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84話 ハイン、トキヒと手を組む

「……俺と組む?どういう事だ?」


 自分の問いにトキヒが答える。


「言葉のまんまだよカノア。お前の目的が何かは分からねぇ。……だが、それを達成するには一人では限界がある。違うか?」


 トキヒの言葉に思わず言葉に詰まる。確かに、ここまで来るにもかなりの時間を要したし、ここから先もどれだけまだ時間がかかるかも正直分からないのは確かである。


「俺に協力するって事か?……何が目的だ?」


 そう言ってトキヒの顔を真っ直ぐ見つめる。先程より緊張がほぐれたのか自然な口調でトキヒが言う。


「正直に答えれば打算半分、興味半分ってところだな。引退してこのまま玉の輿、命の危険に晒される事なく楽に生きたいっていうのは本当だ。だがそんな所でお前みたいな奴がこの館について何か調べているって事は、本当にこの狙いが上手く行くのか不安になるのは無理もねぇだろう?」


 自分が頷くと、トキヒが更に続ける。


「……で、もう半分の理由だが俺も気になっちまったのさ。この館に、あの扉の先に一体何があるのかを、な。いずれこの館の主になれば分かるのかもしれねぇが、今気になるじゃねぇか。なら、お前と組めばそれがすぐ分かると思ってな。我ながら厄介な性分だぜ」


 そう言って苦笑するトキヒ。やはり賞金稼ぎ(バウンティ・ハンター)の血が騒ぐのだろう。この手の連中にはよくある話だが、噂話や儲け話の類に人一倍興味を示す手合いが多い。


「……お前、引退して長生きしたけりゃその性格改めた方がいいぜ。ま、正直その申し出はありがたいけどな」


 実際、同じ使用人として働くトキヒが協力してくれるのならば、自分の調査に使う時間は飛躍的に増えるだろう。特に姉妹と夫人に密接に関わるポジションにいる自分たちなら、互いの業務を受け持つ事が出来る。トキヒでも可能な業務を割り振る事が出来ればより調査に時間を割ける。


「まぁそう言うなよ。大体、玉の輿狙いにしろ、この館に何かあれば一気におじゃんになるじゃねぇか。懸念要素は早めに解決したいからな」


 まだ全てにおいてトキヒを信用した訳ではないが、実際自分にとってはメリットが大きいのは確かである。警戒しつつもトキヒの申し出を受け入れる事にした。


「……分かった。お前の申し出を受けるよ。実際、一人じゃ厳しかったのは確かだしな」


 こうして、一時的にではあるがトキヒと手を組む事となった。



「……なるほどねぇ。この館からそんなに行方不明者が出てるって訳か。そりゃ穏やかじゃねぇなあ」


 おおよその流れを話し終え、タバコを吸っているとトキヒがつぶやく。自分が施設から派遣された隊士であるという点に関しては一切伏せつつ、館に侵入した事情について可能な範囲で情報共有する形でトキヒに話した。


「あぁ。しかも俺たちが採用された後にもすぐ何人か行方不明になっただろ?それを突き止め、出来れば解決するってのが俺の目的さ」


 煙を吐き出しながらトキヒに返答する。腕組みしながら聞いていたトキヒがタバコを消して呟く。


「それを目的として身寄りの無い人間を集めたっていう訳か。ぱっと考えたら人身売買とかが一番有力な説だけどな。……なるほど、だからお前あの時に俺に身寄りが無いか聞いてきたんだな」


 トキヒの言葉に頷く。酒を一口口にしてから言う。


「あぁ。だからこそこれ以上の犠牲者を出す前に突き止めたい。あの部屋にその手掛かりがあれば何か分かるだろう。これでただの隠し金庫でした、ってオチだけは勘弁して貰いたいけどな」


 実際、その可能性もあるのだがそうであって欲しくないという希望も込めて口にする。


「こんだけの館だし、その線もあり得るかもな。ま、今はあそこが一番怪しいのは事実なんだし、まずはあそこを調べようや」


 そう言ってグラスに残っていた最後の酒を勢いよく飲み干してトキヒが立ち上がる。


「うし、じゃあ今夜はこの辺りだな。深酒して使用人の方に支障きたしたら話にならねぇからな。明日から少しずつお前が時間を取れるように俺もさり気なく動くとするさ」


 そう言って部屋を後にしようとするトキヒだが、ドアの前で立ち止まってこちらを振り返って声をかけてくる。


「……そういや、どっちの名前で呼べば良い?ハインか?それとも今まで通りカノアで呼べば良いか?」


 事情を話す際、トキヒに自分も本名を伝えた。伝える必要は勿論無かったのだが、何となく伝えて良い気がしたからだ。全てを明かす訳にはいかないが、向こうが本名を名乗ったのなら、自分も名乗ろうと思った。向こうが本当に本名なのかは何の保証もないが、トキヒの言葉に嘘は無いと感じた。


「どっちでも構わねぇよ。ま、お嬢様たちの前で本名を呼ぶのだけは勘弁して欲しいけどな」


 そう自分が言うとトキヒが笑いながら言う。


「ははっ。流石にそこまで馬鹿はやらかさねぇよ。それに関してはお前もお互い様だしな。じゃ、明日から改めてよろしくな。カノア……いや、ハイン」


 そう言って自分に背を向けて手を振り部屋を出て行くトキヒ。静かになった部屋で寝る前に最後に一本タバコを吸う。


「さて……何にせよあいつのお陰でこれで少しは動きやすくなったな。明日からは今までより調査に時間が割けるだろう」


 かくして、自分はこうしてトキヒという協力者を得られる事となった。


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