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55話 ハイン、新人育成クエストを満了する

「……ふぅ。何とか片付いたな」


 魔獣の群れを一体残らず無事殲滅したのを確認し、皆に声をかける。


「はい。お疲れ様でした師匠。流石の立ち回りでした。瞬時に属性を入れ替え、魔獣を仕留めていく姿……戦いの合間ながらも私、思わず見惚れてしまいました」


 目を輝かせてヤムが言う。そんな事を言いつつも、ヤム自身も多くの魔獣を仕留め、かつこちらの戦闘を見るだけの余裕を持って戦えているという事からも、ヤムの成長ぶりが見て取れる。


「おう。お前も修行の成果がはっきり出ていたみたいで良かったぜ。ただ、合間合間でまだ無駄に魔力を垂れ流していたみてぇだから、そこをもっと意識して戦うと良いぞ。雑魚と違って強敵や実力の伯仲した相手との戦いの時こそ、魔力の維持や切り替えが大事だからな」


「はい!精進します師匠!」


 そう言って背筋をびっと伸ばし、高らかに答えるヤム。一番動いていたにも関わらずこの様子なので安心する。


「……よし、じゃ、まずルーツだな。今回の影の功労者はお前だ。シトリマの治療を終えてからのお前の動きは完璧だと言って良いだろう。自分じゃ仕留めきれないと思った相手からは適切な距離を保ちつつも、魔獣の狙いが俺達に向きそうな所では上手く自分に目を向けさせ、そこからの回避の流れは完璧だった。これからもその調子で頑張れよ」


「はっ……はい!ありがとうございました!」


 そう言って深々と頭を下げるルーツ。


「で、最後はシトリマだな。……どうだ?実戦と訓練の違い、身をもって分かっただろ?」


「……はい」


 俯きながらも答えるシトリマ。どんな事を言われるのかと身構えているのだろう。


「まず、自分の力を過信するのは良くねぇ。あと、せっかくそれだけ才能があるのに、属性を使い分けずに得意系統に偏り過ぎだ。だから、さっきの様な事になった。……分かるな?」


「はい。……申し訳ありません」


 言い訳もせず、こちらの言葉をしっかり受け止めるシトリマ。その様子を確認してから続ける。


「で、色々あったがお前がやった中で一番やっちゃいけねぇ事がある。何だと思う?思い付いたもの、一つで良いから言ってみろ」


 自分の問いに、少し考え込むものの、顔を上げ答えるシトリマ。


「……自分の思い上がりで、皆を危険に巻き込み、挙げ句の果てに大怪我を負った事……です」


 シトリマの答えに返答する。


「だな。確かに思い上がりと協調性に関しては大いに反省すべきだな。だが、そこも大事だが、肝心なのはその後だ」


 そう話す自分の言葉に、シトリマが意外そうな顔を浮かべる。


「いいか?冒険に出れば不測の事態なんていくらでもぶち当たるもんだ。自分の、そして仲間との生き死にと常に隣り合わせの世界だからな。肝心なのは、そんな場面に出くわした時に、いかに立ち向かうかなんだよ」


 自分の言葉を真剣に聞くシトリマ。後ろのヤムとルーツも無言で自分の言葉に聞き入っている。


「これから先、ミスや計算違いなんかいくらでもあるし、したって良いんだ。死ななきゃ負けじゃねぇ。問題なのは自分や仲間がそうなった時、いつまでもうじうじしているんじゃなくて、それをいかにカバーして乗り切るかが大事なんだ」


 そこまで言って、一呼吸して言葉を続ける。


「ま、そういう意味では、あの一喝の後からのお前の動きは充分合格だ。的確に魔法の使い分けも出来ていたし、近接で戦う俺とヤムの位置を瞬時に把握し、俺たちを巻き込まないように魔法を放っていた。お前自身の動きも無駄が無かったしな。……よくやった。初クエスト、お疲れさんだったな。シトリマ」


「はっ……はいっ!ありがとうございました!ハイン先輩!」


 先程までの中で、一番晴れやかな表情を浮かべ大きな声でシトリマが言った。この様子ならきっと今後はソロは勿論、パーティーでのクエストも問題無くこなしていけるだろう。


「おう。改めてお疲れさん。ヤムとルーツもな。よし、じゃあ今の戦闘で素材も充分取れそうだし、各自必要な素材を回収して戻ろうぜ。幸い、仕留めた連中の中で全員必要な素材があるみてぇだからな」


 自分の言葉に全員が頷き、素材を回収して施設へと戻ることとなった。



「ハイン先輩っ!お疲れ様です!クエストを付き合って頂けないでしょうか!」


「わ、私もお願いしますハイン先輩!」


 その後。


 無事にクエストを達成し、戻ってから二人に上から目線の余計なお節介にならない範囲で改めてクエストに向かう際の注意点や心得、アドバイスを伝えてお開きとなった。


 ……なったのだが。


「俺を正しい方向へと導いてくださったハイン先輩……!貴方の様な偉大な隊士、そして冒険者になれるよう、これからもご指導よろしくお願いいたします!」


「私もです!あの時……ハイン先輩のお言葉が無ければ私は今も自分に自信が持てないままでした……!私も、もっとクエストを通してハイン先輩に教わりたいです!」


 あれからというもの、事あるごとにシトリマとルーツが自分をクエストに誘うようになった次第である。


「お、おぅ……ひとまずはソロの予定が入っているから、もう少し待ってくれよな……」


 そういうものの、なおも二人は自分にぐいぐいと話しかけてくる。その横で、ヤムたちが何やらつぶやいている。


「くっ……二人があぁなる過程の一部始終を師匠と一緒に見ていただけに、他の連中の様に無碍に出来んのが複雑だ……」


「ハ、ハインさまの魅力に気付いてしまった方がまた増えてしまいました……う、嬉しいけれど、複雑……」


「……はぁ。ま、こんな感じになるのは予想していたけどね。これから新人に付き合う時は気を付けなよハイン」


 苦悩しているヤムとプランをよそに、一人冷静なイスタハにぼそりと言われる。


「……分かってるよ。ったく……あぁもう!並べ並べお前ら!一人ずつ順番に話を聞いてやるから!」


 どうやら、まだまだ勇者として旅立つどころか、卒業までの間にまだまだ自分の周りは賑やかなものになりそうである。


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