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89話 ハインとトキヒ、戦闘を開始する

「なっ……!」


 咄嗟の事で現状を把握出来てないトキヒをよそに、真っ直ぐ部屋へと飛び込む。同時に自分たちが先程まで立っていた場所に二発目の一撃が振り下ろされた。


(早いっ!それに一撃に躊躇いがねぇ!確実に殺す気できやがった!)


 体勢を整えつつ、一撃を放った相手の方を見る。そこには、黒いローブを身に纏い羊のような仮面を付けた男が立っており、その手には小型のウォーハンマーのような物が握られていた。


(……背丈からして男なのはほぼ間違いねぇ。しかし、あの重そうなハンマーを軽々扱えるって事は相当な力だな。部屋に入り込めた俺はまだしも、逃げ場の少ない通路にいるトキヒを狙われたらまずい)


 そう思いつつ観察していると、男はトキヒと自分のどちらに狙いを定めるかを考えあぐねているようだった。その隙を付いて懐から万年筆を取り出し、キャップを外してある部分のスイッチを入れる。頭の中にタースの言葉が浮かぶ。


『……まったく、お前さんも面白い事を思い付くねぇ。「ペンの形をした仕込み剣を作ってくれ」だなんてさ。ま、面白い注文は職人冥利に尽きるってもんさ。任せておきな。最高の奴を作ってやるよ』


 その台詞を思い出しながらスイッチを入れるとかちり、という音を確認したと同時に万年筆を握り勢いよく振ると、瞬時に魔力で加工された金属で作られた刀身が飛び出す。レイピアより更に短く細身ではあるが、これで多少は相手とのリーチの差を埋める事が出来る。こちらが武器を取り出したのを見て、男がこちらへ武器を構え直した。対する自分も剣を構えつつ刀身を眺める。


(この細さだから突刺メインでの戦いになるかと思ったが、見た感じ斬撃にも使えそうだな。……ったく、良い仕事をしてくれるぜ。こりゃ、タースに解決したら追加で酒を贈る必要がありそうだな)


 そう思いながら相手を牽制していると、ようやく事態を把握し我に返ったトキヒが男の隙を付いてこちらの隣に駆け寄る。


「おい!どういう事だよハイン!?俺には何が何だか……」


 慌てるトキヒを宥めるべく、男から視線を外す事なく言葉を返す。


「落ち着け。こいつが例の犯人かは分からねぇが、一連の事件に関わっている事は間違いねぇ。かなりの力だ。死にたくなけりゃ今すぐ気合いを入れ直せ。とてもお前を庇っては戦えねぇぞ」


 自分の言葉に冷静さを取り戻したのか、トキヒの目つきが変わる。


「……なめんなよ。これでも死線は何度も潜ってきたんだ。お前のお荷物にはならねぇよ」


 そう言って懐から二本のナイフを取り出してトキヒが両手に構える。形状からして近接にも投擲にも使えるタイプのナイフだろう。


「それなら安心だ。……てか、よくそんなもん懐に隠せたな。普段から館でのボディチェックも定期的にあったっていうのによ」


 自分の言葉に得意げな表情を浮かべてトキヒが言う。大分冷静になったようで安心する。


「へっ、俺にはお前さんみてぇなそんな仕込み武器なんか作れねぇからな。その辺りは企業秘密だよ。さ、お喋りは後にしてまずはあいつの相手をしようぜ」


 そう言ってトキヒがナイフを構え直した。


「あぁ。頼りにしてるぜ。それじゃあ……いくぜっ!」


 叫ぶと同時、仮面の男に向かって駆け出した。


「…………っ!」


 仮面の下から僅かに声を漏らして男がこちらに飛び掛ってきた。手にしている得物から見て、こちらの方が厄介と判断したのだろう。ハンマーの反対側のピックの部分を自分に突き刺さんという勢いでこちらに振り下ろす。


「ふっ!」


 振り下ろされた一撃をすんでのところで回避する。同時に自分の近くにピックの先端が勢い良く突き刺さる。


(……こちらの剣の形状的に両手持ちは出来ねぇ。やっぱり片手でこの一撃を受け止めるのは難しいな)


 片手では力負けし、こちらの剣を弾かれると判断して正解だった。再びこちらに狙いを定めようとする仮面の男に向かってトキヒがナイフを放つ。


「おらよっ!」


 狙いを定めたナイフが男の肩に命中する。が、トキヒの投げたナイフは男に突き刺さることなく弾かれその場に落ちる。


「なっ!?」


 動揺するトキヒに追撃を放とうとする男に、こちらが先に牽制の突きを放ちそれを防ぐ。間髪入れずにトキヒに向かって叫ぶ。


「慌てるな!おそらく特殊繊維で編まれて魔力の加護が施されたローブだ!切るんじゃなく突くイメージで仕掛けろ!」


 そうトキヒに言いつつも、内心ではトキヒに感謝する。おかげでこちらが仕掛ける前にあいつが纏っているローブがただのローブでない事に気付けたからである。


(魔力を込めて編まれたローブなら、普通のローブより頑丈なのは当然だがあの勢いで投げられたナイフを弾くってことはかなりの加護が込められた物だろう。魔法もかなりの勢いで防がれると思っておいた方がいいな)


 室内かつ密室のため、魔法を放つのはこちらにもリスクが伴うため最終手段ではあるがそれらも視野に入れて考えておく。


(とはいえ、この剣のサイズじゃあのハンマーの一撃を受け止めるには厳しい。やはり剣に魔力を込めて懐に潜り込むのが得策か)


 そう思い男と距離を置き、剣に魔力を込めようとした時、トキヒが先に動いた。


「だったら、ローブじゃねぇ所を狙えばいいよなあっ!」


 そう叫んでトキヒが男のもとへ駆け出す。即座にハンマーを振り下ろす男の一撃を寸前の距離で跳躍して回避する。


(上手い!だが跳んだ事で距離が離れた。その位置からナイフを投げてもさっきの繰り返しになっちまう!)


 そう思ったがトキヒは空中で器用に体を反転し、ナイフの柄を握って叫ぶ。


「これなら……どうだっ!」


 そうトキヒが叫ぶと同時、ナイフの先端だけが勢い良く射出される。どうやらナイフの刃の部分だけが飛び出す仕組みになっていたのだろう。手投げよりも勢い良く放たれたナイフの刃が男の仮面の眉間の辺りに命中する。


「よっしゃ!」


 着地したと同時にトキヒが叫ぶ。こいつ、思っていた以上の使い手のようだ。


「お前、とんだ隠し球を持ってたみてぇだな。敵にしたら厄介そうだ」


 男の様子を警戒しつつトキヒに声をかける。懐から再び別のナイフを取り出しながらトキヒが言う。


「おうよ。リーチじゃ他の武器に適いっこねぇからな。つばぜり合いや端から距離を置いて戦おうとする相手とかに一発おみまいするには最適さ。たいがいの連中が動揺してくれるからな」


 そこまでトキヒが言ったところで男が立ち上がる。どうやら仮面に守られたとみえ、眉間を貫くまでには至らなかったようである。が、トキヒの一撃により仮面には大きな亀裂が入っていた。


「……ちっ、結構硬ぇ仮面だったみてぇだな。だが、あれならすぐにでも割れそうだぜ」


 トキヒの言葉通り、仮面は次の瞬間突き刺さったところを中心に崩れるように割れていく。みるみるうちに男の顔が露わになっていく。


「なっ……」


 思わずトキヒが声を上げる。自分も声こそ出さないが同様の反応を見せる。


 そこには、自分たちが知る共通の顔の男が現れたからであった。


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