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31話 決勝戦、決着す

「……おっ、どうやらあの二人、ようやく膠着状態から動き出すようだな。だいぶ長かったようだが、試合を再開するようだな」


「あぁ。しばらくの間牽制しあっていたし、ここからは一気に試合が動くかもな」


 先程の会話は本当に小声で交わしたため、観客は勿論、審判にも聞こえていないだろう。自分も試合が終わっても、先程のハキンスの独白は自分だけの胸に留めておこうと思った。


「……俺は、先輩の選択が正しいとも間違っているとも思いません。ただ、純粋に貴方と戦ってみたい。それだけですから」


 そう言うと、ハキンスが少しだけ口元を歪めて笑う。


「……あぁ。そう言って貰えると助かる。さぁ、行くぞハイン。試合再開だ」


 言うが早いか、ハキンスがこちらへ先に仕掛けてきた。


「……くっ!」


 早い。『隼』でなくとも、攻撃の一つ一つが早く、そして重い。ただの突きや蹴りが、ハキンスが放つだけで恐ろしく威力を増す。

 たった一撃まともにくらうだけで勝負が決まってしまうのではと思う。


(まったく、再開した途端にこれかよ……!こりゃ、一瞬も気が抜けねぇな)


 ハキンスの攻撃をかわし、負けじとこちらも攻撃に転ずる。


「……炎よ、爆ぜろっ!」


 炎の斬撃を放つも、ハキンスの拳の風圧で相殺される。同じ手は食わないとばかりに、すかさずハキンスの追撃が襲いかかる。


()く翔けよ!『隼』っ!」


 ハキンスが『隼』を放つ。だが先程、そして過去にくらった事により、ようやく対処法を見つける事が出来た。


(……いくら速いとはいえ、まず初撃に自分へ届くのは必ず衝撃波。なら、まずはその衝撃を……逃す!そして、間髪入れず本来の突きを……受けきるっ!)


「くっ……!このっ!」


 狙い通り、初撃の衝撃を受け流し、そして追撃の突きをどうにか受け止める事に成功する。とはいえ、相当の威力というのは変わらず、剣で受け止めたものの手にかなりの衝撃が走る。


(……こりゃ、連発されたらこっちの負けだな。そもそも、元々の才能と体術ありきの技だ。これで、もしハキンスが意識して『風』の魔力を自分で自由自在に乗せられるようになれば、更にこの威力は増すだろうな)


 両手の痺れを和らげるべく、一旦ハキンスと距離を置く。


「……流石だ、ハイン。『隼』をこうして対人でまともに放った事は、過去に無かった。魔物も含め、大概は最初の一撃で方が付いたが、まさかこうして見切られるとは思わなかった」


「……流石にそれは買い被りすぎですよ、先輩。正直、連発されたらおそらくこちらに勝ち目はありませんよ」


 嘘偽りのない言葉だった。実際、『隼』を連発されたらこちらに勝ち目はないだろう。あくまで、こちらの防戦一方になればの話ではあるが。

 事実として技を放つハキンスより、スタミナの消費量も、精神的な意味合いでもはるかにこちらの負担が大きい。


(だったら……みすみす負けると分かって守りに入る訳にはいかねぇよな)


 剣に纏った『炎』の魔力を解除し、新たに別の魔力を込める。


「……風よ!剣に宿れっ!」


 炎に代わり『風』の魔力を纏わせ、ハキンスへと斬りかかる。


「ぬっ!」


 様子見とばかりに即座にガードの体勢に入るハキンス。こちらの動向によってガード、もしくは回避に入るつもりなのだろう。


 だが、そうはいかない。そのためにわざわざ『風』に魔力をかけ直したのだ。


「風の化身よ!螺旋を描け!『螺旋斬(ヘリックス・ブレード)』!」


 剣から螺旋状の風の刃を放つ。直線ではなく曲線を描いた刃がハキンスに襲い掛かる。


「ぬっ……!これはっ!」


 避け切れないと思ったハキンスが防御の構えを取る。同時に、螺旋状の風の刃がハキンスに命中する。


「ぬうっ……!」


 まともに直撃すればそこらの連中なら問答無用で場外に吹き飛ばすどころか致命傷を与えられる威力の技だが、やはりハキンス程の手練れではそれは叶わず、見事に受け止められた。


(そりゃ当然だわな。ま、それを承知で放ったんだから仕方ない……よなっ!)


 間髪入れずに次の技を放つ。


「『烈風斬(ウィンド・ブレード)』!」


 追撃のタイミングは完璧だ。ハキンスの今の体勢ならば、これはかわせないはず。そう思った。


 だが、やはりハキンスは自分の想像を遥かに上回る実力の持ち主であった。


「なんのっ……!」


 驚くことに、ハキンスは自分の追撃を片手で弾いた。勿論、無傷とはいかなかったようだが、狙い通りの一撃を放ったのにこの程度のダメージしか与えられなかった事に衝撃を受けた。


(……マジかよ。強いとは思っていたがここまでとはな。こりゃ、悔しいけど今の時点じゃまだハキンスには敵わないかもな)


 心の中でそう思っていると、ハキンスが声をかけてくる。


「感謝するぞ、ハイン。期待はしていたがここまで良い勝負が出来るとは思っていなかった。お前になら……本気を出せる」


 そう言うとハキンスが、今までとは違う形で構える。構えたままハキンスが言葉を続ける。


「次だ。次の一撃で勝負を決める。正真正銘、次が最後の本気の一撃だ。……試合と言う事は重々承知している。……だが、お前になら試せる。死ぬなよ。ハイン」


「……随分と矛盾した発言ですね先輩?殺すつもりで本気の一撃を今から放ちますよ、って言っているようなもんじゃないですか」


 自分がそう返すと、ハキンスが苦笑しながら言う。


「……あぁ。自分でもおかしな事を言っているのは理解しているさ。……だが、こうしてお前と相対し、俺はまだまだ強くなれる事に気付いた。勿論、お前もな」


 そう言ってハキンスは、今までと違う構えの状態で力を込める。


「最後にもう一度言っておく。ハイン、受けきれぬと思ったらすぐに逃げろ。……これを対人で放つのはお前が初めてだ。お前でも耐え切れる保障はない」


 ハキンスの口調と様子からして、その言葉に嘘は無いだろう。だが、ハキンスのその言葉は自分にとってはある意味逆効果であった。


(……そんな事言われちまったら、こっちも真っ向から勝負したくなるじゃねぇか。まったく、お互いに厄介な性分だよな)


「……了解です。俺も、本気でいかせて貰いますから」


 自分の言葉に、ハキンスも無言で頷きより一層力を込める。


「あぁ。ではいくぞ、ハイン!」


 そう言ってハキンスが自分に向けて技を放った。


「……掴み、抉り取れ!『狗鷲(いぬわし)』!」


 叫ぶと同時にハキンスが蹴りを放った。……早い。『隼』よりも早く、突きではなく蹴りのため威力も『隼』以上だというのがすぐに分かった。


(避けることも、耐えることもおそらく不可能。……なら、こっちが取る手段は……一つ!)


 地面を抉りながらこちらに襲い掛かる衝撃波に、真っ向から駆け出し剣を構える。


「うおおおおっ!」


 衝撃波を剣で受け止めながら、ハキンスの元へと一直線に向かう。剣どころか腕まで一緒に持っていかれそうになりながらもその距離を詰めていく。


「なんとっ……!」


 動揺するハキンスの前に立ち、体を反転しながら剣に宿る『風』の魔力を解除し、瞬時に『炎』の魔力を込める。


(……瞬間的に魔力の属性を……入れ替える。これが自分の奥の手の『魔力転換』!そして……最後の魔力を込めて……一撃を叩き込むっ!)


 ハキンスの眼前で、最後の一撃を叩き込もうとする。決め技を受けきられたハキンスはまだ反応出来ていない。

 自分の魔力も体力ももはや限界である。自分にとっても最後の最後の一撃を、ハキンスに仕掛ける。


「……『炎激斬(フレイム・ハザード)』っ!」


 最後の力を込めた、全力の一撃をハキンスに向けてぶちかます。


「……うぉおおおっ!」


 反射的に繰り出したハキンスのグローブが、自分の剣とぶつかる。


「……うおおおっ!」

「……ぬうううっ!」


 自分の剣と、ハキンスの拳が炸裂する。お互いにせめぎ合うものの、仕掛けるのが早かった分、若干こちらの方に勢いが勝っている。


(……いけるっ!このまま……押し切れるっ……!)


 そのまま剣を握る手に力を込める。少しずつハキンスを押し始める。


(このまま……っ!あと少しっ……!)


 あと一息。あと一押しでハキンスを倒せる。……そう思った、次の瞬間であった。


 握り締めた剣が、威力に耐えかねて音を立てて砕け散った。


「なっ……!?」


 その反動で、剣を失った自分はそのまま衝撃を受けて後ろへと吹き飛ばされる。


「……それまでっ!武器破損、戦闘続行不可とみなし、試合終了!勝者、ハキンス!ハキンス=ビーグっ!」


 したたかに背中を地面に打ち付けられ、そのまま空を見上げる自分に審判の勝ち名乗りの声と、少し遅れて会場のざわめきとその日一番の歓声が聞こえてきた。


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