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33話 ハイン、悩みを抱える

 ……月日の経つのは早いもので、隊士混合試合から早くも半月ほどが経過した。


 あの試合を見た者は勿論、噂が噂を呼び、上級クラスのルーキーが闘士クラスの特級かつ、首席のハキンスと善戦したという話はあっと言う間に広まった。


(……これでまた、ゼカーノみてぇなウザ絡みしてくる奴が出てきたら面倒な事になるよなぁ)


 などと最初の頃は思っていたが、ハキンスのネームバリューと実力は予想以上のものだったようで、陰で何と言われているかまでは分からないが、面と向かって絡んでくるような輩は全くと言っていいほど出てこなくなった。


 ちなみにゼカーノは、公衆の面前で無様に叩きのめされたのがよっぽど堪えたのか、あの後ハキンスから何か言われたのかは分からないが、自分の姿を見るとこそこそと姿を隠す様になった。


「……まぁ、それは良かったんだが……」


 今、自分はそれとは全く別の事で頭を抱えることとなっていた。


「ハ、ハイン君……?良ければ、今度一緒にクエスト付き合ってくれないかなぁ……?」


「ハイン君、ちょっと武器への魔力の込め方のコツを教えて欲しいんだけど……良いかな?」


 ……あれから、同じ勇者クラスの面子は元より、他クラスの連中からも異様に声をかけられるようになった。しかも、主に異性からである。

 内容は様々だが、今までに体験した事のない事態だったため、戸惑っている次第である。


「……まぁ、有名税という奴だな。お前は俺と違って愛想が良い分、しばらくは苦労するだろうな」


 たまたま出会ったハキンスに愚痴ると、苦笑しながら言われた。


「そうですか?自分もそんなに愛想良くはないとは思うんですが……」


 そう言った自分に、ハキンスは言う。


「そう思っているのはお前だけだと思うがな。まぁ、元来仲間を束ねる勇者というクラスに進んだお前だ。これも試練と受け止めるが良いさ」


 そうハキンスに言われた時は、成る程そういうものかと思った。

 ……だが、思った以上に事は深刻になっていた。


「ハイン君……今ってフリーなんだよね?もし、良かったら私と一緒にクエストだけじゃなく、施設を出てもパートナーになってくれたりとかしないかな……?」


「あー!抜け駆けずるい!私だってハイン君と一緒に演習行きたい!」


 ……断じて言うが、自分の顔はイスタハの様に甘いマスクではなく、ごくごく平凡なはずだ。そりゃあ浮いた話の一つや二つ、四十路を迎えるまでに無かった訳ではないが、報酬狙いのクエストのみの誘いならまだしも、食事や買い物にまで誘われるのは予想外である。


 当時、こんな扱いを受ける立場にはどう考えても一度たりともなかった。それがかえって今の状況に対して戸惑いしか感じないというのが現状である。


 ……そして、その現状に対して何故か自分よりも激昂しているのがヤム達であった。


「えぇい!散れ散れ!師匠の強さと魅力に後から気付いた者達など、師匠には不要!師匠のパートナーは私達だけで充分なのだ!」


「ハ、ハインさまの魅力は強さではなく、優しさと仲間を大切に思うところ……それに気付かぬ今更のこのこ擦り寄る連中など……死罪……うふふ……」


「あ、ハイン個人練習お疲れ様。早速だけど、次のクエストについてミーティングしようか。外部の声はシャットアウトしてね。僕達だけで行くんだからさ」


 ……正直、ヤムとプランの反応は想像出来たが、イスタハまでそうなるとは思っていなかったため、少し驚いた。そう思いイスタハに直接尋ねたが、イスタハ自身の反応は努めて冷静であった。


「え?いや、そりゃそうでしょ。僕は勿論、ヤムやプランもハインが今の状態になる前にハインと出会って、そのおかげで今の僕達があるんだもの。あんな一度の試合を見ただけでハインに擦り寄る連中に、僕達が愛想良くする理由なんてある?」


 そうあっさりと言い放つイスタハには正直少し驚いた。

 ……ともあれ、三人のおかげと言って良いのかはさて置き、自分は多少慌ただしくも日常を過ごしていた。


「ははっ、話には聞いていたけど随分と人気者になったもんだねぇ。あたしらの所にまで、アンタの評判は届いているよ」


 愚痴を聞いて貰いがてら、剣のメンテナンスがてらに顔を出しに言ったタースが酒の入ったグラスを片手に笑う。


「……自分じゃ良く分からねぇけどな。認められるのはありがてぇけど、こうも悪目立ちしちまうと色々やりづれぇよ」


 そう言って自分もグラスをあおる。下手に目立ってしまった分、こっそりとしか酒を飲めなくなってしまったため、こうしてタースの所に避難してきたという訳だ。


「難儀な性格だねぇ。多少の見返りを求めてくる連中だったら、適当に相手して片っ端から抱いてやりゃあ良いじゃないか。それともあれかい?お仲間の誰かともう『良い仲』で、その子に操でも立てているのかい?」


 にやにや笑いながらタバコに火をつけタースが冗談めかして言う。


「そんなんじゃねぇし、そんな気もねぇよ。……俺にも一本くれ」


 タースから貰いタバコをし、煙を燻らせため息と共に煙を吐き出す。


「はぁ……面倒くせぇなぁ……」


 大きなため息と同時に、勢い良く煙が口から吐き出された。



「……プランよ。お前はどう思う。ここ最近の師匠を狙う不埒な輩たちについて。意見を聞かせてくれ」


「ハ、ハインさまはお優しいので……このままではどんどんハインさまの元へ、誘蛾灯の様に異性が集まってしまうかと……うふふ、死罪……」


「うむ。……そこでだ。ひとまず共同前線といこう。師匠の事だ。迂闊に変な虫が来たところで師匠が簡単になびくとは思えないが、万一という事もある。ここはひとまず手を組み、師匠が他の輩に目を向けないようにする必要があるかと思う。どうだ?」


「ヤ、ヤムさまはライバルですが……戦友……そのお話……さ、賛成……」


 二人の間でそんな会話がされているとは夢にも思わず、自分はタースの工房で何杯目かの酒を勢い良くあおっていた。


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