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91話 ハイン、真相を聞く

「……どういう事ですか?貴女がこの事件の張本人という事ですか?」


 夫人に警戒しつつ声をかける。事態を把握出来ないトキヒは声を出さずに自分と夫人たちを交互に眺めている。


「……残念です。カノアさんにリーゼさん。貴方がたは娘たちの特にお気に入りだったのに。何も知らなければこのまま二人の執事として働いて欲しかった」


 夫人のその言葉に、先程の問いかけが肯定である事を認識する。


「……貴女が、この館の失踪事件に関わっているという事は、間違いないんですね?」


 更に夫人に問いかける。夫人はゆっくりと頷き話し始めた。


「我が家は……ニステポ家には長い間子供が出来ませんでした。亡き主人と様々な方法を探し、その度に試しましたが、それでも子を授かる事は叶いませんでした。そんな時、そこのラジブがとある物に辿り着いたのです」


 そう言って気絶したままのラジブに視線をやる。


「それは、いわゆる呪いの呪術具といわれる類のものでした。完全な外法の代物ですね。その代償は大きく、夫のオーマは最後まで反対しておりました。ですが、私はどうしても子が欲しかった。結果、夫を強引に説き伏せ私はその呪術具の力を借りて儀式を行いナノハとシーホの二人を授かったのです」


 夫人の独白は続く。夫人は少しだけ目を伏せて言葉を続ける。


「最初のうちは二人を授かり、天にも昇る心地でした。最初の数年は何事も無く家族とラジブを始めとした館の皆と共に幸せを噛み締めておりました。ですが、娘達が七つを迎えた時、悲劇は訪れたのです」


 そう言って夫人がつぶやく。


「二人が七つの誕生日を迎えた時、突然二人が苦しみ始めながら倒れたのです。高価な薬や高名な医師に見せても原因は分からず頭を抱えておりました。するとその日の夜、私の枕元で声が聞こえたのです。その声は私に向かってこう言いました」


 夫人の告白に驚愕しつつも口を挿めない自分とトキヒ。更に夫人が言葉を続ける。


「二人を授かった際に使用した呪術具は、祭壇を作り丁重に取り扱い保管しておりました。声の主は私にこう言いました。『呼び声が聞こえたなら、これより七日の時を越える前に我の前に新鮮な心臓を。娘達にはその者の血を奉げよ。さすれば未来永劫娘は生き永らえる』と」


「……それは……呪術具の前に生贄を捧げろという事ですか……?」


 自分の言葉に夫人が頷く。


「はい。夢枕でそう言われたのは儀式を行った私と夫、立ち会ったラジブの三人でした。その三人が同時に同じ夢を見たのです。最初は半信半疑でした。……ですが、日を重ねる毎に二人の様子はどんどん悪化していきました。そんな中、事件が起きたのです」


 そう言ってラジブの方に視線を向け、夫人が言う。


「館に盗みを働こうと侵入した輩がおりまして、それを見つけたラジブと揉み合いになり、不本意ながらもラジブがその輩を殺めてしまったのです。どうしようかと思っていた時、ラジブが言ったのです」


 そこで一旦言葉を切り、顔を上げて夫人が言う。


「『奥様、こやつをお告げの通りに生贄にしましょう』と。ラジブの言う通りに、祭壇に祀った呪術具に心臓を、娘達にはその血を無理矢理飲ませました。すると、娘達の症状は瞬時に治まったのです。……そこからはもうお分かりでしょう。それから私たちはお告げが下るか娘達の発作が出る度に私達は生贄を捧げ、ここまで過ごしてきました」


 ……夫人の告白に自分もトキヒも言葉を発する事が出来なかった。つまり、この姉妹は人の血を摂取することで生き永らえてきたという事か。


「……娘を生き永らえさせるために、その都度生贄を用意していたという事ですか?」


 自分の問いに、夫人が少し俯いて答える。


「えぇ。仕方ないでしょう?外法に手を染めてまで授かった我が子が苦しむ顔を見て平気な顔をしていられる親がどこにおりますでしょうか」


 夫人のその言葉に、これまで黙っていたトキヒが声を上げる。


「だからって……そのために何人もの命を犠牲にしても構わねぇっていうのかよ」


「お黙りなさいっ!」


 トキヒの言葉に夫人が突如絶叫する。夫人の豹変した態度にトキヒも自分も二の句が継げずにいると、夫人が再び口調を落ち着けて言う。


「……最初はもちろん、私たちも葛藤がありました。娘たちのために人を殺めて良いものかと。ですが、苦しむ娘たちの様子と、成長していく姿を見ていくうちにどこか麻痺してしまっていたのでしょう。それからは出来る限り身寄りのない者を雇い、ラジブの手を借りて定期的に生贄に奉げておりました。……私が覚悟を決めたのは……夫……オーマを手に掛けたその時です」


 夫人の言葉に自分もトキヒも絶句した。夫である主人を殺したというのか。夫人の独白は続く。


「私と違い、主人は娘たちを生き永らえさせるために人の命を犠牲にする事にずっと罪の意識に苛まれていたのでしょう。ある日、主人は私に言いました。『娘も、そして私たちも一緒に死のう』と。そして、この呪われた連鎖を断ち切ろうと」


 夫人は首を左右に振りながらなおも言葉を続ける。


「……ですが、私はそれを受け入れられませんでした。否定を続ける私に業を煮やした主人は強硬手段に出ようと寝ている二人を殺そうと飾っていた宝剣を手に取り、二人の寝室へ向かおうとしました。それを止めようとした私ともみ合いになり……気付いた時には寝室にこと切れている主人の姿がありました」


 ……あまりの言葉に未だ言葉を発することが出来ずにいる自分に、夫人が声をかけてくる。


「お分かりいただけましたか?私たちのしていることが人の道に反した事だというのは重々承知しております。……ですが、娘のためにも私のためにも私はこの行いを止めるつもりはございません」


 夫人がそこまで言った次の瞬間であった。不意に咆哮が聞こえたと同時、自分は勢い良く地面へと叩き付けられていた。


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