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81話 ハイン、探索を開始する

(……やった!開いたっ!)


 思わず声を上げそうになる気持ちを必死で抑えてドアノブを捻る。


(人の気配は感じられねぇ。……だが油断は禁物だ。中に何があるかも分からねぇからな)


 気を落ち着かせて慎重にドアを開く。細心の注意を払って部屋へと入る。


「……ま、当然だよな。開けた瞬間何かがあるなんて上手い話はある訳ねぇよな」


 自分の目の前には、ごくごく普通の部屋が広がっていた。


 だが、必ず何かあると思い音を立てないように周囲を見渡す。見た感じでは普通の部屋にしか見えない。


(……おかしい。どう見ても普通の部屋だが、それだと窓から見えた増築されたスペース部分の説明がつかねぇ。落ち着け。しっかり調べるんだ)


 そう思い壁際に狙いを定め、入念に部屋を調べる。


「……ん?おかしいぞ。どうしてここだけ床に傷が付いているんだ?」


 部屋に敷かれた絨毯をめくり上げてみると、一箇所だけ不自然な傷が床に付いているのを発見する。


「この幅とサイズからすると……これか!」


 壁の横に貼り付けるように設置してある本棚に目を向ける。一見ぎっしりと書物が入っているように見えるが、試しに何冊か本棚から引き抜いてみると中身は空でカバーしか入っていなかった。


「ということは、この本棚に仕掛けが……あった!」


 カバーを慎重に元の位置に戻し、本棚を見ると少し汚れている部分を見つける。おそらく長年使用しているため、ここだけに手垢が付いていたのだろう。


「ここだけ不自然な汚れがあるってことは……ここだけを常に触れているって訳だ。なら、ここを調べれば……」


 そこに手をかけ、本棚を動かそうとするとあっけなく本棚がぐるりと動く。回転扉の容量で本棚が回る。


「……ビンゴ、だな」


 回転した本棚の裏側は壁ではなく、奥へと進む通路が現れた。少し進むと新たな扉があった。ドアノブに手を回すと、ゆっくりノブが回る。


(……鍵はかかっていない。どうやら普通のドアみてぇだな)


 恐る恐るドアノブを回す。あっけなく扉は開き、そこには地下へと続く階段が見えた。壁には地面を照らすためと思われる燭台が等間隔に設置されていた。


(……蝋の感じからして、ここ最近も使われている事は間違いないな)


 燭台の一つを見ると、溶けた蝋はまだ新しい。おそらくこの二、三日中にはここに入った形跡があると推察できた。


(このまま奥まで入って調べたいところだが、もう限界だな。……流石に時間がねぇ)


 後ろ髪を引かれる思いで慎重にドアを閉め、本棚を本来の位置に戻して絨毯を直し、自分が侵入した痕跡を消す。それから部屋の向こうに人の気配が無いかを確認して廊下に出て鍵をかけ直す。


(……よし。これで大丈夫だ。残念だが今日はここまでにしとこう。あまり遅くなっても怪しまれちまうからな)


 ともあれ、この部屋に何かがあることは間違いない。上手く時間を作って再度この部屋を調べる時間を確保しようと思い保管庫に向かい、茶葉を取り姉妹達の元へと戻った。



(……さて、ようやくまたあそこを調べるチャンスが来たな)


 次に部屋を調べる機会を今か今かと待つこと数日、ようやくその機会が訪れた。


「カノアさん、お母様とお姉様と近々お茶会をしたいの。私たちの好みはもうカノアさんが把握してくださっていますし、他の皆様へ振舞う茶葉もカノアさんにお任せしますのでご用意してくださいますか?」


「……かしこまりましたシーホ様。では、少しお時間を頂きまして、茶会の日までに間に合うようにご用意させていただきますので少々お待ちください」


 シーホからその声がかかるのを待っていた。この僅かな期間でシーホはもとより、夫人とナノハにも自分のセンスを認められ、三人の茶会に関する仕入れをはじめ、管理やブレンドは自身らで淹れる時を除きほぼ自分に一任される形になっていた。教わった事がここまで役に立っている事に、心の中でイスタハに改めて感謝する。


(……イスタハにみっちり教わったとはいえ、俺にこんな才能があったなんて自分でも驚きだな。無事に今度こそ魔王を倒したら、小さな街でカフェでも開こうかね)


 そう思いながら、再び時間を確保するために急ピッチで茶葉のブレンド作業を進めた。



「それではシーホ様、これからまた茶会用の茶葉の準備に向かわせていただきます」


 翌日、そう言って再びシーホの了承を得て保管庫へと向かう。


「さて……これで今日もあの部屋を調べる時間が確保出来たな。せめて、階段の下までは今のうちに確かめておきてぇからな」


 茶会に向け、自分の業務はそちらを最優先にと夫人からも言われているためそれを最大限に利用させてもらう。そのため、茶会に向けての茶葉はほぼ済んでいる状態にすることが出来た。そのため、保管庫に向かうことなくまっすぐ例の部屋へと向かった。


(……よし。人の気配もねぇしさっそく始めるか)


 最初のときとは違い、スムーズに鍵を開ける事に成功する。静かに扉を閉め、まっすぐ本棚に向かい、例の通路に向かう。明かりがないため、壁に手を添えて慎重に階段を下りる。


(……暗いな。明かりを点けられたら良いんだが、何があるか分からねぇから今は手探りで進むしかねぇな)


 恐る恐る階段を下りていくと、やがて下へと辿り着いた。明かりがないため、周りは暗闇に包まれている。


(流石にこれから先は明かりがねぇと厳しいな。さて、どうするか……)


 明かりを点けるかどうか悩んでいた、その瞬間だった。背筋に突然人の気配を感じた。


「……っ!……誰だっ!」


 自分の言葉に返事は返ってこず、気配の主が突如自分に襲い掛かるのを感じた。


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