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67話 ハイン、予期せぬ形で未来改変す

(魔剣フィーネ……?しかも施設に封印された?それはまさか……!)


 思わずターミスの胸倉を掴んで詰め寄りたくなる気持ちを必死で抑え、冷静を装ってターミスの次の言葉を促す。


「……へぇ、興味あるな。聞かせてくれよ」


 ……魔剣、あるいは聖剣。施設を旅立ち、勇者として旅に出た中でそういったいわゆる伝説の武器の類の話を聞く事は一度や二度ではなかった。その大半は紛い物や嘘の伝承が大半を占め、本物に値する話というのはごく一部であった。そのため、旅の途中でそんな話を聞く時は話半分で聞いていた。


 だが、今ターミスははっきりと言った。『()()()()()()()()()()()()』と。


 ……それはつまり、ハキンスが手にした魔剣である可能性が高い。そうか。ここでハキンスは当時魔剣の話を聞いたのか。


「あぁ。そのあまりの威力に使いこなせる者がおらず、不用意に誰かに使われてしまったり、持ち出される事の無いように施設で厳重に封印しているそうだ。この話を広めない理由としては、下手に話して噂が広まり、この村にも変な連中が訪れるのを避けるためだ。お前なら大丈夫だと胸を張って言えるから、村長たちとも相談の上、何かの役に立てばと思って伝えることにしたのさ」


「そうか……ありがとよ。そんな剣が俺に扱えるかはさておき、記憶の中に留めておくよ」


 そう口ではターミスに答えていながらも、頭の中ではまったく別の事を考えていた。


(……そうか。過去の時は俺という存在が今こうして推薦を受け、施設を飛び出たクエストに出る事はなかった。当然、今回俺が受けることになったこの任務もハキンスの元に届き、ハキンス自身がクリアしたはずだ。ターミスからなのか村の他の連中からかは分からねぇが、ハキンスの強さを目の当たりにした者からすればハキンスにこの話を伝えたとしてもなんら不思議じゃねぇ。つまり、これでハキンスに魔剣の情報が伝わることはほぼ無くなった訳だ)


 確か、当時は施設から魔王の一味の襲撃を受けて奪われてしまった魔剣をハキンスが独自に突き止めて奪還したと聞いている。今後絶対にハキンスが噂を耳にする可能性はゼロではないにしろ、限りなく低くなったはずである。


(ハキンスに関しては、これ以上今出来る事はねぇ。なら、せめて今出来る事は……)


 急に黙り込んだ自分に、不思議そうにターミスが声をかけてくる。


「どうしたハイン?酒が回ってきたか?なら水を持ってくるが……」


 そう言って立ち上がろうとしたターミスを慌てて手で制して言葉を続ける。


「いや、大丈夫だ。……ターミス、一つ聞かせて欲しいんだが、その施設の連中はこの村に来ることはあるのか?」


 いきなりそう聞かれたターミスは怪訝な顔をしたが、すぐに言葉を続ける。


「うん?なんだいきなり。施設の連中がか?……そうだな。向こうで不足している食料や生活品を求めて来る事はあるな。そこまで頻繁ではないが、定期的にこちらに訪れる形ではあるな」


 ターミスの言葉に、意を決してターミスに話しかける。


「……そうか。それなら頼みがある。その施設の連中が次に来た時、単純に盗難に備えるだけじゃなくて、外部からの襲撃にも警戒して、防衛設備をしっかり整えるように伝えてくれ。その類の武器を保持する施設ってのは、盗賊だけでなく魔族からの襲撃にも逢いやすいからな。万が一の事態に備えておいた方が良いと思うからよ」


 突然の自分の発言に一瞬ぽかんとした表情を浮かべるターミスであったが、自分の顔を見てすぐに真剣な顔になって言葉を返す。


「そうか。話を聞いただけのお前がそう言うという事は、そうした方が良いということなのだろうな。分かった。すぐに村長を介して次に施設の者が訪れた時に伝えるようにしよう」


 ターミスのその言葉に安堵する。これで魔族の襲撃に対して少しでも施設の面々に危機感を与えることが出来るし、実際襲撃にあった際にはハキンスよりも自分の方に通達が届く形になるだろう。


(よし。……これでどれだけ効果があるかは分からねぇが、少なくとも話に聞く当時よりは施設自体も何かしらの対策を講じてくれるはずだ。本当にたまたまだったが今回のクエストに俺が参加したことによって、ハキンスの本来訪れる未来を変えるきっかけにはなっただろう)


 そう考えるに至り、魔剣の話を聞いてからようやく人心地ついた。思わず手元のグラスの酒を一気にあおり、すかさずタバコに火をつける。


「……どうしたハイン?先程から様子がおかしいぞ?もし具合が悪いのなら宴はここらでお開きにして、もう寝た方が……」


 ターミスの言葉に返答するよりも先にもう一口タバコを吸い、自分のグラスに酒を注いでから返答する。


「お開き?馬鹿なことを言うなよ。ようやく落ち着いたところなんだからさ。さ、まだまだ飲むぜ」


 お開きなんてとんでもない。ようやく自分の中でひと段落したのだ。不思議そうな表情を浮かべたままのターミスのグラスにも酒を注ぐ。


(……魔犬や魔猿の素材、推薦クエストの経験、達成の実績もありがてぇが、ハキンスの未来を変えるきっかけを作れたのが何より大きかったな)


 そう思い改めて安堵し、ターミスと村での最後の夜を過ごした。


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