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35話 ハイン、ソロでのクエストに悩む

「うぇええ……眠い……頭も若干痛ぇ……」


 昨夜の一件でまともに眠れなかったうえに、色々な意味で心身ともに疲れたため、普段ならそこまで体に残らないはずの酒も残っているようだ。


「おはようハイン。……って、その様子じゃあまり眠れなかったみたいだね。まぁ、無理もないけれどさ」


 イスタハがこちらに近付いてきて声をかけてくる。


「おう。昨日はありがとなイスタハ。いや、色んな意味で助かったぜ」


 自分がそう言うとイスタハが頷き、隠れるように奥にいたヤムとプランの二人を手招きしてこちらに呼ぶ。


「ほら、二人とも。ハインに言う事があるでしょ?」


 イスタハに促され、二人がおずおずと近付いてきてこちらに話しかけてくる。


「さ……昨夜はその、すみませんでした、師匠……」


「わ、私も……ご、ごめんなさい、ハインさま……」


 そう言って殊勝な態度で二人が謝ってきた。


「まぁまぁ。とりあえず今後はああいう事は控えてくれりゃいいよ。好かれるのは悪い気はしねぇけれど……流石にあれは心臓に悪かったからな」


 そう言うと二人の顔がぱっと明るくなる。


「は、はい!これからは正々堂々と師匠に面と向かってアプローチします!」


「わ、私も……せ、節度を持って真っ向アピール……うふふ……」


 ……こいつら、本当に分かっているのか。怖いんだが。


「……言っておくけど、度を越した行為をしたらまた説教だからね、二人とも」


 ぼそりと冷たくイスタハの言葉に二人がまたビクッとしてこくこくと頷く。……イスタハが昨夜二人にどんな説教をしたのか気になるが、これ以上面倒な事になるのも嫌なので触れないでおく。


「……まったく。いくらハインが心配とはいえ、やり方が夜這いっていうのはどうなのさ。ハインを振り向かせるための努力ならまだしも、部屋に侵入して襲い掛かるって……」


 話していくうちに昨夜の事を改めて思い出したのか、イスタハの口調にまた怒気がこもっていくのが伝わる。これはマズいと思い、会話を締めくくる。


「ま、まぁまぁ。二人も反省したようだし、もうしないって言っている事だしさ。ここはひとまず信用してやろうぜ。……よし、じゃあ俺はクエストの確認に行ってくるわ。これから、ソロのクリア数も増やしていかねぇとだしな」


 そう言って立ち上がると、ヤムも立ち上がって言う。


「で、であれば師匠、私も是非……」


「いや、とりあえずお前は稽古の予定があるだろ?お前も今のうちにもっと魔法の知識を付けないとこれからの伸び代が狭まるし、ちょっとそっちに専念しねぇとマズいぞ」


 痛いところを突かれてヤムが押し黙る。ヤムの剣技の腕は順調に伸びているが、どうにも魔法の知識や応用の段階で伸び悩んでいるのだ。


「そうだね。僕もプランも今日はクラスの講義があるし、ここでお開きにしようか」


「は、はい……お名残惜しいですが……また後で……」


 そう言ってそこで解散し、自分は一人クエストの受付所へと向かった。


「うーん……Bランクで中々条件が折り合いそうな奴はねぇなぁ……」


 特級クラスを目指す上で、いくつかの条件を満たす必要がある。

 その中の一つに『ソロ、パーティーでの一定数のクエスト達成』という条件があった。


 ソロでの達成が条件の中に含まれているのは、パーティーの運次第では他力本願でその数値を達成してしまう者が出てしまうためである。


 幸い、イスタハ達の飛躍的な成長もあり、パーティーでのクエスト達成率は申し分無く、四人であればBランクの高難度でも問題無くこなせるくらいの所には到達していた。パーティーでのAランクの受注の許可が下りるのは時間の問題だろう。


 そのため、今はソロでの達成率を上げるため、Bランク以上のソロでのクエスト受注を考えていたところである。


(うーん……こっちは楽にいけそうだが素材に旨みが無いし、こっちのクエストは手に入る素材はそこそこだが、イスタハ級に魔法の種類が使えないとちょっと厳しいな。仕方ねぇ。今日は出直そうかな)


 中々条件が折り合うものがなく、それでもと張り出されたクエストの一覧をしばし眺め続けていると、後ろから声をかけられる。


「おや、ハインか。どうした?クエストで悩んでいるのか?」


 声の方に振り返ると、一人の男が立っていた。


「誰かと思えば……テートじゃねぇか」


 視線の先には緑がかった髪と瞳。すらりとした長身と、背丈に並ぶ程の長剣を携える男。


 つい先日まで自分と同じ勇者クラス上級に在籍しており、現在は特級クラスへ進級。

 ……そして、未来の勇者クラスを首席で卒業する男、テート=フィンの姿があった。


「あぁ。ちょっとソロのクエスト達成数を増やしたくてな」


 そう自分が言うと、自分の横に並び、張り出されたクエスト一覧をテートも眺める。


「……なるほど、確かにお前に見合うクエストはなさそうだな」


 顎に手をやりながら、クエスト一覧を一通り眺めた後でこちらを向いてテートが言う。


「あぁ。だから今日はひとまず出直そうと思っていたところさ。少し日を空けりゃまた違うクエストもあるだろうからな」


 そう言うと、テートが思い付いたように言う。


「ふむ。……ならいっそ、上に掛け合って受けてみたらどうだ?Aランクのクエストをさ」


 思いもよらないテートの発言に、思わず目を見開いた。


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