19話 ハイン一同、新たな武器を手にする
「……さて、いよいよお待ちかねの日だな」
片手にタースのお気に入りの酒を持って、再びタースの工房に向かう。
「そうだね。タースさんがどんな風に仕上げてくれたのか楽しみだね」
隣を歩くイスタハもかなり期待しているようだ。
あれから数日間、武器も無くクエストにも行けないため、真面目に座学やトレーニングに励み、武器が仕上がったという知らせを今か今かと待っていたのだ。
「私も楽しみです。早く実戦で試してみたいです」
隙あらば自分に触れようとするプランを横で牽制しながらヤムも言う。
あれから二度ほど、ヤムとの稽古で二刀流を前提としたトレーニングに付き合ったが、まだまだ発展途上ではあるが今後に期待出来そうなイメージだった。
両手剣の時には剣を握る手へ過剰に力が込もっていたが、それぞれに剣を持つ事によってその力が上手く分散されているようだ。
「だな。利き手に頼りがちになるのをもう少し抑えられたら、大分モノになりそうな感じじゃねぇかな。あと、今後剣技に魔法を本気で応用したかったら、そっちもしっかり復習しろよ。そっちはまだまだ赤点だ」
あまり褒めて調子に乗りすぎないようにヤムに釘を刺す。
「ぐっ……し、精進します……」
痛いところを突かれたと見えて、ヤムが大人しくなる。
「ヤムさん……ハインさまの個人授業羨ましいです……わ、私もハインさまに稽古をつけて貰いたいです……お、主にベッドの上で……うふふ……」
「……何の稽古だよ……怖いっての。おっ、着いたぞ」
不穏な笑みで良からぬ発言をするプランをスルーして、ようやくタースの工房へとたどり着いた。
「お。時間通りだね。感心感心。おや、また差し入れかい?ありがたいねぇ」
挨拶もそこそこに酒瓶を受け取ると、早速それを空け始めるタース。
「おいおい、昼酒かい?ほどほどにな」
こちらの言葉を無視し、グラスに酒を注ぎ、美味そうに一息で飲み干すタース。……あまりにも美味そうに飲むため、思わず自分も飲みたくなる。
「いいんだよ。今日はもう開店休業さ。さ、本格的に飲む前に仕事を済ませようかね」
そう言って立ち上がり、ご機嫌な様子で奥から自分達の武器を持ってくる。
「じゃ、まずそこの坊やからいこうかね」
そう言ってまず、イスタハのブレスレットを取り出した。
「さ、まずは見た目を確認しておくれ」
そう言ってイスタハにブレスレットを手渡す。
「ありがとうございます。……わぁ、軽いですね。もっと重くなると思っていました。それに、この施された装飾も凄く素敵です。加工された宝石も綺麗に埋め込まれているし」
派手過ぎず、かつ地味過ぎない装飾が施されたブレスレットは、確かに服装を選ばず身に付けられそうだ。この辺りのセンスは加工屋の腕に掛かっているため、見た目の当たり外れはかなり存在する。
……なんせ、これがタチの悪い加工屋に当たると、とんでもないセンスに仕上げられるパターンもあるのだ。
かつて共にクエストに挑んだ魔術師は、謎の動物が叫んでいるような禍々しい装飾を施され、涙目でそれを身に付けクエストに挑んでいたのを思い出す。
「そうかい。気に入って貰えて良かったよ。勿論性能は保証付きだ。上質の鉱石だったから、アンタの得意の属性の魔力上昇は当然として、苦手な属性の魔力もある程度強化してくれるだろうさ」
イスタハも気に入ったようで、早速腕にブレスレットを着けている。
「さ、次はそこのお嬢さんだ。あんたの体格と手のサイズ、手持ちの剣と比較してこんな形にしてみたけど、どうかな?」
そう言ってテーブルに置かれたのは、自分の柄を再利用したとは思えないほど見事に加工された短剣だった。
長さとしてはダガー以上、ショートソード以下くらいの長さだろうか。アメジスト・ゴーレムの素材がメインに使われた刀身は、うっすらと紫がかった光を浴びている。
「グリップの部分はアンタの手の大きさに合わせて、魔獣の皮を巻き付けてある。使い込めば使い込む程、あんたの手に馴染んでくるはずさ。ガードは手元を守れるように付けてあるが、取り外せるようになっているから、使ってみて不要なら外しておくれ」
タースの説明を聞きながら、きらきらとした目で目の前の短剣をヤムが見つめている。
「あ……ありがとうございますタース殿!期待通り……いえ、期待以上の仕上がりです!」
そう言って早速剣を手に取るヤム。それを見ながらタースはまたグラスに酒を注ぐ。褒められた事に気を良くしたのか、先程よりも速いペースで酒を飲み干す。
「そうかいそうかい。せいぜい使い倒してやってくれよ。……さて、それじゃあ最後はハイン。あんたの剣も見て貰おうかね」
そう言ってタースは、鞘に入った剣を自分に手渡す。早速鞘から剣を抜き、その仕上がりを確認する。
「……いや、驚いたな。ヤムも言っていたが……こいつは本当、想像以上だよ」
タースの打ってくれた剣は、自分の予想を遥かに超えた仕上がりだった。
見ただけで分かる、磨き上げられた刀身。上質な素材を使ったのは勿論だが、タースの技術が裏打ちされた丁寧な仕事によるものだ。刃は赤黒く光り輝き、その切れ味が見るだけで伝わってくる。
「そうかいそうかい。そう言って貰えると職人冥利に尽きるってもんさ。重さや持った感じはどうだい?」
タースにそう言われ、改めて剣をしっかりと両手で握ってみる。……軽い。そして持ちやすい。自分の手に合わせて作られたそれは、驚くほどしっくりと手に馴染む。
正直、当時の自身がこのレベルの武器を手に出来たのは特級クラスに入った頃だった。勿論、当時もその武器を作ってくれたのが今目の前にいるタースであったのだが。
「あぁ。何も文句はねぇよ。俺も早く実際にこいつを試してみたいところだ」
自分がそう言うと、タースはまた嬉しそうに酒をあおる。
「そうかい。それなら何よりだ。メンテナンスや、使っていて何か気になることがあったらいつでも来な。……何だろうね。どうやらあたしゃ、あんたの事が気に入ったみたいだ。出来る限りの事は請け負ってやるよ」
そう言ってタースは酒を飲みながら笑う。その後、前金を差し引いた残りの代金を支払い、改めて礼を述べて店を後にした。
「……師匠は、年上属性も持ち合わせているのですね。気を付けませんと……」
「ら、ライバルは少ないに越したことがありませんが……タースさんの大人の魅力……見習いたいです……」
ヤムとプランが何やら言っているが、ひとまず気にしないことにする。
兎にも角にも、自分達の新たな武器が無事に仕上がった。




