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66話 ハイン、ターミス家で村での最後の夜を過ごす

 あれから数日、魔犬と魔猿の残党処理と被害にあった村人の治療、襲撃によって破損した施設や建物の修復作業に追われたものの、特に大きなトラブルが起こることもなく無事に作業は完了した。


「ハイン殿。貴殿のこの度の働き……誠に感謝いたします。信頼してはおりましたが、まさかここまで早く村の脅威を救って頂けるとは思っておりませんでした」


 そう言って村長が深々と頭を下げる。それに続くように村人たちも頭を下げる。


「いやいや。頭を上げてくれよ。こっちはただ決められた任務を遂行しただけなんだからさ」


 復旧作業中に肩を並べて笑いあっていた連中まで揃って頭を下げるものだから、こちらもかえって恐縮してしまう。


(……そういや、久しぶりだなこの感じ。施設を出て冒険者として始めて任務を達成した時の事を思い出すな)


 その時も同じように村人達から感謝の言葉を貰い、時には涙を流し自分の手を取り礼の言葉を述べる者もいた。勿論、そんな人達ばかりではなく、冒険を続けていく中では助けて貰って当たり前、あげくの果てには助けたはずの相手から罵声を浴びる事もあったが。


 そんな事をふと思い出していると、ようやく村の連中が頭を上げてくれたので改めて話を続ける。


「よし。ひとまずこれで復旧作業も落ち着いたな。魔犬も魔猿も、もう脅威になるような奴は残っちゃいねぇし、あとは村の皆で充分対処出来るだろう」


 そう言って村長の家を後にする。もう一度深々と頭を下げる村長たちに見送られながらターミスと共にターミスの家へと向かう。


「しかし……良かったのか?村で過ごす最後の夜が俺の家で。お前がどうしてもと言うので、村の連中との飲み会は昨夜に済ませたが、酒はともかく料理は格段に昨日のほうが上だぞ?」


 歩きながらそう話すターミスに、笑いながら答える。


「構わねぇよ。むしろ、人が多いほうが俺には落ち着かねぇよ。ジレンとだって全然喋らせて貰えなかったからな。このまま施設に戻ったら、俺が後悔しちまうよ」


 自分の言葉に、ターミスが苦笑する。


「確かにな。お前がもう少しで帰らねばならないと知った時のあいつの泣きそうな顔は凄かったからな」


「だろ?復旧作業中も近くをうろうろして、俺に話しかけてこようとしていたのは分かってはいたんだが、どうにも危険な作業だから近くにいさせる訳にもいかなかったしよ」


 資材の撤去や修復となると危険な作業が多く、万一の事態に備えて周囲は自分と大人たちに任されることがメインであったため、自分に声をかけたそうなジレンの姿を横目で見つつ作業するのはこちらも辛かった。


「そうだな。息子に泣かれてはかなわん。ありがたく家に迎えさせて貰うことにしよう」


 そう言って、二人でそのままターミス宅へと向かった。


「……あっ!おかえりなさいお父さん!それにハイン兄ちゃんも!」


 玄関先に着くと早々に、ジレンが満面の笑みで出迎えてくれた。


「おう。約束したからな。帰る前にもう一回冒険の話をするってさ」


 自分の言葉にジレンがまた笑顔を浮かべる。


「おいおいジレン、俺もハインも帰ってきたばかりだぞ。まずは風呂と飯だ。今日は特別に多少夜更かししても良いから、話を聞かせて貰うのはそれからだぞ」


 その様子を見ながらターミスがやれやれ、といった表情で答える。


「はーい!じゃあ僕、お風呂の支度するね!ご飯のお皿はもう出してあるから!」


 そう言うと同時に風呂場へ駆け出すジレン。頭を掻きつつターミスが声をかけてくる。


「やれやれ……すまんなハイン。飯の後、しばらくあいつに付き合ってやってくれ」


「おう。本格的な酒盛りはジレンが寝た後に、だな」


 ひとまず交代で風呂に入り、食事を済ませてジレンとのお喋りに興じることとなった。


「……そこでな、男の目の前にいきなり大きなゴーレムが現れたんだ。岩で出来ているはずなのに、そのゴーレムは血のような真っ赤な色をしたゴーレムだった。男はそこで逃げるか戦うか悩んだんだ。そして、戦う事を選んだんだ」


 話しながらジレンを見ると、話の続きに興味はあるものの、流石にいつもの就寝時間を過ぎているのもあって、眠気の方が勝ってきたようだ。


「うん……うん……」


 まるで相槌を打つような感じでこっくりと舟をこぎはじめる。


「さて、そろそろお休みの時間だなジレン。さ、抱っこしてやるからベッドに行こうか」


「まだ……お話聞くんだもん……」


 口ではそう言いつつも、素直にターミスに抱き抱えられるジレン。そのまま抱っこされたままベッドへと運ばれて行った。


「さてと。んじゃ、一服させて貰いますかね」


 そうつぶやいて窓を開け、ジレンが常に傍にいたため控えていたタバコに火を付け一服する。我慢していたため最初の一口がやけに美味かった。


「お、早速だな。俺も付き合うとするか」


 その声に振り向くと、酒の入ったグラスを二つ持ったターミスの姿があった。窓をさっきより大きく開いて二人分のスペースを作る。


「しかし、本当に話し上手なのだなお前は。ジレンはもとより、俺まで話に聞き入ってしまったよ。まるで、自分が体験していたかのように話せるのだな」


 ……実際、体験した話だからな、とも言えず煙を吐き出した後に曖昧にはぐらかして答える。


「まぁ、人の伝聞を聞いたり、冒険譚の類の本を読むのが嫌いじゃないんでね。自然とそうなったのかもな。まぁ、楽しんでくれたみたいで何よりさ」


 そう言って、二人だけの飲み会を始める。最初は今回の出会いに始まり、改めてターミス個人の感謝の言葉から始まり、他愛のない話をしていたのだが、ふと何かを思い出したかのようにターミスがこちらに向き直り話し始めた。


「……なぁハイン。これはあくまで噂なのだが、いずれお前が勇者として旅立つのなら、役に立つかは分からないが耳に入れておきたい話があるのだが」


 少し声のトーンが落ちたのもあり、ターミスの方に向き直り話を聞く。


「いきなり何だ?気になるな。聞かせてくれよ」


 そう自分が言うと、自分とこちらのグラスに酒を並々と注ぎ足し、一口飲んでから話し始めた。


「うむ。これは村長や俺を含めて村の一部のものしか知らない事なのだがな。ここからそう遠くない場所にある施設に封印されている『魔剣フィーネ』と呼ばれている剣の事について話しておきたくてな」


 ……ターミスのその発言に、思わず酒の入ったグラスを取り落としそうになった。


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