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88話 ハイン、過去を邂逅しつつ真相に迫る

「心臓……それに血だと?信じられねぇ!一体、何のためにそんなものが要るっていうんだよ!」


「落ち着けよ。それとあまり大きな声を出すな。さっきも言ったけどまだ誰が、何のためにって言うのはまだ分からねぇって言っただろ」


 思わず声を上げるトキヒを宥めるように言うと、少し冷静になってトキヒが言う。


「……あぁ、悪い。この光景がちょっとショックで思わず怒鳴っちまった」


 トキヒが落ち着いたのを確認して、改めて目の前の状況を整理して説明する。


「まず、犯人がこんな事をしたと考えられる理由が二つある。一つは特殊な思考を持った人間による快楽殺人や猟奇殺人のケースだな。そういった手合いの連中は殺した連中の一部をコレクションする事が多いんだよ。大体は首とかのパターンが多いんだがな」


 そこまで自分が言うと理解出来ない、と言わんばかりにトキヒが顔をしかめながら言う。


「……マジかよ。で、お前が思うもう一つの理由ってのは何だ?」


 トキヒの言葉にバケツから視線を逸らし、一呼吸置いてからもう一つの理由を話す。


「で、もう一つの理由なんだが、俺はこちらの方が有力だと思う。あくまで勘だけどな。心臓と血を丁寧に取り除いているっていうのを考えるとこっちがしっくりくるんだ」


 トキヒが無言でこちらを見ているので、そのまま続ける。


「……人間の心臓や血っていうのはな、色んな用途に使われるんだよ。主に呪いや儀式の触媒にな。心臓だけなら異常思考のコレクターの仕業っていう可能性もあるが、血液まで集めているってことは何らかのためにそいつも必要としているって考えた方が自然なのさ」


「…………」


 絶句しているトキヒに向かって、更に話を続ける。


「よく血判とかって言うと自分の指を軽く切って契約やら召喚とかの儀式を行う連中がいるだろ?あれに近い感じだな。本来なら大量に必要な時は豚やら牛やらの家畜の血や臓物を用いて儀式を行うんだが、外道な連中はそれを人でやるのさ。……お前、賞金稼ぎ(バウンティ・ハンター)ってことは魔物だけじゃなくて人間相手も狩り(ハント)した事あるだろう?おそらくそれ目的でお前らに依頼した連中も何人かいたと思うぜ。引き渡した後の事はお前らの知るところじゃないからな」


「……マジかよ。儀式のために人の血や臓物を使うってか?そんなもん完全に表沙汰に出来ない外法じゃねぇか。俺はそっち方面の知識はまったく分からねぇが、そんなもんとても公には出来ねぇだろ?」


 トキヒの言葉に頷きながら言葉を返す。


「あぁ、もちろん外法さ。それにバレたり失敗した時のリスクもデカい。ただ、それによって得られるリターンもある。だから非合法でそういう事をやる連中ってのは少なくねぇのさ」


 淡々と話す自分に何かを思ったのか、トキヒが自分に声をかけてくる。


「……何か、お前さんのその話ぶりから察するに、過去に実際に目の当たりにしたみたいだな。……いや、詳しく言わなくて良いぜ。聞いたところで今以上に胸糞悪くなりそうだからよ」


 トキヒの心遣いに感謝する。トキヒの言う通り、話すどころか思い出しても気分が悪い話ばかりが脳裏に浮かぶからだ。


 はした金で買い取られ散々慰み者にされた後、儀式に必要な部位を使うためだけに殺された少女。

 身寄りの無い子供を善人面して引き取り、適度な年齢になったら生贄にされてしまうにも関わらず、最後までそんなクズのような商人を疑う事もなく最後まで感謝したまま殺された少年。


 いずれもそんな彼等を生きているうちに救う事は叶わず、全てが終わった後にそんな連中を始末する事となった。勇者として施設を旅立ってからやむを得ず人を殺める事は幾度かあったが、躊躇いもなく剣を振るったのはそういった連中の時だけであった。


(……胸糞悪い事を思い出しちまったな。だが、今回のケースも似たような感じだと覚悟しておいた方が良いな)


 過去を振り返って思わず無言になった自分に、トキヒが言う。


「……で、これからどうするよ?肝心の目的と、これをやっている張本人は分からないままだろ?」


 トキヒの言葉に無言で立ち上がり、辺りを見渡しながら答える。


「……このままこの部屋を調べよう。ここまで入念に隠しておいて、ここで終わりとは思えねぇ。だいたい、ここで解体して今更館の中にそれを持ち込むとは考えにくい。物が物だけにうかつに持ち運び出来るもんじゃねぇからな。きっと最初の部屋みたいに隠し部屋みたいなもんがあるはずさ」


 自分の言葉にトキヒも頷き、周囲を見渡して言う。


「そうだな。あんなもん抱えて館の中を不用意にうろつける筈はないからな。よし、そうと決まれば早速動こうぜ。……あまりそいつも見ていたくないからな」


 視線をバケツに向けて言う。麻痺していた感覚が戻ってきたのか、再びハンカチを口元に当てる。不幸中の幸いだが、この凶行が行われてからさほど時間が経過していなくて良かった。これでもし中身が腐敗しているようならトキヒにはとても耐えられなかっただろう。


「そうだな。じゃあ、まずは壁際を中心に調べるとしようぜ。この床の材質的に、地下に隠し部屋があるとは考えにくいからな」


 そう言ってトキヒと手分けして部屋を調べる。広いとはいえ壁に狙いを定めて調べれば時間はさほどかからない。程なくしてトキヒが自分に向かって小さくつぶやく。


「ビンゴだぜ、ハイン。ここだ」


 トキヒの指差した先には、先程と同じように回転式になっている仕掛けの壁があった。


「……なぁハイン。お前、この先にいったい何があると思う?」


 壁の隠し通路を進みながら前を歩くトキヒがこちらに尋ねてくる。


「……さぁな。ただ、何にせよろくでもねぇ事は間違いないだろうな」


 違いない、と言わんばかりに肩をすくめて歩き出すトキヒ。その後ろ姿を眺めつつ自分も歩みを進める。


(ここまでして血や心臓を求める連中の目的っていうのがまだ分からねぇ。ただの儀式にしては人がいなくなる期間にムラがありすぎる。その理由はいったい……)


 歩きながら考えていると、トキヒが口を開く。


「お、どうやら辿り着いたようだぜ。ほら、見てみろよ」


 そう言ったトキヒの先には明かりが見えた。どうやら次の部屋へと辿り着いたらしい。


「ま、とにかく行ってみようぜ。何があるのかも行きゃ分かるだろ」


 そう言って部屋へと一歩踏み出すトキヒ。……その瞬間、何ともいえない嫌な予感がした。殺気と悪意が入り混じったような感覚が背中に伝わる。同時にトキヒの肩を掴んでこちらに引き戻しながら叫ぶ。


「下がれっ!!」


 そう言って強引にトキヒをこちらへ引き戻す。勢いよく引き戻したため、不意を突かれた形で思わず倒れこんだトキヒがこちらに勢い良く倒れ込んだ。


「……っ!おい!何だよハイン!危ねぇじゃねぇか!」


 そうトキヒが叫ぶとほぼ同時に、先程までトキヒがいた場所に何かが勢い良く振り下ろされた。


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