9話 クエスト決定、少女に声をかけられる
「はい。勇者クラス、ハイン=ディアン。魔術師クラス、イスタハ=バーナン。お二人の登録を完了いたしました。では、クエストの受注をお待ちしております」
受付のお姉さんよりライセンスを受け取る。
「これがライセンス……意外と小さいんだね。もっと大きいと思ったよ」
手渡されたライセンスを見てイスタハが言う。
「あぁ。そう思うよな。ところがさ、これが割と手が込んでいるんだわ。イスタハ、ちょっとそのライセンスの自分の名前の下の辺りを触ってみな」
そう自分が言うと、イスタハが言われたとおりにライセンスを指で触れる。
「あっ。文字が浮かび上がった。……このゼロになっている数字がクエストの数、ってことなのかな?」
名前の下に浮かび上がる赤と青の数字を見てイスタハが言う。
「おう。赤がソロ、青がパーティーのクエスト成功の数の表記だな。もしもクエストを失敗やリタイアしても数が減ることはなくて、純粋に成功したらカウントが増える感じだ。んで、特に困難とされる難易度が高いクエストを達成すると、それらは括弧で別口に表示される。たとえば、8回ソロでクエストを達成して、そのうちの2つが難易度の高いクエストだったとしたら、赤の数字が8と表示されたその横に括弧で2と表示される、って寸法さ」
「へぇ……そういう事なんだね。本当、事前によく調べてたんだねハイン」
ライセンスをまじまじと見ながらイスタハが言う。
「……まぁな。飛び級の前に色々調べておいて良かったよ」
先程のようにならないよう、言葉を慎重に返す。
「さ。ヤムのところに行こうぜ。あいつが何か良いクエスト見つけていると良いけどな」
そう言ってイスタハとヤムの元へと向かった。
「お待ちしておりました。こちらです師匠」
クエストが張り出されたスペースの近くにあるテーブルの一角に座っているヤムがこちらに向かって手を振っている。
イスタハと二人でテーブルの前にある椅子に座り、ヤムに声をかける。ヤムの前にはクエストの詳細が書かれた用紙が何枚か置かれている。
「お。何個か候補があったみたいだな。どれどれ、どんなクエストがあった?」
テーブルの上の何枚かの用紙を見ながら言う。
「はい。師匠とイスタハの初陣、私としても初のパーティーでのクエストなので、簡単すぎず、かつ無謀ではない難易度かと思われるクエストをいくつか選んでみました」
ヤムの言葉を聞きつつ、置かれているクエストの用紙を一枚ずつ目を通していく。
「うん。良いんじゃないか?三人で行くには楽すぎずキツ過ぎず、って辺りの難易度だと思うぜ。良いチョイスだな、ヤム」
「お、お褒めに預かり光栄です師匠!」
ガタン、と椅子から立ち上がり姿勢を正して直立するヤム。大げさだって。
「落ち着け。そして座れ。……となると、あとは素材の面で考えないとだな。三人が受け取れる素材で、それぞれのクラスで活用出来る素材が取れそうなのは、っと……」
ヤムの持ってきたクエスト詳細の用紙を改めて一枚ずつ眺める。
フレア・リザードの討伐。体内で蓄積して生成した火球を吐き出すリザードの亜種。素材としては悪くないが動きが意外と俊敏なため、初めての実戦でイスタハが思うように動けない恐れがあるのでこいつは初戦では避けたい。
ストーンウルフの討伐。石の様に硬い皮膚を持つワーウルフの上位種。動きが鈍いため、イスタハは対処しやすいだろうが、その分名前の通り硬いため、ヤムが力任せに深追いして逆に手痛い一撃を貰うリスクがある。あと、素材としてはあまり旨くない。
何枚かの用紙を見ていき、ある一枚のクエストで目を止める。
「……うん。これならどうだ?こいつなら素材も悪くないし、三人でもいけそうだ」
そう言って二人の前に用紙を広げた。
自分が選んだのは、クリスタル・ゴーレムの討伐というクエスト。
施設から少し離れたダンジョン内に発生したクリスタル・ゴーレムの一定数の討伐及び殲滅が目的である。ゴーレムといっても山のように大きいわけではなく、人間より二周りほど大きいサイズのゴーレムである。
石や砂ではなく、水晶や鉱石で主に出来ているゴーレムのため、中には希少な宝石や鉱石が体内で精製されている者もいる。ごくごく稀に、超レアな鉱石で精製された変異種もいない訳ではないが、基本は斬撃や打撃も通じ、魔法も有効なため、この三人で向かうにはもってこいのクエストのように思えた。
「そうですね……パーティー限定のクエストのため、私も対峙するのは初めてですが、剣の加工や生産に使えそうな鉱石が入手出来るようならありがたいです」
「うん。僕は初めてのクエストだけど、魔法の強化に繋がる素材が手に入るかもしれないならありがたいかな」
ヤムとイスタハがそう言うのを聞いて、言葉を続ける。
「あぁ。俺たちは武器のための素材、イスタハには魔力強化の装飾品に使えそうな素材が狙えるなら一石二鳥だろ?それに、全員に必要の無い類の物なら、売ればそれなりの金になるから一石三鳥ってところか」
自分の言葉に二人も頷く。
「うし。じゃあ決まりだな。早速受注しに行こうぜ。ヤム、ライセンスは持ってきているよな?善は急げだ。手続きして向かうことにしようぜ」
ヤムがライセンスを懐から出してきたのを確認し、早速受付に向かい、受注書を受け取る。
この受注書にクエストの参加者名を自筆で記入し、受付に提出、受理されれば晴れてクエスト受注が完了という流れである。
「そういえばハイン、パーティーの参加者って、何人まで一緒に行けるの?」
受注書にサインをしながらイスタハがこちらに聞いてくる。
「あぁ。二人以上が絶対条件で、受注者を含めて四人までだな。それ以上になると、分け前の分配や救援の都合で面倒ごとが起きやすいって事でそうなっているらしい」
おそらくの話ではあるが、施設を含む分配の関係で、全員が最低でも二割以上の取り分の確保が目的というのが大きいだろう。
……もう一つは、万一の事態に陥った際、将来の冒険者が一度に失われるのを避けるための人数制限であろう。そうすれば最悪でも失うのは四人で収まるのだから。
「はい、私も記入が終わりました師匠」
イスタハに続き、ヤムも記入を終え、ヤムが自分に用紙を差し出す。受注者である自分は既に記入を終えているため、あとはこれを受付に提出するだけである。
「お、了解。んじゃ、提出してくるとしますかね」
そう言って立ち上がり、受付に向かおうとした時だった。
「あ、あ、あのう……」
不意に声をかけられて振り向く。
「ん?俺ですか?何でしょう?」
振り向いた先には、小柄な少女が立っていた。ローブを纏い、先端に水晶が飾られた杖を持っているのを見たところ、僧侶か司祭クラスの子だろうか。茶色の短めの髪と瞳の、やや暗そうな雰囲気ではあるが、可愛い見た目の少女である。
「わ、わ、わたし、プ、プラン……。プラン=ネイルスと申します。よ、宜しければ……そ、そのクエストに、わ、私もさ、参加させて貰えませんか……?」
『自分の持てる勇気を、今ここで全て使いました!』と言わんばかりの表情で、彼女は自分にそう言った。