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47話 ハイン、育成隊士と顔合わせする

「……やはり、納得いきません。お話は分かりました。師匠の志は立派で尊敬出来ます。……ですが、何故私も同伴なのでしょうか?」


 迎えた新人育成の当日、受付に向かう道すがらぼそっとヤムがつぶやく。どうやらまだ納得がいかないようだ。


「だから、何度も説明しただろう?お前ももう少し、俺たち以外の人間ともコミュニケーションや連携を取れるようにしなきゃいけないってさ」


 あれから受付で相談し、新人育成の際にこちらからも一人指名してクエストに同伴が出来ないかを提案し、それが了承されたため、ヤムを連れていく事にしたという訳だ。


「師匠から是非、お前に来て欲しいと言われた時は夢見心地でしたのに……なぜわざわざ新人とのクエストなのでしょうか……師匠と二人きりのクエストなら、プランやルビークにマウントを取れたでしょうに……」


 何のマウントだよ、と思いつつもヤムを宥めながら集合場所へと向かう。ヤムの同伴を条件につけたのは、実力が保証されているのに加えて気心が知れた相手が一人は欲しいというのと、ヤムの意識を向上させたいという意味合いがあった。


(イスタハは自分の才能を発揮出来る場所を見つけてからは誰とでもそれなりにコミュニケーションが取れているし、プランも引っ込み思案なりに少しずつクエストに行く連中と会話が出来るようになっている。……そう考えると一番厄介なのがこいつなんだよな)


 自分の事を慕ってくれているのは分かるが、最近どうにもそれが悪い方向に向かっている気がする。誰とでも分け隔てなく仲良くしろとは言わないが、あまり自分に傾倒するのはヤム自身のためにも良くない。


(元々、純粋な剣の腕なら俺よりも上に行ける才能があるのに、下手に俺に依存し過ぎるのはヤムのためにも良くねぇ。俺以外とももっと他の隊士と関わる場を今のうちに与えないとまずいからな)


 そう思い、今回の育成に自分やイスタハ達と別の隊士と触れ合う機会を設けておきたいと思った次第である。


「まぁ、そういうなよ。新人と触れ合う事で俺達にも何か新たな発見もあるかもしれないぜ?」


 未だに不服そうなヤムを宥め、集合場所へと到着すると二人の男女が立っていた。


「あ……育成担当の方ですね?は、初めまして。私はルーツ。僧侶クラスのルーツ=ハーブと申します。よろしくお願いいたします」


 こちらに歩み寄り、おそるおそるといった感じでルーツと名乗った少女が声をかけてきた。


「おう。俺は勇者クラスのハイン=ディアン。こっちは剣士クラスのヤム=シャクシーだ。……んで、そこにいるのがもう一人の新人って事でいいかな?」


 そう言ってさも不満げに腕を組みながら仏頂面をしている少年に目をやって声をかけた。


「……シトリマ。シトリマ=ウインド。魔術師クラス」


 それだけ言うと、また不機嫌そうに目線を下に向ける。


「……おい、同じ上級とはいえ、仮にも教えを乞う形の立場でその態度は無いのではないか?」


 シトリマの態度に案の定ではあるが、ヤムが怒りと不快感を隠さずに言う。


「……別に、望んで乞う訳じゃないですから。俺は一人でクエストを受ける気だったのに、教官に言われて仕方無くここに来ただけですし。逆らって上級に進級早々、評価に響くのが避けたかっただけなんで」


 さらっとそう言い放つシトリマに、怒りのスイッチが入ったヤムが更に激昂する。


「なっ……!何だ貴様その態度は!いい加減にしろ!」


 なおも叫び、シトリマに掴みかからんとするヤムを宥め、シトリマに声をかける。


「まぁまぁ。落ち着けよヤム。シトリマの気持ちもわかるからよ。向こうからしたら、晴れてクエストに出られる直前でいきなり水を刺された様なもんだし。ま、色々不平不満もあるだろうが、一回付き合ってくれや。ま、教官や上からの指示ってのは分かっているみたいだし、いずれパーティーでのクエストは遅かれ早かれ自分でも受ける事にはなるんだからよ」


 なおも何か言いたげなヤムの口を塞ぎ、そうシトリマに言う。こちらの反応に毒気を削がれたのか、ややトーンダウンした口調でシトリマが言葉を返す。


「……まぁ、その通りですね。ま、そういう事なんで、早く済ませましょうよハインさん」


 怒り心頭ながらもヤムが黙ったのを確認しつつ、ルーツに向き直して声をかける。


「そうだな。……って事で、早速受付に向かおうと思うんだが、お前も構わねぇかルーツ?」


 不意に声をかけられた事に驚いたのか、慌ててルーツが返答する。


「えっ……?あ、はい!わ、私は大丈夫です!よろしくお願いします!」


 ルーツの言葉に頷き、受付へと向かう事にする。無言のまま四人で受付へと向かう中、胸中で一人考える。


(……やれやれ。事前に聞いてはいたが、二人とも一筋縄ではいかねぇ感じだな)


 後ろを歩くシトリマとルーツをちらりと見ながら事前に目にした資料と二人の前評判を反芻する。


『育成隊士候補、シトリマ=ウインド。魔術師クラス所属。魔術の才能は突出しているが協調性に欠ける面が顕著に見受けられる。他者を尊重、協力する感覚を上級到達の時点で自覚させ、今後の成長を促したい』


 先程のヤムへの発言、自分への態度からして納得の内容だ。その才能はこれから確かめる必要があるが、確かにこの振る舞いは少し改善させる必要がたりそうだ。


(んで、ルーツの方は……こっちはこっちでまた厄介だな)


 振り返った自分と目が合った瞬間、咄嗟に目を伏せ俯きながら歩くルーツ。


『育成隊士候補、ルーツ=ハーブ。僧侶クラス所属。魔法の知識や習得速度においては目を見張るものがあるが、自信の無さや自己評価の低さが顕著である。己の実力を自覚させ、自信を持たせた上で今後の成長を促したい』


 十数名に及ぶ候補生のリストを眺め、自分が選んだのはこの二人であった。


 二人の他にも育成隊士候補はいたが、資料を見た限りでは自分以外の面子でも滞りなく新人育成が行われるだろうと思ったし、特筆して厄介な感じがしなかったのもある。


(……それと、勇者として胸を張って旅立つ前に、この手のタイプの連中をきちんと手綱を握って前線に立つ事が出来るようにならなきゃいけねぇ)


 シトリマの様な、才能先行型にありがちな自信過剰タイプ。逆にルーツの様に自信の無さゆえに本来の才能を自覚出来ず、それを活かしきれないタイプ。


 そういった連中の長所を伸ばし、短所を改善して優秀な隊士として育てたい。十五年前には出来なかった事を今なら出来るのではないかと思った。


『…………』


(……ま、そう簡単にはいかなそうだけれどな)


 無言で自分の後ろを歩く三人を見て、ため息をつきながら受付へと辿り着いた。



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