄かな光に包まれる。夜空を優しく照らす月の様に。


「これが私の気持ち! 月輝魔法げっきまほう! 〈Moonlightムーンライト sweetheartスイートハート〉!!」


 一筋の月明かりが指す。ほんの一瞬訪れた静寂の世界で、アミラが放った優しい光が白銀の津波を飲み込み、小さな星空を貫く。大地を慈しみ降り注ぐ月光のように。


「こんな……ことが……」


 全ての魔力を込めた自身の切り札が打ち砕かれ、セルラは力なく地に伏した。


「セルラ!」


 アミラは倒れた弟に慌てて駆け寄り、回復魔法を掛ける。


「まさか……僕が負けるなんてね。僕はただ、姉さんを守りたかった。そのために旅に出て、強くなったっていうのにな……。魔法の力は想いの力。それが足りなかったってことか」

「そうじゃないよ」

「じゃあ、なんで――」

「姉弟を大切に思うのは……私だって同じ。さっきの戦いで、あなたの気持ちは……よくわかったよ」


 目を見開くセルラに、アミラは続ける。


「月光の森は……私たちの故郷。あなたがいつでも帰ってこれる場所。私はそこを守りたかった。あなたがどこに行っても、帰って来れるように」

「はっ、ははっ。なんだよ……それ。旅に出て、いろんなものを見てもなお、僕は1番大切なものが見えていなかったのか」

「ううん。セルラは……よく頑張ったよ。だから、一緒に行こう。一緒にこの世界を守ろうよ」


 差し伸べられた手を、セルラは静かに握る。


「それにしても、姉さんの口から『〈sweetheartスイートハート〉』だなんて。意味わかってるのかい?」

「うん……。大切な人。セルラは大切な家族」

「まぁ……そうだけど、デンプンがどうとか言ってなかった?」

「デンプンも好き。セルラと……同じくらい」

「なんだよそれ。まぁ、姉さんらしいか」

「……?」


 呆れ笑いを浮かべるセルラに手を引かれ、アミラはオルガネラの屋敷へ向かって歩き出した。




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