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68話 ハイン、村を後にし施設へ戻る

「さて、もうこんな時間だな。それじゃ、そろそろ行くよ」


 そう言ってターミスや村長、村の面々に見送られ、村の入り口へと向かう。村長や村の連中から改めて感謝の言葉を一通り述べられたあと、最後にターミスがジレンと共に自分の前に立ち口を開いた。


「……お前には本当に世話になったな、ハイン。村に来てくれたのがお前で本当に良かった。……ほらジレン、最後にちゃんと挨拶しろ。いつまでもめそめそ泣いているんじゃない」


 そう言ってターミスのズボンを摘み、俯いているジレンを自分の前に出す。おずおずと前に出てくるジレン。泣き腫らしたようで、今も目には涙が溢れている。


「ぐすっ……だって、ハイン兄ちゃん、もう帰っちゃうんでしょ?そしたら、もう会えないじゃん……」


 泣きながらジレンが言う。そんなジレンの前でしゃがみ、ジレンと目線を合わせて頭を撫でながら声をかける。


「大丈夫だよ。約束する。俺が本当の勇者として旅立った時は、必ずまた会いに来るよ。見習いじゃなく、本物の勇者になった時にな」


 自分の言葉に涙を手で拭い、ジレンが言う。


「……本当?絶対に?」


 ジレンの涙が止まったのを見届け、もう一度目を合わせて言う。


「あぁ、約束する。晴れて勇者として旅に出たら、必ずお前に会いにこの村に来るよ」


 言いながら懐を探り、胸元にしまっていた小さな木彫りナイフをジレンの手に握らせる。


「……これ、くれるの?本当に?」


 言いながらもナイフを両手でしっかり握りながらジレンが言う。


「あぁ。次に俺が来るまで大切に持っていてくれよ。あと、貰ったからってむやみに人前で振り回したりすんなよ。もしもそれで自分や誰かを怪我させたら、すぐにターミスに取り上げて貰うからな」


 そう言うとジレンは鞘に仕舞われたナイフをぎゅっと懐に抱え、先程とは違って満面の笑みで言う。


「うん!約束する!僕、これ大事にするよ!」


「……良いのかハイン?本当に……」


 やり取りを一部始終見ていたターミスが、こちらに申し訳無さそうな顔で聞いてくる。


「構わねぇよ。そんなに価値があるもんじゃねぇし、旅先で焚き火を起こすために持ち歩いていた程度のもんだからな。このまま持たせるのが不安なら、お前の方で刃を潰して貰っても良いし、もう少しジレンがでかくなるまで鞘から抜けないようにして貰っても良いしさ」


 そう自分が言うと、ターミスが苦笑して言葉を返す。


「そうか……ではお前の言葉に甘えさせて貰うとしよう。こいつがもう少し大きくなるまでは鞘から抜けないようにして、加工して首から掛けられる様にでもしておくさ。こいつにとってはナイフと言うより、お前から何かを貰ったという事が何より嬉しいようだからな」


 鞘に入ったままのナイフを掲げ、目を輝かせているジレンを見ながらターミスが言う。鞘と柄には安物ではあるが、加護の彫刻が施されているため子供にはウケると思ったが想像以上の効果があったようだ。


「おう。あげたもんで怪我されちゃ悪いからそうしておいてくれよ。なぁジレン。もう一つ約束だ。お前がその約束を守って、次に会う時までそいつを大事にしていてくれたら、次にこの村に来た時はもっと良い物を持ってきてやるよ。そうだな……お前のための剣とか、な」


 そうジレンに言うと、ますますジレンは顔を綻ばせて叫ぶ様に答えた。


「本当!?絶対だよハイン兄ちゃん!約束する!僕、絶対これを大事にするし、人に向けて振り回したりしないよ!だから約束だよ!」


 先程までの涙はどこへやら、ジレンがはしゃぎながら言う。


「うむ。ハインの代わりに俺がずっと見ているからな。もしハインとの約束を破ったら、俺が即座に取り上げるからな」


 そうターミスに言われ、慌ててまたもやナイフを懐に抱え込みながらジレンが言う。


「や、約束するもん!友達に見せびらかしたりしないし、誰にも渡さないもん……」


 二人のやり取りを見て微笑ましい気持ちになりながらも声をかける。


「……よし。じゃ、名残惜しいけどそろそろ行くわ。二人とも、またな。元気でな」


 まだまだこうして話していたい気持ちを堪えつつ、二人に別れを告げる。


「あぁ。……待っている。俺やジレンだけでなく、村の連中もな。お前とまた会える日を今から楽しみにしているぞ」


「うん!僕、次にハイン兄ちゃんに会えるその時までに、今よりもっと強い男になってるからね!ハイン兄ちゃんがくれる剣を使えるぐらいにさ!」


 再び目に溜まった涙をこぼすまいと必死に堪え、ジレンがターミスに続けて言葉を続ける。


「おう。……じゃあ俺も、一日でも早く立派な勇者にならねぇとだな」


 村人総出で見送られ、後ろ髪を引かれる思いで村を後にする。村人たちはこちらの姿が見えなくなるまで手を振り続けてくれていた。


(……まさか、施設にいる間にこんな経験が出来るなんて思ってもいなかったな。ハキンスには二重の意味で感謝しなきゃいけねぇな)


 自分に代わってこのクエストを達成出来るに値すると評価し推薦してくれた事。そして、ハキンスの未来を改変するきっかけを与えてくれた事。そこまで思ったところで、ある事に気付く。


(いや。二つじゃねぇな。……三つだ)


 そう思いながら施設へと向かう足取りを速める。


 ……一刻も早く、二十五年前のあの時よりも早く特級へと上り詰め、勇者として旅立つ。


 今回のクエストを通して改めて自分にそう思わせるきっかけとなった決意を胸に、施設へと戻る足取りを更に速めた。


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