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70話 ハイン、ハキンスと二人語り合う

「ここだ。入ってくれ」


 闘士クラスの宿舎に向かい、ハキンスの部屋へと向かう。首席の隊士のために用意された部屋はかなり大きな部屋だった。


(……流石に特級、かつ首席のための部屋だな。広いし快適だ。昔の自分の特級クラスの部屋も広かったが、さらに別格の広さだ)


 それに加え、ハキンスの性格もあって部屋には無駄な物が何一つ見受けられなかった。これが自分ならこれ幸いとばかりに雑多に物を並べていることだろう。


「……以外だな。吸うんだな、タバコ」


 換気しているとはいえ、吸っている者独特の香りが部屋から香る。ハキンスは喫煙者ではないと勝手に思っていたから意外であった。


「苦手か?お前は酒もタバコもとうに嗜んでいると思っていたのだが」


 そこまでお見通しかよ、と思いつつ苦笑しながら言う。


「……いや、問題ねぇ。どちらも大好物だよ」


 こちらの返事を察していたのか、返答する前に酒瓶とタバコの入った箱を持ってきたハキンスがこちらを椅子に座るように促しながら言う。


「そうだろうと思ったよ。さぁ、そこに座ってくれ。まずは軽く飲んで、一服してから話をするとしよう」


 そう言って酒をグラスに注ぎ、タバコの入った箱をこちらに渡しながらハキンスが静かにつぶやいた。


「ふう……」


 ハキンスから差し出された上物のタバコをひと吸いし、グラスの酒を口に運ぶ。酒も同じく上物のようで、口に運んだ瞬間、葡萄の芳醇な香りが口に広がる。


「どうやら口にあったようだな。安心したぞ」


 そう言いながらハキンスも酒を一口飲みながらタバコを吸う。しばし二人で無言のままタバコを吸い、酒を口に運ぶ行為を繰り返す。


「……さて、少し酒も入ったところで本題に入ろう。まずは礼を言う。今回、決して楽ではないクエストを俺に代わり達成してくれた事。感謝するぞ」


 そう言ってこちらに頭を下げるハキンス。慌ててこちらも言葉を返す。


「おいおい。やめてくれよ。こっちはただ依頼を受けて、それに応えただけなんだからよ。そんなに感謝される事でもねぇだろ」


 そう返す自分にハキンスは少しだけ笑い、グラスを傾け再び自分に話しかけてきた。


「そうか。では、素直にその言葉に甘えるとしよう。ではハイン、今回のクエストについて詳しい話を聞かせてくれるか?既に仲間には話しただろうから、お前からしたら繰り返しになってしまうだろうがな」


 そうハキンスに言われ、クエストの詳細をイスタハたちよりも念入りに伝えることにした。無論、魔剣に関しての内容は一切触れないようにした形で。魔剣についての情報は一言たりとも漏らさぬ事に細心の注意を払いつつもクエストの詳細を語っていく。


「……そうか。村の連中の回復や手当をしてから任務に挑んだという訳か。俺には出来ない芸当だ。やはり、今回お前に行って貰ったのは正解だったな」


 何本目かのタバコに火をつけながらハキンスが言う。普段の様子からは分からなかったが、実はかなりの愛煙家なのだろう。それに倣うように自分もタバコを手に取る。


「……まぁ、仮にも勇者クラスだからな。想定していたよりも負傷者が多かったし、まず治療を優先した方が後の対策も立てやすかったのもあった。本当、回復魔法をしっかり習っておいて良かったよ」


 クエストについての詳細を話しつつも、魔剣についての話は上手くぼかしつつ話し終えて内心安堵しつつも自分がそう言うと、首を軽く振りながらハキンスが言う。


「そうではない。いや、確かに回復の技術は大事ではあるが、初めて出会うにも関わらずそうやって即座に村人に寄り添える事が、だ。俺では魔物の討伐は出来るが、お前の様に円滑に人と触れ合う事は出来ないからな」


 そう苦笑してハキンスが言う。……確かにハキンスの性格では村人とコミュニケーションを取るのは難しいかもしれない。不器用と無愛想な一面が災いし、それを上回る強さと信頼感が少し付き合えば分かるのだが、初見でそれが伝わる者は少ないだろう。つくづく損な性格である。


「そんな事ねぇと思うんだがな。……ていうか、自分で思っているよりアンタは面倒見良いと思うぜ?そもそも、ただ強いだけで今の立場にはいられねぇよ。特級クラスかつ首席なんて、誰もがなれるもんじゃねぇんだからな」


 自分の言葉に少しだけハキンスが笑う。


「……だと良いがな。まぁ、お前にそう言われると悪い気はしないな」


 ハキンスがそう言った後、改めた形で口を開いた。


「さて、クエストの話も聞けたし、本題に入るとしようか」


 ハキンスの言葉に重みを感じ、思わず顔を上げてハキンスの顔を見る。その表情は真剣そのもので、思わず吸っていたタバコを灰皿でにじり消し、酒の入ったグラスをテーブルに置いた。


「何だよ急に。そんな改まって言うような話なのかい?」


 ハキンスの真剣な表情に気おされそうになりつつも、目線を合わせて口を開いた。


「……実は、正式に施設の卒業が決まった。時期としては約半年後だ。それをお前に一番に伝えたかった」


 ハキンスの衝撃の発言に、もう一度ハキンスの顔を見つめた。


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