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25話 ハイン一同、ハキンスの強さを目の当たりにする

「そこまでっ!勝者、勇者クラス、ハイン=ディアン!」


 歓声が起こる中、倒れた対戦相手の手を取りゆっくりと立ち上がらせる。


「あんた……強いな。本当に上級上がりたてなのかい?これでももうすぐ、特級に上がる予定なんだがな」


 初戦となった一回戦の対戦相手の武闘家クラスの隊士が驚いたような表情を浮かべながら言う。


「そいつはどうも。いや、確かにあんたの一撃は早いし重かったよ。まともにくらったらこっちも危なかったと思うわ。でも、狙いが一辺倒過ぎたのさ。どこを狙うかが常に分かればこっちの対処もやりやすい、ってもんさ」


「成る程……無意識のうちにこちらの狙いがバレバレだったと言うわけか。ありがとう。今度は負けないように、精進するとしよう」


 そう言って互いに握手を交わし、ステージを降りて関係者席で待つイスタハ達の元へ戻る。


「師匠!まずは初戦突破おめでとうございます!見事な一撃でした」


 ヤムから渡されたタオルを受け取り、汗を拭う。


「お、お疲れ様でしたハインさま……。対戦相手のお方の決め技を華麗に回避し、相手のことを気遣い、鞘に剣を収めたままで仕留めるその配慮……素敵……流石、私のハインさま……」


「お、お疲れ様ハイン。お水で良い?果実水が良ければ売店で買ってくるけど」


 プランを軽くスルーしつつ、イスタハに礼を言い、冷たい水の入ったボトルを受け取り、さっそく勢い良く一口飲んで喉を潤す。


「いや、これで充分だよ。サンキューなイスタハ。ま、ひとまずは初戦突破で一安心だな」


 そう言ってまた水を一口飲んだところで、別のステージから歓声が上がる。


「……あそこは、どうやらあの無礼者の試合のようですね。腹立たしいですが、少し見に行きますか」


 ヤムの言葉に頷き、四人でゼカーノの試合ステージへと足を運ぶ。


「ははは!弱ぇ!弱いなお前!そんな腕前で、よく大会に出ようと思ったなぁ!」


 対戦相手を執拗にいたぶるゼカーノ。実力差は明らかだというのに、あえて審判に悟られぬよう決定打を放たずに戦う姿は見ていて不愉快だった。


「ま、参った……!」


「あぁ?聞こえねぇなぁ!……そらよっ!『寸鉄撃』!」


 そう叫び対戦相手を殴り飛ばし、相手を場外へと弾き飛ばすゼカーノ。


「……そこまで!勝者、闘士クラス、ゼカーノ=ナンショー!」


 審判が一瞬ためらいつつも、ゼカーノの勝ち名乗りを上げる。


「……今、明らかに相手の人、殴られる前に降参していたよね。酷い……」


 イスタハが顔をしかめて言う。


「……既に戦意を失った相手に対し、礼を尽くすどころか過度の一打を放つとは……隊士の風上にも置けぬ奴ですね」


「わ……私もそう思います……で、ですが、あの痴れ者……口だけの者ではない事はた、確かです」


 ヤムとプランが言う中、自分はステージ上で、ドヤ顔で勝ち誇るゼカーノを見ていた。


 ゼカーノは確かに強い。だが、それはあくまで隊士レベルの範疇だ。当時の自分ならいざ知らず、今の自分ならまず負けることはないだろう。

 ……だが、今の試合を見て、多少の手心を加えようという気持ちが薄れてきたのは自分の胸の内に収めておく。


「……行くぞ。もう充分だ。それより、俺の試合が始まる前にあいつ……ハキンスの試合が見たい」


 そう言って、Aブロックの試合会場へと足を向ける。


「それでは、他ブロックに先駆け、三回戦を始めます!闘士クラス特級、ハキンス=ビーグ!剣士クラス特級、ノット=ウバリンド!」


 予想通り、初戦を勝ち抜きシードのハキンスと当たる二回戦目の隊士はハキンスと戦う事を避け、早々に棄権した。


 本来ならば、他ブロックや同ブロックの試合の進行を待つ形になるのだが、予想外に同ブロックの試合が進んでいたため、急遽ハキンスにとっては初戦となる三回戦が先に行われる事になった。


「良かったね、ハイン。これなら、次のハインの試合の前にハキンスさんの試合を最後まで見れそうだね」


 そう言うイスタハに、ヤムが眉をひそめて言う。


「いや……そうも簡単にはいかんと思うぞ、イスタハ。対戦相手のノットは、私と同じ剣士クラス。そして特級だ。……悔しいが、剣の腕は私より上だろう。いくらハキンスといえど、そう簡単には勝てないと思うぞ」


 ……正直、ヤムは自分より上だと言ったが、今のヤムならばかなり良い勝負が出来ると思う。だが、あえて言わない事にした。


 自分との一件以来、どうにも自身に対して過小評価になりがちなヤムなのだが、それが上手い具合に作用して飛躍的に剣の腕が向上している。前までのヤムならいざ知らず、今のヤムは既に特級に届く技術を有していると思う。


 ……まぁ、自分が見ているため多少の贔屓目はあるだろうが。


「そっか。じゃあ最悪、ハインの次の試合が始まるまでハインはいれないかもだね。どうする?ギリギリまで見ていこうか?」


 ヤムの言葉にそう言うイスタハ。おそらく、手練れ同士の長丁場になると思ったのだろう。


「あぁ、そうだな。……だが、多分すぐに終わると思うぜ。勿論、ハキンスの勝利でな」


 自分の言葉に、三人とも不思議そうな表情を浮かべる。……だが、すぐに全員自分の言葉を理解する事になるだろう。

 あの男、ハキンスの戦いを見れば。


「試合……始めっ!」


 審判の声と共に、試合が開始される。


「……舐められたものだな。練習用のグローブとはな」


 憮然とした表情で剣を構えたノットが言う。

 そう、ハキンスの武器は武闘家クラスや闘士が組手の練習に主に使用している練習用グローブであった。


 指や手の甲を保護するため通常のものより厚めに作られており、打撃の威力が殺されるうえ、人によっては中に重りを入れて筋力トレーニングに使用されるものであった。


「なに、こちらは気にするな。そちらは構わず真剣で来ると良い。無論、本気でな」


 基本的に素手や爪など、徒手空拳で戦う武闘家クラスや、剣に特化した戦いの剣士クラスなどに対し、決まった武器に拘らず、純粋に己が使いやすい武器を使って戦うのが闘士クラスである。

 にも関わらず、わざわざ素手で戦うという事は、これがハキンスの戦闘スタイルなのだろう。


「言われずとも!行くぞっ!」


 叫ぶと同時、ノットがハキンスに仕掛ける。

 なるほど、ヤムが自分より上だと言うだけあってかなり洗練された動きだ。あの流れで攻め込まれたら、隙を突くのは少し骨が折れるだろう。


「ふむ……速いな。それに良い連撃だ。流石だな」


 言葉とは裏腹に、繰り出されるノットの連撃に対し余裕を崩さず避け続けるハキンス。


「くっ、余裕の表れか!……なら、これならどうだ!『蜂の一刺し』!」


 ノットの急停止からの鋭い突きがハキンスに襲い掛かる。ハキンスの表情が一瞬変わり、後ろに飛び退く。同時に、先程までハキンスのいた場所を地面ごとノットの剣が抉る。


「急停止、そこからの急加速の突き……か。なるほど、素晴らしい技だ」


 そう言って再び独特の構えを取り、拳を突き出すハキンス。


「……今のを避けるか。流石だな。だが、次はそうはいかんぞ」


 次の一撃を放つべく、剣を構え直すノット。


「……流石、特級同士の戦いだね。早すぎて、僕には何をしているか全然分からないや」


 感嘆の声を上げて言うイスタハ。ヤムとプランも同じ様な反応をしている。


「あぁ。確かにな。……でもな、この次だ。よく見ていろ。多分、一瞬だからな」


 自分がそう言った、その次の瞬間だった。


「……ふっ!」


 ハキンスが小声で何かを呟き、息を吐くと同時にノットに向かって拳を突き出した。


「がっ……!」


 次の瞬間、ノットの体が宙に浮き、そのまま場外へと吹き飛ばされた。


「なっ……」


「えっ……」


 周りの観客も、審判たちも、勿論隣で見ているヤムとプランも、何が起きたか理解出来ず混乱している。

 次の瞬間、一足先に我に返った審判が慌てて手を上げ勝ち名乗りを上げる。


「そ……そこまでっ!勝負あり!勝者、闘士クラス、ハキンス!ハキンス=ビーグ!」


 一瞬遅れて、場内から拍手が湧き起こる。


「し……師匠……い、今のは一体……」


 信じられない、といった表情でヤムが自分の顔を見ながら声を上げる。


「イスタハには荷が重いよな。ヤム、プラン。お前たちはどう見えた?あのハキンスの最後の一撃。分かる範囲で良いから答えてみてくれ」


 そう言うとヤムが先に答える。


「は、はい。そ、その……は、ハキンス殿が拳を突き出したところまでは見えておりました。で、ですが、私の見間違いかもしれませんが……ハキンス殿の拳が届く前に、ノットが既にのけぞり、その後にハキンス殿の拳が炸裂した様に見えました」


 続くようにプランも口を開く。


「は、はい……私も、まるでハキンスさんの拳が届く前に、既にノットさんが苦悶の顔を浮かべているように見えました……ま、まるで既に攻撃を受けたかのような感じで……」


 二人の感想を聞いて頷く。


「うん。及第点……ってか、ほぼ合格だな。そうだ。あれがハキンスの技なんだよ。目に見えない『不可視』の一撃、って奴だな」


 そう。目に見えない不可視の一撃。それがハキンスの強さの秘訣なのだ。


 それが何なのかは、受けた者には分からない。だが、確実に避けたと思ったはずの攻撃が相手に突き刺さる。


 見えない何かを警戒し、動きが鈍ってしまえば本物の一撃が襲い掛かる。


(あの時は魔剣での攻撃だったが……これが本来の技、って事だったんだな)


 かつてその技で顔を切られ、傷が残った場所が熱くなるような錯覚に陥る。


「……よし、そろそろ行くわ。もうすぐ俺の二回戦だろうしな。お前らは落ち着いたら戻ってこいよ」


 そう言って三人をその場に残し、Bブロックの会場に一足先に戻ることにする。


(……剣ではなく、本来の拳での一撃を見て分かった。やはりあの不可視の一撃、おそらくだが……多分原理は……)


 かつての傷跡があった顔の部分をもう一度撫でながら、会場へと足早に戻った。


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