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133話 ハイン一同、作戦会議を行う

「し……師匠……あれはまさに先程師匠がおっしゃっていたドラゴンの(つが)いですよね……」


 既に絶命していると思われるタイガーボルトの肢体に牙や爪を突き立て補食している二匹のドラゴンから視線を外さずにヤムが声を殺して自分に尋ねてくる。


「……だな。タイガーボルトに攻撃を仕掛ける時のタイミングといい、連携や波状攻撃が完璧だ。間違いなく普段からあの二匹は番いで行動しているな」


 捕食を続ける二匹のドラゴンを観察しているとイスタハも声を押し殺して声をかけてくる。


「……どうするハイン?ここで仕掛ける?それとも、さっき話したように単体や他の魔獣と争ったドラゴンを探す?」


 イスタハの言葉に少し考える。完全にタイガーボルトの不意を突いての攻撃だったため、二匹のドラゴンはほぼ無傷である。加えてタイガーボルトは既に絶命しているため、こちらが仕掛ければ攻撃の対象は即座に自分たちへ移行するだろう。


(……本来なら群れを作らず、野良で行動する単体のドラゴンを各個撃破していくのが一番望ましい。だが、この状況は……)


 三人が無言のまま自分を見ている。自分に判断を委ねるという事だろう。そんな皆を見て意を決し口を開く。


「いや。……ここで仕掛けよう。幸い、まだあの二匹は食事に夢中だ。今のうちに作戦を練ろう。皆、少し離れて話をするぞ」


 そう言って捕食を続けるドラゴンに万が一にも気付かれないようにその場を少し離れる。


(……確かにリスクはある。だが、この機会を逃せばこのクエストはかなり長引く可能性が高い)


 まずは対策を練ると同時に自分の意思を三人に伝える必要がある。そう思い音を立てずに少しその場を離れた。


「……よし。ここなら普通に話して大丈夫だな。あいつらの食事が終わらない内に手短に作戦を立てよう」


 そう言って自分が会話の口火を切る。向こうの様子を伺いながらヤムが自分に尋ねてくる。


「私は師匠がそうと決めたのならそれに従います。……ですがその前に師匠が今回仕掛けると決めた理由を教えてください」


 ヤムの問いに答える前に遠目にドラゴンたちの様子を確認する。食事の様子が続いているのを見てから言葉を返す。


「理由は簡単だ。二匹を同時に戦うリスクを避け、他のドラゴンを探すという選択肢がある事は確かだ。だが、その間に他の魔獣や魔物に遭遇する可能性が高い。目的のドラゴンを見つけて仕留めるまでに俺たちが余分な体力や魔力を消耗する事になる」


 先程のホワイトウルフやタイガーボルトのように、ドラゴンに近い高ランクの魔獣が多数生息するこの不安定な環境では目当てのドラゴンを見つけ出すまでに他の魔獣と遭遇する可能性がかなり高い。無傷かつ二匹同時討伐というリスクを背負ってでもこの機を逃すのは得策とは思えなかった。


「な、なるほど……この場合、リスクでもありますがメリットでもあるということですね……」


 プランが周囲を見渡しながら言う。


「そうだ。上手くいけばこの一戦で任務を達成出来る。加えて番いである故に片方がやられても逃亡する可能性が少ない。プラン、悪いが周囲に魔獣がいないか『気配探知』の魔法を唱えてくれ」


 そう自分が言うと、即座にプランが魔法を唱える。少ししてプランが口を開く。


「お、お待たせしました……。こ、この周囲にはあのドラゴンたち以外には気配を感じませんでした。それに、万が一周囲に魔獣が現れても、効力が切れるまでのしばらくの間は探知出来ます」


 プランの言葉に頷き、改めて三人に声をかける。


「決まりだな。それじゃあいつらの対処法と仕掛けるタイミングの作戦会議を始めるぞ」


 そう言って物陰で作戦を練る事にした。



「……では、打ち合わせ通り先陣は私と師匠の同時に仕掛ける形になりますね」


 あれから手短に、かつ簡潔にではあるがそれぞれの立ち回りを話し合って再びドラゴンたちの元へと近付いた。タイガーボルトはかなり食いでがあったようで、彼等の食事はまだ続いていた。


「あぁ。くれぐれも慎重にな。俺たちの同時攻撃が成功しなけりゃその後の立て直しがかなりキツい事になるからな」


 その場合の戦略も立ててはいるが、願わくば最初の奇襲が成功するに越した事はない。まずは二体のドラゴンに同時にダメージを与える必要がある。


「イスタハ、俺たちの攻撃が成功したらどっちでも良いから追撃を頼む。もし俺かヤムの初撃が外れた時はそっちを優先してくれ。プランは攻撃よりもサポートを念頭に立ち回ってくれ。原種は牙、亜種は爪に毒を持っているから誰かが攻撃をくらったらいつでも『解毒(キュアー)』を唱えられるようにしておいてくれ。『回復(ヒール)』とどちらを先に唱えるかはお前の判断に任せる」


 イスタハとプランにそう伝える。二人が無言で力強く頷くのを確認してヤムの方に向き直って声をかける。


「よし。それじゃあ俺たちも準備するか。焦るなよヤム。今のお前なら確実に初撃を叩き込めるはずだからな」


 自分の言葉にヤムが頷く。その表情は若干硬いものの、瞳には力が宿っている。


「……はい。不肖ヤム=シャクシー、必ず師匠の期待に応えてみせます。必ずやこの剣をあのドラゴンに届かせてみせます」


 ヤムの言葉に自分も頷き、自分も剣を抜きヤムと同時に唱える。


『風よ、剣に宿れ』


 風の魔力が自分とヤムの剣に宿る。それを確認して口を開く。


「皆、手筈通りにな。……行くぞっ!」


 その言葉が、戦いの合図だった。


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