第ニ話 勇者の力?
初日なので2話連続です!
明日から暫くは、1日1話ペースで投稿していきます!
後書きに次回予告なんかも書いていくので、良かったら是非読んで下さいね!
翌朝。目が覚めたら大学に戻っているなんて事もなく、俺は港町「アーメリア」の宿屋のロビーで、中二病兄妹と朝食をとっていた。
もっとも、ここに来る途中で二人が魔法を使っているのを見てしまったので、中二病という認識は改めないといけないわけだが。
ちなみに献立は、サラダとパン、そして一尾の焼き魚だ。
ここ「アーメリア」は、海に面した港町で、漁業が盛んらしい。そういう背景もあって、焼き魚は脂が乗っていてとても美味しかった。一人暮らしの俺にとっては、久しぶりのご馳走だ。
しかし、魚の味に反して、俺の気持ちは暗かった。
「良く眠れたかしら?」
「朝食は大事だぞ。無理にでも食べておけ」
「あぁ。うん」
昨日会ったばかりの人に、宿代まで出してもらって。なにやってんだろ俺。
もちろん、自分の宿代くらいは払おうとしたのだが、「玩具のお金で会計なんかできるか」と店員に怒られてしまったのだ。
「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺は『ファンタベル王国第一騎士団長エリト・リトール』だ」
「私は『ファンタベル王国の魔術師団副団長エリス・リトール』よ」
黒いコートを纏った銀髪のお兄さん。続けて、青いコートの黒髪の妹が名乗る。
お兄さんが「エリト」で、妹が「エリス」か。普通に日本語使ってるけど、日本人じゃないんだな。
「俺は『西谷稜太』だ」
「『ニシヤ』か。珍しい名前だな」
「そうね。これも『勇者』の特徴のひとつと言われているわ」
どういうこと? 勇者の設定どうなってんだよ。
「さっそくだけど、現状の整理をしておきましょうか。まずニシヤさん。あなたは異世界からの転移者なのよね?」
「うん。そうみたい」
ここが異世界なのは間違いないだろうな。ここに来る途中で、魔物と呼ばれる見たこともない生き物に何度も襲われたし、魔法ってやつもこの目で見た。
「そして、『勇者』であることは隠している」
「だから、『勇者』じゃないってば」
これははっきり言っておく。ただの大学生である俺が、『勇者』の訳がない。
「無理もないだろうな。ニシヤはこの世界に転移してきたばかりだ。素性のわからない相手に、むやみに正体を明かしたりはしないだろう」
「それもそうよね。『勇者』に憧れる人間ばかりじゃない。謀略に利用しようとしたり、嫉妬や逆恨みの対象になることもあるんでしょうし」
そうきたか。というか、結局「勇者」ってなんなのさ。
――§――
二人から聞いた話を、俺なりに纏めてみる。
「勇者」とは、世界に災厄が迫った時に異世界からやってくる存在で、勇者以外の転移者は存在しないため、転移者=勇者であると断定できる。
今回の災厄は三ヶ月程前に現れた邪悪な竜のことだと思われる。
邪悪な竜というは、どこからともなく現れ、隣国のデルタリア王国を蹂躙した魔物だ。その竜の魔力のせいで世界中の魔物が凶暴化し、王国は各地の防衛のために、多くの人員を割いている。
エリスとエリトは、邪悪な竜の討伐の為にファンタベル王国からやって来た。多くの軍を引き連れると、邪悪な竜やその配下に気付かれて警戒されるため、少数精鋭で戦いに挑む必要がある。
そして、俺にとって最も重要なこと。転移してきた「勇者」は、転移の理由となった災厄を取り除かなければ、元の世界には戻れない。
もしかして俺って、自覚がないだけで、実は本物の「勇者」ってこと?
しかも邪悪な竜を倒して世界を救うなんて、まさに王道RPG! 俄然やる気が出てきたぞ!
「というわけで、『勇者』であるニシヤさんにも、邪竜退治に同行して欲しいの」
そう言って、エリスは鞄から水晶を取り出す。水晶には「51476」という5桁の数字の羅列が浮かんでいた。
「これは?」
「『魔力水晶』だ。触れている者の潜在魔力量――すなわち、万全の状態で扱える魔力の量が表示される。ニシヤの戦力がどの程度なのか、把握しておきたいからな」
エリトが水晶の説明をする。
エリスがテーブルに水晶を置くと、水晶に浮かんだ数字が消えた。
「なるほどね」
「この数値が大きいほど、使える魔法の種類と威力が上がると思っていいわ。もっとも、実戦では魔力制御の技術の方が重要なのだけれどね」
ちなみに、この世界の成人の魔力量はだいたいこんな感じだそうだ。
一般人:300程度
冒険者:1,000~3,000程度
冒険者(魔術師職):5,000程度
王国魔術師団員:8,000程度
って、エリスの魔力量高くないか!? 5万オーバーだったぞ!?
そんな俺の心情を察したのか、エリトが補足を入れる。
「エリスは生まれつき魔力量が多い。もちろん努力の賜物でもあるがな」
「それほどでもないわ。さぁ、ニシヤさんも水晶に触れてみて」
照れ隠しなのか、エリスが俺に会話を振る。
俺は「勇者」だからな。魔力量10万とか53万とか行くんじゃないか? まぁ、エリスより上で、二人の機嫌を損ねないと良いけど。
「さて、俺の魔力量はいくつかな?」
ニヤけそうになるのを堪えながら水晶に触れると、数字が現れる。俺の魔力量は?
……『2』
一同に沈黙が広がる。
えっ? いや、えっと……。
身を乗り出し、水晶を左右からくまなく見ても、浮かんだ数字は変わらない。
目の前の現実が理解できない俺は、思わず水晶から手を離す。
水晶に浮かんだ数字が消える。
「……さて、俺の魔力量はいくつかな?」
そして、何事も無かったかのようにリトライする。そして現れた数字は
……『2』
俺は水晶から手を離す。
「さて、俺の魔力量は――」
「ニシヤ。もう良いんだ」
見かねたエリトが水晶を取り上げる。水晶には、「13526」という数字が浮かんでいた。
えっ? 俺、勇者だよね? なんでこんなに……まさか!
「レベルだ!」
「レベル?」
確信を持って言い放つ俺に、エリスが不思議そうな顔をする。
「ほら、魔物を倒して経験値を稼げば強くなるだろ? とりあえず、町の外で弱そうな魔物を倒しまくってレベルを上げれば、俺だって戦力になれるよな?」
そうだよ。どんなゲームだって、「勇者」は最初から強い訳じゃない。敵を倒して、経験値を稼いでレベルを上げる。RPGの基本じゃないか。
魔力なんてものがあるくらいだ。きっとそういう仕組みなんだろ? これは我ながら名推理……あれ? 二人の表情が固いぞ? まるで「痛い」人でも見るかの様な……。
「ニシヤ。お前の言うレベルというのがなんなのかはわからんが、戦いにおける強さとは、様々な状況を想定した日々の鍛練と、数多の実戦経験によって培われるものだ。同種の魔物。ましてや弱い魔物と戦うだけで、強くなれるはずがないだろう」
うっ、反論のしようもない……。
エリトの至極真っ当な正論で、俺の希望は打ち砕かれた。
どんよりした空気の中、苦笑いを浮かべていたエリスが口を開く。
「あのね、ニシヤさん。魔力を増やす方法も無くはないのよ?」
「本当か!?」
「え、えぇ。個人差はあるけれど、成人なら五日程の鍛練で、ひとまず70か80くらいは……」
「どんな方法なんだ!? 教えてくれ!!」
「わ、わかったわ。教えるから落ち着いて」
藁にも縋る思いでエリスに懇願し、俺の修行が始まった。
――§――
数分後、俺たちが座る宿屋のテーブルの真ん中に、火が灯った蝋燭が一本立てられていた。
実際に魔法を使うことで、魔力制御の練習をしつつ、扱える魔力量を増やす修行らしい。
「まずは、比較的扱いやすい風の魔術からやってみましょうか。お兄ちゃん、お願い」
エリスの呼び掛けに、エリトは無言で蝋燭に手を伸ばし、触れることなく火を消した。
こっそり息吹き掛けたんじゃないだろうな……?
「魔術のコツはイメージだ。風の魔術なら、『自分の腕の回りに風が渦巻いていて、力を込めると風の動きが変わるイメージ』だ。もっとも、これは一例に過ぎないがな」
「というわけで、ニシヤさんもやってみて」
エリスの魔法で、再び蝋燭に火が灯る。俺は蝋燭の火に掌を向け、目を閉じて念じた。
イメージか。自分の腕に風が渦巻いていて……。風、風、風! そこだ!!
掌を動かさずに力を込める。次の瞬間、俺の意識は遠退いて行った。
消えていく意識の中で、俺が最後に見たのは、一瞬風に煽られたものの、煌々と燃え盛る蝋燭の炎だった。
【おまけ】今日の振り返りと次回予告
改めて、俺の名前はエリトだ。異世界から現れた「勇者ニシヤ」。世界が危機に瀕した際に訪れるというが、果たしてその実力とは――
お兄ちゃん、堅い堅い。ここでは肩の力を抜かなくちゃ。というわけで、私は魔術師のエリスよ。意識を失ったニシヤさんが見たものとは……? 次回もお楽しみに!