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85話 ハイン、潜入に向けて準備を進める

 トキヒと手を組む事になって一週間が過ぎた。最初はどうなる事かと思ったがトキヒは優秀で、さりげない形で自分が一人になる時間や作業に入れる時間を確保出来るように動いてくれた。


「シーホ様。カノアさんはこの後仕入れの業者との打ち合わせがあるそうなので、私の方でこちらの用事を引き受けさせていただきます。カノアさん、そういう事ですのでどうぞそちらへ向かってください」


 そう言って自分にだけ分かるようにこちらへ目配せするトキヒ。協力の申し出がどこまで本心かは分からないが、例の部屋を調べるための下準備を進めるのに助かっているのは事実であった。


(……あいつがどういう腹積もりで俺に協力してくれているのかは分からねぇ。打算や計算があるのは間違いないし、自分の利にならない事をする奴じゃない。だが、こうして作業や調査をする時間が取れる事に対しては感謝しなくちゃいけねぇな)


 事前に用意を済ませていた事もあり、業者との打ち合わせはものの数十分で終わり、報告の前に部屋へと戻り、例の部屋の奥の鍵穴に合わせた合鍵の複製作業に入る。


「……よし、これくらいにしておくか。続きは夜にしよう。戻るのが遅くなってもまずいからな」


 そう一人つぶやき、道具を片付け身支度を整えてから姉妹の元へと戻る。


「お待たせしましたシーホ様。ご希望の茶葉のブレンドのリストですがこちらになります。次のお茶会に向けてのご要望の茶器のセット、菓子の手配も無事に完了しました」


 そう言ってシーホへ報告する。自然な態度でトキヒにも声をかける。


「リーゼさんもありがとうございました。お陰で無事に打ち合わせも滞りなく完了しました」


 そう言ってトキヒを見て軽く頭を下げる。得意の作り笑顔でトキヒがこちらに言葉を返してくる。


「いえいえお構いなく。カノアさんの仕事が進んだようなら何よりです」


 仕事、というところに若干の含みを持たせたトキヒの発言に一瞬眉をひそめたが、特に怪しまれる事もなくシーホから声がかかる。


「ご苦労様でしたカノアさん。リーゼさんもありがとうございました。今日はもう大丈夫ですから部屋の掃除をしたらあがってくださって結構です。今日も一日お疲れ様でした」


 その言葉に二人で一礼し、掃除を済ませて再度姉妹に声をかけて部屋を後にする。食堂に向かう途中、周りに人がいない事を確認してトキヒが話しかけてきた。


「どうよ?首尾の方は。上手く進んだか?」


 同じく周りの様子を確認し、小声で返答する。


「……あぁ。お陰さんで例の部屋の合鍵はほぼ仕上がったよ。今日の夜には終わるだろうな。鍵が合うかは試してみなきゃ分からねぇが、多分大丈夫だと思うぜ」


 自分の言葉に満足げな顔でトキヒが言う。


「そうか。ならここ最近姉妹の面倒を一人で見た甲斐があったってもんだ。ここまで協力したんだ。抜け駆けはナシだぜ、ハイン?」


 そう言って自分の肩を叩くトキヒ。正直、何があるか分からないため一人で行動した方が調べやすいのだが、この男は決して納得しないだろう。


「……分かってるよ。なら、俺たちが同時に不在でも不自然じゃない時をどうにか見つけなきゃいけねぇな」


 そう自分が言うとトキヒは満足そうにうんうんと頷く。


「おう。その通りだな。まずは俺たち二人が同時にお嬢様たちの前から離れていても大丈夫な日時を確保しないといけないからな。ま、今はひとまず腹ごしらえといこうや。美味そうな奴があったら少しちょろまかしておくから、部屋に戻ってそいつをアテにして作戦会議といこうぜ」


 そう言ってトキヒはご機嫌な様子で足早に食堂へと向かった。その後ろ姿を見つめながらため息を付く。


(……ったく、あの扉の先に何があるかも分からないのに気楽なもんだ。賞金稼ぎを生業にしているならそれなりに死線も潜っているだろうに。それを承知の上であの様子なら、それはそれで見習うべきかもな)


 そう思いながら食堂で食事を済ませ、早々に部屋に戻って作業を再開した。


「お、思ったより時間がかかったな。よっぽど酒が進む一品でもあったのか?」


 トキヒが自分の部屋を訪れたのは自分が食堂を後にしてからおよそ二時間が経過してからであった。てっきり先に風呂を済ませてから来たのかと思ったが、トキヒの姿は先程と同じ使用人姿のままだった。鍵の複製がちょうど完成したタイミングでもあったため、タバコに火をつけているとトキヒが口を開いた。


「ハイン。……二つ、お前に報告する事がある」


 そう言ってトキヒが真面目な顔で言う。いつもの様子と違うため、思わずタバコを吸う手を止めてトキヒの方を見る。視線に気づいたのかトキヒがそのまま言葉を続ける。


「……まず、例の部屋を調べるチャンスについてだ。月末にどこかの貴族の会合に夫人と姉妹、そして執事長のラジブが呼ばれるらしい。腕っ節を買われた護衛連中を除いて俺たち使用人は館に待機らしいから大分館は手薄になるだろう。そこまで離れていないところらしいから丸一日とはいかねぇが、少なくとも半日はあそこに忍び込めるはずだ」


 トキヒの話が本当なら願ってもないチャンスである。あくまで自分たちは館の使用人のため、会合や特別なゲストへの応対はラジブが一任している事もあり、夫人と姉妹も含めて一同が館を不在になうというのは千載一遇のチャンスである。


「マジかよ。朗報じゃねぇか。……ただ、お前さんのその様子だと良い知らせの他にもまだ何かありそうだな。もったいぶらずに早く言ってくれよ」


 そう会話を促した自分に、一呼吸置いてからトキヒが口を開く。


「……また、行方不明者が出た。それも、一気に四人だ」


 トキヒの言葉に、部屋の空気が張り詰めた。


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