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51話 ハイン、新人に苦言を呈す

「どうです?狙い通りでしょう?」


 やや得意気な表情でシトリマが言う。確認するまでも無く、魔法を放った先のオーク達は一匹残らず全滅している。自分でも上々の成果だったのだろう。


 事実、ルーツはもちろん、ヤムも先程のシトリマの魔法を見て驚きの反応を浮かべているため、それも加わりこいつの気分を良くしたのだろう。だが、そこで自分が言葉を放つ。


「あぁ。魔法を放つタイミングや狙いといい、魔法自体の威力も含め、そこだけ見りゃ百点だ。……だが、今回のケースで言えば、出来栄えはギリギリ合格の四十点、ってところだな」


 自分のその言葉に、先程までとは打って変わって不快さを隠さずにシトリマがこちらに強めに言葉を返す。


「……どういう事ですか?こうして自分は狙い通りに一撃で群れを仕留めましたよね!いったい、この結果に何が不満なんですか?」


 シトリマのその言葉に返事は返さず、三人に呼びかける。


「口で説明するより、見た方が早いだろ。行くぞ。着いてこい」


 そう言って手招きし、オーク達のいた方へと向かう。何が何だか分からないといった表情のヤムとルーツ、不満げな顔のまま渋々と着いてくるシトリマ。


 すぐにオークの群れの亡骸の前に辿り着く。周りの岩がこれ以上崩れてこないかを確認してから本題に入る。


「よし。じゃあシトリマの質問に答えるぜ。ただ、先にこっちから一つ質問だ。シトリマ、今回のクエストの目的と目標は何だ?」


「えっ……それは、魔獣の複数討伐……ですよね?」


 不意に話題を振られたため、一瞬動揺しながらシトリマが答える。その言葉に頷き、自分が答える。


「あぁ。その通りだ。だが、それだけじゃねぇよな。今回のクエストの目的はそうだが、目標は何だった?」


 自分の言葉に、シトリマより先に気付いたのはヤムだった。


「……あっ!そうか……『それに加え、各自必要とする素材の確保』ですね!」


 ヤムの言葉に、ようやく気付いたのかシトリマがはっとした表情を浮かべる。気付いたようなので、瓦礫からはみ出たオークの残骸を手で掴んで持ち上げる。


「そうだ。オークの牙と爪を素材で希望していたのはルーツだったな。見てみろよ。こんなボロボロじゃ、とてもじゃねぇが素材としては使えねぇ。瓦礫に埋もれた奴はこれよりも酷いだろう。それじゃ、仕留めた意味が半分、それ以下だろうよ」


 言葉に詰まったシトリマに、更に会話を続ける。


「単純にクエストの達成だけを優先するなら、俺もここまで文句は言わねぇ。ただ、パーティーで話し合い、各々の希望する素材を話し合った上での出発だったはずだ。それはお前も了承済みだったよな?」


「…………」


 言葉を発さぬままのシトリマに、更に続ける。


「お前、ルーツとヤムの技術を見て、『自分も凄いところを見せてやろう』って思っただろ?だから、見た目も倒し方も派手なやり方を選んだ。お前の技量なら、素材をもっと綺麗な状態で確保出来る魔法を他にいくらでも放つ事が出来たにも関わらずに、な」


 図星だったとみえ、ぐっ、と言葉を飲み込むシトリマ。


「これがソロや身を守る撃退のためなら俺もこんな事言わねぇよ。ただ、パーティーで行動するなら、もっとそういった所にも配慮しろ。でないと、後で泣くのはお前だぞ」


 そこまで言ったところで、ややキツい言い方になったかと思ったが、予想以上に彼のプライドを損ねたようでシトリマが大声で叫んだ。


「……うるさい!そもそも、俺はこんなパーティーでクエストになんか参加する必要は無かったし、来たくなんかなかった!俺ならもう、ソロでやっていけるんだよ!自分が強ければ、一人で充分なんだ!」


 ……やはりまだまだ世間知らずだな、と思いつつ、先程よりやや口調を和らげて言う事にする。


「……シトリマ。お前が優秀なのは、さっきの魔法を見ただけで分かるよ。お前の才能なら、いずれ特級も目指せるだろうさ。でもな、いざ施設を出て冒険者になった時、一人では必ず行き詰まるんだよ。その時、自分には出来ない、出来ても難しい所を補ってくれる仲間やパーティーが絶対に必要になるんだよ」


 かつて自分が体験した、嘘偽りない過去の気持ちを込めてシトリマに言う。


 だが、今のシトリマには逆効果だったようで、激昂しながら叫ぶ様に言った。


「……もう良いです!だったら、次のオークの群れや、他の魔獣も俺が一人で片付けます!もちろん、素材として上質な形でね!それでもう文句は無いでしょう!その代わり、二度と上から目線で余計な口を挟まないでくださいっ!」


 そう吐き捨てるように叫ぶと、シトリマはその場を駆け出していった。


「あっ……!おい!シトリマ!」


 ヤムが慌てて声をかけるが、その言葉を無視してシトリマは走り去っていく。


「あ……あの、私は別に絶対に素材が欲しいという訳ではないので……だ、大丈夫ですから……」


 咄嗟の出来事に狼狽えているルーツを手で制し、やれやれといった感じでひとまずこの場を収める事にする。


「……や、ちょっと言い方がキツすぎたかな。ま、少し時間を置いてあいつにも落ち着いて貰う事にするさ。ヤム、お前が仕留めたオークは牙も爪も傷んでねぇし、ルーツに素材を渡して良いよな?……シトリマにも少し頭を冷やして貰いてぇし、素材を解体してからあいつを追いかけようぜ」


 ヤムが了解したのを確認し、ひとまずオークを解体してルーツの分の素材を確保したところでシトリマの駆け出していった方向へ向かう事にした。


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