135話 ハイン一同、仕掛ける
「……助かったぜプラン。お前がいなかったら今のはかなりヤバかったよ」
そうプランに言うと、途端に体をくねらせてプランが何やらもじもじしながら言う。
「え、えへへ……ハインさまに褒めていただきました……しあわせ……」
だが現状を把握し、すぐに真面目な表情に戻りプランが再び口を開く。
「こ、後方から全体の様子を伺っておりました。ヤムさま、イスタハさまの安全を確認し、ドラゴンがハインさまに火球を放とうと首を上げていたので後方で待機しておりしました。間一髪でしたが間に合って良かったです」
しっかりと魔獣、魔族の要注意の行動パターンを頭に叩き込んでいたからこそ対応出来た事態である。それを実践で見事に行動に移せたプランに心の中でもう一度感謝する。
「ハインっ!」
「師匠っ!」
イスタハとヤムもこちらに駆け寄ってくる。向こうも自分たちの攻撃を立て続けに防がれた事に若干動揺しているのか、すぐには襲いかかってくる様子は見られなかった。
「俺は大丈夫だ。プランが機転を効かせてくれなかったら危なかったけどな。……よし、ここから仕切り直しだ」
先制攻撃に成功はしたものの、まだまだ油断は出来ない。二匹共に翼にダメージは与えたものの、あの程度ではまだ飛行自体は可能だろう。
(……まずはどちらか片方で良いから翼を封じたい。空中からさっきレベルの火球を放たれるとかなり厄介だ)
事前に皆へドラゴンだけではなく、飛行タイプの魔族や魔獣は空中戦を極力避けるべくまず翼を封じるべしと伝えていたのでそれは当然三人とも理解してくれている。それ故にヤムも自分も執拗に翼を狙う事にこだわった。
(原種にも亜種にも翼にダメージを与える事は成功した。……だが、まだあの程度なら二匹とも飛行自体はまだ可能だろう)
ヤムの放った一撃は的確に翼を斬ったものの、片方の翼はいまだ無傷のままであり、自分が対応した亜種の方は両方の翼を傷つけたとはいえどもまだ飛行を封じるほどの部位破壊には至っていない。
「多少飛び辛くはなっているとは思うが、まだどちらも飛べそうだな。せめて片方でも完全に翼を破壊出来れば良いんだが……」
思わずそうつぶやく自分に、イスタハが声をかけてきた。
「ハイン、僕に考えがあるんだけどいいかな?ヤムとプランも聞いて欲しい」
いつ二匹のドラゴンが襲い掛かってくるか分からない状況の中、イスタハが自分の作戦を端的かつ手短に話し始めた。
「……なるほどな。確かにそれなら確実に一匹翼を破壊出来るな」
イスタハの作戦を聞いてつぶやく。
「うん。ただそうなると成功するまでの間、リスクが一人に集中してしまう形になるからそれをどうするかが問題だね」
作戦の要になるイスタハは除外するとして、ここは自分がその役を買って出ようと思ったところでヤムが口を開く。
「師匠。その役目、私が引き受けます。プラン、悪いが今すぐ自分に『速度強化』をかけてくれるか?」
プランが頷き、即座に詠唱を唱え始める。その横でヤムが言葉を続ける。
「この作戦なら『風』の属性しか扱えない私が囮役になるのが一番適役です。師匠とイスタハが作戦の軸になりますし、ならばプランより私がそれを務めるのが一番成功率は高いと思います」
リスクを考え一瞬悩んだが、ヤムの意見が的確だったためすぐに思考を切り替える。
「……分かった。確かにお前の言う通りだ。だが、絶対に無茶をするんじゃないぞ。途中でまずいと思ったらすぐに自分の安全を最優先に考えろ。いいな?」
ヤムが頷くと同時にプランの魔法が発動し、ヤムに精霊の加護がかかる。すぐにプランが自分に声をかけてくる。
「ハ、ハインさまたちにもおかけした方が良いですよね?今すぐおかけします」
プランがそう言うものの、それを手で制して答える。
「いや。そうしたいのはやまやまだが、残念ながらあいつらも臨戦態勢に入ったみてぇだ。少なくとも今はそれを待つ余裕はねぇな」
視線の先には今にもこちらに向かって襲い掛かろうとしている二匹のドラゴンの姿があった。前に立つヤムに声をかける。
「いいかヤム。絶対に無茶するんじゃねぇぞ。致命傷さえくらわなければ何度でも立て直せるんだからな」
自分の声にヤムが頷きながら答える。
「はい。必ず役目を果たして見せます。イスタハ、準備を頼む。お前の合図と同時に私も仕掛けるからな」
ヤムの言葉にイスタハが即座に詠唱を唱え始める。同時に自分も剣に魔力を込める。
「……氷よ、剣に宿れ」
風の魔力を解除し、剣に氷の魔力を宿らせる。同時に、第一詠唱を唱え終えたイスタハが既に第二詠唱に入っていた。
「【我が魔力を糧として、凍てつく吹雪を起こせ】」
イスタハの手にみるみるうちに氷の魔力が集まっていく。そしてイスタハが次の詠唱に入る。自分の前に立つヤムが腰を落とし身構えるのが分かった。
「【汝の力を示せ、吹雪よ、舞い荒れろ】……『氷激嵐』!」
次の瞬間、二匹のドラゴンに向かって凄まじい勢いで吹雪が巻き起こる。それに気付いたドラゴンが慌てて回避しようとするものの、それよりも一瞬早くイスタハの放った魔法がドラゴン達に直撃する。瞬間、目の前で吹雪が白い渦を巻く。
(……頼むぞヤム。次の仕掛けはお前にかかっているからな)
吹雪の中のドラゴンの気配を探りつつ、両手で剣を強く握り締めた。




