第十三話 決闘
カラムからの挑戦を受けることにする。
ルールは簡単。実戦形式の模擬戦だ。
勝負はどちらかが負けを認めるか、審判であるエリトが勝負あったと判断するまで。
20メートルほど距離を取り、俺たちは向かい合う。
「始め!」
エリトの掛け声で、戦いが始まる。
「本気で行かせてもらうぜ! 『勇者』!!」
カラムが地面を蹴り、こちらへ向かって突っ込んでくる。
おそらく風の精霊の力だろう。常人には反応できないようなスピードだ。
だが、風魔術の達人であるエリトとの模擬戦を繰り返している俺にとっては、問題なく対処できる範囲だ。
カラムの武器はナックルだし、爆炎の範囲も読めている。
ここはカウンターを狙って――いや、だめだ!
俺の本能が叫ぶ。
回避のために足に力を込めるのと、熱風が俺の頬を撫でたのは、ほぼ同時だった。
大きく飛び退いた俺の視界が、炎で埋め尽くされる。
まさに間一髪だった。俺への攻撃の直前、カラムの速度が瞬間的に上がったのだ。
緩急をつけた攻撃。単純だが厄介だな。
なんとか凌いだが、まだ一撃目を躱しただけだ。追撃のため、カラムが間合いを詰めてくる。
とにかく、接近戦はまずい。
<湧水剣・飛刃>で牽制しつつ、距離をとる。
カラムの攻撃範囲は広いが、スピードでは俺に分がある。
カラムが放つ爆炎を避けながら、水の刃で反撃するが、カラムの動きを捉えられず、牽制以上の効果はなかった。
精霊憑依の持続時間はわからないが、魔術隷剣を使っている以上、長期戦は不利だ。
ここは一気に決めるしかない。
カラムに背を向け、全速力で距離を取る。
カラムも追いかけてくるが、スピードは俺の方が上だ。
「<重力剣>!」
先ほどからの戦いで周囲に散らばった、拳大の無数の岩を、走りながら剣に吸着させる。そして――
「<重力剣・斥刃>!」
振り向きながら、カラムに向かって一斉に岩を打ち出した。
カラムは一瞬驚いたようだが、すぐに立ち止まり、地面を殴りつける。
すると、殴られた地面がめくれ上がり、カラムを守る盾となった。
ゲームのパワー系キャラとかがやりそうな技だが、彼のは筋力によるものではないだろう。恐らく地の精霊の力か。
問題なのは、地形を利用した不意打ちですら、決定打にはならなかったことだ。
魔術と剣術を主体とした俺の戦い方は、手数や対応力にこそ優れているものの、魔法のような高火力の遠距離攻撃手段を持たない。
ある意味、俺の弱点と言える。
いや、今そんなこと言っても仕方がない。今できることから作戦を考えないと。
そう思った瞬間、カラムが岩の盾から飛び出してくる。
止まってる時間はない。とにかく動いて――
「なにっ!?」
なんと、力を込めた俺の右足が、地面を踏み抜いた。
まさか、地の精霊の力で、俺の周りの地面を脆くしたのか?
「もらった!」
大きく飛び上がったカラムが俺に迫る。
地面に気を取られたせいで反応が遅れた。
回避は間に合わないので、迎え撃つしかない。
「<湧水剣――」
飛刃は間に合わないか。
水を纏った刃がカラムの炎とぶつかり合う。
刹那、ジュッという音とともに激しい爆風が巻き起こり、俺の体が吹き飛ばされた。
いや、俺だけじゃない。
カラムも同様に、反対側に吹き飛ばされたようだ。
痛む身体をゆっくり起こしながら、状況を確認する。
今の爆発は、おそらくカラムの技じゃない。
俺の予想が正しければ、これがカラムに勝利する唯一の方法だろう。残りの魔力を考えても、次が最後の攻撃だ。
となれば、実行あるのみだ。
「なぁ、カラム。準備運動はもういいだろ? 次で最後にしよう。まさか、今までのが本気だったってことはないんだろ?」
「おもしれぇ。いいぜ、見せてやるよ。……けど、上手く防いでくれよな。あんたを死なせちまうわけにはいかねぇからよ」
カラムの右腕が、今までにないほど大きく燃え上がる。
よし。挑発に乗ってきたな。
一瞬不穏な言葉が聞こえてきた気もするけど、多分気のせいだろう。
俺たちは、互いを目指して走り出す。
俺たちが吹き飛ばされたさっきの爆発。それはおそらく――水蒸気爆発だ。
これが最初からわかっているのなら、意図的に爆発を引き起こし、風の魔術で爆風を制御できるだろう。
走りながら、魔術隷剣にありったけの魔力を込める。
だがその瞬間、驚くべきことが起きた。
魔術隷剣が白い光を纏い、元の剣より2回りも大きい剣を象ったのだ。
カラムが目を見開いているが、むしろ驚いているのは俺の方だ。
だが、もはやお互いに勢いは止められない。
「<ヘイムヘルフレイム>!!」
「<湧水剣>!!」
互いの技がぶつかり合う瞬間、今までとは比べ物にならない量の水が、俺の剣から溢れ出す。
あっ、これはまずい。
俺の想定を遥かに上回る規模の水蒸気爆発が巻き起こる。
もともとカラムの方へ向けるつもりだった爆風を、明後日の方向に誘導する。
だが、これ程の規模だと、俺の風魔術では自分への風圧すら防ぎきれない。
吹き飛ばされた浮遊感の後、背中に着地の激痛みが走る。
「うっ……」
なんとか死なずに済んだか……。そうだ、カラムは!?
光を失った剣を杖にしてなんとか立ち上がると、遠くに倒れたカラムが見えた。
「勝負ありだな。ニシヤの勝ちだ。だが……。なんだあの力は! 二人とも死ぬところだったんだぞ!」
審判のエリトにめちゃくちゃ怒られた。
爆発の瞬間、エリトが風魔術で爆風を和らげてくれたらしい。
不測の事態だったとはいえ、今回のことは本当に冗談ではすまない。
俺は、人を殺すところだったのだから……。
「……待ってくれ」
足を引きずりながら、カラムが歩いてくる。
「これは、俺が挑んだ勝負だ。それに、こいつは俺の全力に、全力を持って応えてくれたんた。だから、こいつは悪くねぇ。責めるなら、俺を責めてくれ」
カラムが俺を庇うように、エリトの前に立つ。
「カラム……。いやでも、俺にだって責任が――」
「二人とも……。良くわかってるじゃないか」
「「えっ!?」」
結局、俺とカラムは二人揃って、エリトから厳重注意を受けた。
「危険な技を人に向かって打つな」という、子供でもわかりそうな内容だ。
まぁ、俺たちの命に関わることだから、エリトも真剣に怒ってくれたのだろうけどな。
この世界に来た当初とは比べ物にならない程、俺は強くなった。
だからこそ、力の使い方を間違えないようにしなくちゃな。
怪我を負ったカラムに、アミラが回復魔法を掛ける。
一方俺は、怪我よりも魔力の消耗の方が激しいということで、エリスが上級魔力回復薬を持ってきた。
どうもエリスは、俺に魔力回復薬を飲ませるのを面白がっている節がある。
笑顔で水筒を差し出すその姿は、まるで試合後の運動部のマネージャーのようだ。
水筒の中身を知らなければの話だが……。
「ニシヤ。ありがとな。本気で戦ってくれてよ」
魔力回復薬の苦みに悶える俺に、カラムが話し掛けてきた。
「けど、やっぱ勝てねぇな」
「いや、カラムは強かったよ」
そう。本当にギリギリの戦いだった。
1歩間違えば、負けていたのは俺だったし、もう一回戦って勝てるかと言われれば、正直微妙なところだ。
結果として勝負は俺の勝ちだったが、カラムを仲間に加えることは、全く問題がないように思える。
疲労困憊の様子で座り込むカラムに、エリトが声を掛ける。
「それで、これからどうするんだ?」
「どうって、勝負には負けちまったし、村に戻って――」
「それで済むと思っているのか?」
「お、おい……」
エリトの問いかけに、困惑するカラム。
「この勝負であなたが負けたときのこと、決めてなかったわよね? カラム、あなたには、私たちの邪竜討伐作戦に協力してもらうわ」
「おい、それって……」
エリスの言葉に、カラムが目を見開く。
「カラムは1人じゃない……。一緒に行こう」
アミラもそれに続く。どうやら、みんなも俺と同じ気持ちのようだ。
「本当に、いいのか?」
「もちろん。それに、助けたことへのお礼がまだだしね」
俺の言葉を聞いたカラムが「あ、やべぇ」みたいな顔してる。こいつ絶対忘れてたな。
一同に笑いが巻き起こる。
うん。うまくやっていけそうかな。
カラムと共に村へ戻り、出発の準備とあいさつを済ませる。
目指すは暗黒の谷の先。邪悪な竜が根城にする「ミルノースの塔」だ。
「地上に出るなら、この道を使ってくれ」
カラムに案内されたのは、俺たちが降りてきたのとは反対側の崖に開いた洞穴だ。
「こっから地上に出られるんだぜ」
なるほどな。たまに買い物に行くって言ってたし、容易に谷の外に出る手段が何かしらあるものだとは思ってたけどな。
「普段は町側の方しか使わねぇんだけど、今は橋を壊しちまってるからな」
「ああ、確かに壊れて……。ん? 『壊しちまった』?」
「この間、技の練習をした時にちょっとな。……まずかったか?」
「当たり前だろ!」
橋壊したのお前かよ!
【おまけ】
どうしたんだカラム? 俺の顔に何かついてるのか?
いや、「勇者」って本当に人間なんだなって思ってよ。俺の先祖の「魔界の勇者」ってやつは、素手で海を割ったとか、素手で山を割ったとか言われてるから、「勇者」ってのは人じゃないんじゃねぇかと思ってたんだ。
いや、だから俺は「勇者」じゃないし、普通の大学生だよ! そんな凄いやつと一緒にしないでくれ!




