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18話 ハイン、剣の製作を依頼する

「ここですか……見た目は随分荒れていそうですが……」


 工房の外観を見てヤムがぽつりと言う。確かに、自分も当時はそう思った。


「まぁまぁ。飯屋だって少し汚い店の方が美味い事だって良くあるだろ?ま、とりあえず行くぞ」

 そう言って店に入る。


 中に入っても『いらっしゃいませ』の声もなく、店の奥には無愛想な表情をしている女店主がカウンターで煙草を吸っていた。

 物憂げな表情で、頬に大きな傷があるが整った顔立ちの女性は煙草を吸ったまま、さも面倒くさいと言いたげな表情で言う。


「……なんだい?わざわざこんな外れの店に来るなんて、物好きな奴だねぇ」

 その言葉を聞くのは二十数年振りだ。思えば、最初にここを訪れた時も同じ台詞を言われたのを思い出す。


「あぁ。あんたに武器の作成をお願いしたくてね。これは相談料だ。挨拶代わりに受け取ってくれや」

 そう言って、先程酒屋で買ってきた酒を、瓶ごと渡す。


「へぇ……お前さん、誰かからあたしの事を聞いたのかい?こんな酒、お前さんの歳じゃ口にする事もないだろうに」


「あぁ。口は悪いが腕は一流の加工屋がいるって聞いててな。それでお願いに来たって訳さ」


 嘘は言っていない。もっとも、その時は当時特級クラスを目指して奮闘していた頃で、気合を入れて武器を新調した際にタチの悪い加工屋に当たり、酒場で愚痴っていた時に意気投合した常連からの紹介だった訳だが。


「はっ、初めてのくせに言うねぇ。気に入ったよ。あんた、名前は何て言うんだい?」

 女性がカウンターから身を乗り出す。


「ハイン。ハイン=ディアンだ」

 自分が名乗ると、女性はタバコを消し、灰皿に吸殻を放り投げた。


「そうかい。あたしは加工屋のタース。タース=ルーズだ。それじゃあハイン。詳しく話を聞こうじゃないか」

 そう言ってタースはカウンターを出て、こちらに向かってきた。


「へぇ……かなりの上物だね。こんな上質な素材を持ってこれるって事は、あんたら、若いのにかなりの腕利きかい?」

 テーブルに広げた自分の素材を、ルーペを使いしげしげと眺めながらタースが言う。


「いや。まだクエストを一回終えたばかりの初心者さ。たまたま初クエストで大当たりを引いたってところかな」


 素材を見ていたタースが驚いたように顔を上げ、こちらを見つめる。


「……本当かい?あんたら、とんでもないね。こりゃ凄いルーキーが現れたもんだ」

 そう言って、再び素材に目を向けタースは素材を吟味していく。


「……うん。これならかなりの武器が作れるだろう。で、どんな武器が欲しいんだい?」

素材を一通りチェックし終えたタースがこちらに聞いてくる。


「あぁ。剣が欲しいんだが、ショートソードかロングソード辺りを考えているんだがどうだろう」

 タースの質問に返答すると、タースは自分の側に寄ってきて、自分の腕を手に取った。


「ちょっと腕を見せてみな。……うん、大分鍛えているみたいだね。筋肉の付き方も悪くない。どれどれ、手の大きさは……」

 腕から肩にかけて、まるで触診するかの様に触られる。ヤムとプランが微妙な表情を浮かべているが、流石に空気を読み大人しくしているようなので安心する。


「うん。今のあんたならロングソードで良いんじゃないかい?もう少し体格が良くなれば、バスタードソードでも良いだろうけどね」

 流石の見立てである。思えば当時も全く同じ事を言われたのを思い出した。


「あぁ。それで構わねぇ。それでよろしく頼むよ」

 自分の言葉にタースが頷いた。


「あいよ。で、後ろの連中は何かあるのかい?」

 タースがイスタハ達に視線を向けて言う。


「あぁ。こいつは魔術師クラスなんだが、魔力強化のブレスレットを作りたいって事らしいんで、こいつのも見立ててやってくれねぇか?」


 そう言うとタースは頷き、イスタハの元に向かい先程の自分と同じ様に、イスタハの腕や体格をチェックしていく。


「何だいあんた、細っそい手首だねぇ。あたしの方がごつい腕してるじゃないか。あははは」

 腕周りをタースに測られているイスタハが苦笑している。頑張れイスタハ。これも洗礼だ。


「うん、あんたは動きに制限が出ないように軽めの素材にした方が良さげだね。ちなみに得意の属性は何だい?」

「は、はい。一通りは使えますが……特に得意なのは『水』か『風』だと思います」


 イスタハの言葉にタースは頷き、イスタハから手を離す。


「うん。いかにもそんな感じだね。了解さ。あんたの素材と工房にある物で、良さげな奴を見繕ってやるよ」

「はい、是非よろしくお願いします」

 イスタハの言葉に、タースはまたうんうんと頷く。


「了解さ。じゃ、早速取り掛かるとするかね。二人とも一週間弱くらい待って貰うけど構わないかい?」

 自分とイスタハが頷き、前金の用意をしていると、ヤムがタースに向かって言う。


「あの……わ、私も一つ、お願いしてよろしいだろうか」

 ヤムに声をかけられ、タースがヤムの方に振り向く。


「ん?あんたも見たところ剣士っぽいね……でもね、その剣を加工するならあたしじゃなくて、それを打った加工屋で打ち直して貰った方が良いよ。下手に途中で加工屋を変えちまうと、せっかくの業物を台無しにしちまう事も多いからな」


 タースにそう言われるも、ヤムは慌てて懐から何かを取り出して言う。


「ち、違うのです。お願いというのはこの剣ではなく、その……これを元に、新たに剣を打って頂きたいのです」


 そう言ってヤムが取り出したのは、自分が前回のクエストの際にヤムに放り投げた、壊れた自分の剣の柄だった。


「お前……わざわざそれ持って帰ってきたのかよ。とっくに捨てたかと思ってたわ」

「し、師匠から頂いた物を捨てるなんてとんでもない!これは、私が師匠から初めて頂いた記念の品ですから!」


 ……あれを贈り物と捉えるヤムの思考はさておき、それを剣として加工すると言う発想はどうしたものか。


「……いやいや、そもそもそれ、支給品の安物の剣の柄だぞ?それに、お前のその剣はどうすんだよ。それなりに鍛えた業物だろ?」

 自分がそう言うと、ヤムは意を決した様に口を開く。


「実は……師匠から教わるうちに私、二刀で戦えないかと思っておりました。教官にも相談しております」


 ヤムの言葉になるほど、と思った。

 ヤムの戦闘スタイルと身のこなしを考えると、二刀流は確かに合っていそうだと感じたからだ。


「……それは良いかもだけどよ、それなら支給品の剣の柄なんざ使わずに、一から良い素材で使った方が良くねぇか?」

 自分がそう言うものの、ヤムは一歩も引く気配は無さそうだ。


「いえ!師匠の使った剣の柄を使うという事が私にとって大事なのです!戦いの最中、師匠と共にあると感じられる事が!」


 ……良く分からない。が、隣で話を聞いていたタースが面白い、と言った様子で口を挟む。


「何だい。何やら面白そうな話じゃないか。うん、ちょっと見せてみな。……うん、刃だけが綺麗に砕けているね。これなら魔獣の皮でグリップを巻いて、鍔の部分から作ればいけそうだね。よしよし、あんたの手もよく見せておくれ」


 そう言われてヤムは嬉しそうにタースに駆け寄る。

「はっ!はい!よろしくお願いします、タース殿!」


 その後はヤムが目を輝かせ、何やら自分の希望を嬉々としてタースに語り、うんうん、と頷きながらそれを聞いているタースを眺めていた。


「……よし、じゃあこんな感じかね。じゃ、余裕を持って十日くらい貰おうかね。早めに仕上がるようならこっちから連絡するからさ」

 改めてタースに素材と手付金代わりの前金を収め、礼を言って工房を後にする。


「やれやれ、長くなったが何とか上手くいったな」

 自分がそう言うと、イスタハとヤムが頷きながら言う。


「うん。ありがとうハイン。きっと、僕に合う魔術具を作って貰える気がするよ」

「えぇ。タース殿は素晴らしい加工屋だと思います。私も、メインの剣を新調する際にはタース殿にお願いしたいと思います」


 確かに、上級に上がりたてでタースに武器を仕上げて貰えるのはかなりのアドバンテージだと思う。他の加工屋とは頭一つどころか三つは飛び抜けていると思うからだ。


「わ、私もいずれお願いしたいと思います……で、でもヤムさんが羨ましい……わ、私もハインさまの私物をそのうち……えへへ……」

 ヤムが不穏な笑みを浮かべ何やら呟いているが、ここはあえて触れないでおこう。


 その後は、ヤムとプランの加工屋へ付き合い、イスタハや自分の次回のクエストに向けての衣装を新調したりと、順調に買い物を済ませた。


 かくして、あとは念願の武器が新調されるのを後は待つばかりとなった。


お読み頂き、ありがとうございます!

少しづつPVが増えてきていて嬉しいです。今後もお読みいただけますと幸いです。

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