14話 目当ての素材の群れに遭遇、戦闘へ
「あれは……間違いないですね。もはやクリスタルではなく、アメジスト・ゴーレムと言えるのではないでしょうか、師匠」
「だな。そもそも元の呼び名も、鉱石で生成されてるゴーレムを一括りに総称した呼び名だからな。……ま、分類したらキリがねぇ、ってのもあるけどな」
ヤムへ言葉を返しながら、周囲の警戒を強める。
幸いまだ連中には気付かれていないため、今のうちに周辺の状況を確認する。
「ま、何にせよこっちの目当ての素材にゃ違いないし、戦う分には障害物もないし、広さも充分だな。イスタハは後方から魔法で援護してくれ。炎は変質する可能性があるから、出来れば使う魔法は『風』系統か『氷』系統で頼む」
イスタハが無言で頷くのを確認して、ヤムとプランに声をかける。
「ヤムとプランは近接で戦う際、弾かれるのを念頭に置いてくれ。斬る、ってより核を突くって感じでな。プランは核でも頭でも、叩きやすい方を狙って叩くスタイルを意識してくれ」
自分の言葉に二人も頷く。
「数は……ここからじゃ正確には分からねぇが、七、八体ってところか。数的には問題ねぇが、今までの奴等とは明らかに強度が違うからな。絶対甘く見るなよ。よし……行くぞっ!」
声をかけて、自分が先陣を切る。
飛び出した自分を認識したゴーレム達がこちらを見る。予想通り、数は八体だった。
だが、一番奥にいるゴーレムの色が他のゴーレムと異なり、一体だけ赤い色を帯びているのが気になる。……こいつをこの群れの頭と認識し、最大限の注意をはらうことにする。
「おらよっ!」
一番近くにいたゴーレムがこちらに反応する前に、核の部分を的確にひと突きする。ゴーレムが崩れ落ちるのを確認するのと同時に、背後の二人を確認する。
「はぁっ!」
ヤムが次に近くにいたゴーレムに斬りかかる。が、先程までのゴーレム達とは違い、脇腹に入った刃が弾かれる。すんでのところで後ろに飛んでゴーレムの攻撃をかわす。
「くっ!固いっ……!」
「馬鹿!だから言っただろ!斬るなら的確に核を突く、もしくは首を狙え!」
ヤムに向かってこようとしたゴーレムの追撃を弾き、体勢を整える前に首の部分を斬り飛ばす。
「はっ、はいっ!申し訳ありません師匠!」
「反省は後だ!今は目の前の敵に集中しろっ!」
そうヤムに言いつつも、内心本当に指示を出していると本当に自分が教官のように思えてしまう。本来、自分はそんなキャラではないと思うのだが。
「『氷爆球』!」
こちらに向かおうとしていたゴーレムの足元が凍り付き、動きを止める。後方にいたイスタハによるものだ、と把握したと同時に、そのゴーレムの頭をプランが粉砕した。
「はいっ!」
後ろのゴーレムの動きが一度止まるのを確認して、プランも一度こちらに下がる。
「ナイスだイスタハ!プランも良く見ていた!残りもその調子で片付けるぞっ!」
「うん!」
「はっ、はいっ!」
威力よりも速度を優先し、詠唱を簡略して魔法を唱え、足止めを意識したイスタハと、それを見て瞬時に好機と捉えてゴーレムに向かったプラン。
ヤムも仕留め損なったものの、手傷を負うことなく、その後は即座に次の行動に移れている。
正直、指示を出さずともここまで上手く連携が取れている事に全員のポテンシャルを感じる。
「よし!あと五体だ!気を抜くなよ!」
そう後ろの三人に声をかけ、改めて残りのゴーレムに目を向ける。
こちらを敵と認識し、こちらに威嚇の構えを向けるゴーレム達。が、そこで違和感に気付いた。
「一番奥のゴーレム……あれは、赤いゴーレム……?」
自分の声を代弁するかのように、ヤムが声を上げる。
暗がりからはよく分からなかったが、一番奥にいたゴーレムの色はやはり、他のゴーレムとは違い、赤く輝いていた。
「……だな。あれがこの群れのボスだろうな。明らかに他の奴と色が違う。気を付けろよ」
「はいっ!」
先程のミスを思い出したのか、不用意に向かう事はせず、慎重にヤムが剣を構え直す。
「あの赤い奴は極力最後に叩こう。ひとまず、他の奴を仕留める事に専念するぞ」
後ろのイスタハとプランが頷くのを確認し、自分も剣を構える。
「イスタハ!援護頼む!プランは好きに動け!ヤムは突くか斬るかの判断を迷うなよ!」
三人に声をかけ、先陣を切ってゴーレムに駆け出す。
反撃の構えを取ろうとしたゴーレムの頭を狙い、剣を捻りながら突き刺す。
「『流転突』!」
ゴーレムの頭を打ち砕いたのを確認し、ゴーレムの胴体を蹴り上げ後ろに戻る。
体勢を立て直そうとする自分に一体のゴーレムが襲い掛かろうと向かってくる。
「『氷爆球』!」
こちらに襲い掛かるゴーレムの目の前にイスタハの放った氷球が炸裂し、ゴーレムの動きが一瞬止まる。
「はいっ!そこですっ!」
動きを止めたゴーレムの頭を、プランが杖で打ち砕こうとする。が、ゴーレムの反応が一瞬早く、防御の構えを取ったゴーレムの片腕を打ち砕くに留まる。
「くっ!浅かったですね!」
だが、そこに間髪入れずにヤムが追撃を放つ。
「ここだっ!『瞬突』!」
間髪入れずに後ろにいたゴーレムの核の部分を的確にヤムが貫く。
「いいぞヤム!良く見ていた!イスタハとプランの連携も悪くなかったぞ!」
ゴーレムが崩れ落ちるのを確認して、三人に声をかける。これで、残りは三体である。
「油断するなよ。……特に奥の奴。おそらく、強さも硬度も他の奴より上だ」
こちらを敵とみなし、じりじりとこちらに近づいてくるゴーレムの姿を確認する。
面と向き合い対峙することで、改めてその色味を確認する。
「赤いゴーレム……さしずめ、ルビー・ゴーレムと言ったところでしょうか」
杖を握り直してプランが言う。先程ゴーレムを仕留め損ねたためか、どことなく慎重そうに見える。
「……だな。イスタハ。あいつに何か今すぐ一発、魔法打ってみてくれ。詠唱は簡略していい」
「分かった。……『風衝刃』!」
言うが早いか、イスタハが奥のゴーレムに向かって魔法を放つ。不意を突かれたようで反応出来なかった赤いゴーレムに風の衝撃波が炸裂する。振動音と共に煙が舞う。
「……やっぱり、一筋縄ではいかなそうだな」
煙が収まったその先には、先程と全く変わらぬ姿でゴーレムが佇んでいた。
「イスタハ、お前は他の二体を中心に魔法で戦ってくれ。安全な位置を確保してな。ヤムとプランはイスタハと連携しつつ、隙を見て仕留められそうなら頼む。俺は、ひとまずあいつを食い止めるからよ」
三人が頷くのを確認したところで、ゴーレムの方もこちらに向かってくる。
「行くぞっ!」
手前の二体のゴーレムの間をすり抜け、真っ直ぐにルビー・ゴーレムに向かって剣を構えて駆け出した。




