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130話 イスタハ一同、特訓の成果を発揮す

「わ……私たちだけであのホワイトウルフと戦えというのですか!?」


 うろたえながらヤムが叫ぶ。無理もない。Sランクに相当する魔獣を目の前にしているのだから当然の反応と言える。だがそれを承知でヤムに告げる。


「そうだ。俺は一切手を出さねぇ。指示もしない。お前たちだけであいつを討伐するんだ」


 そう言って後ろに下がる。イスタハとプランも戸惑いながらこちらを見る。


「いいか?特級に上がればこのレベルの魔獣や魔族と対峙する事は当たり前なんだ。それこそ一人でSランクの奴らを相手にしなきゃいけねぇ事もある。初戦から俺を頼るようじゃいけねぇ。闖入者が来ないように周囲は俺が警戒しておくから、こいつはお前たちだけで相手をしろ」


 それだけ告げて剣をしまい三人の動向を見守る。当然ながら咄嗟に動けずにこちらとホワイトウルフを交互に見比べている。やれやれと思いつつ皆に忠告する。


「ほら、こっちを気にしていていいのか?向こうはもう戦闘態勢に入ったみてぇだぞ」


 自分の言葉に皆が一斉にホワイトウルフを見る。こちらを睨みながら体を低く身構えながら白い霧を体中から発し始める。


「……くっ!」


 それを見たヤムがいち早くホワイトウルフに切りかかる。だが視界を霧に阻まれその一撃は空しく宙を切る。


「早い!……それに、狙いが定まらないっ!」


 周囲が白い霧に包まれ、ホワイトウルフの姿が掻き消える。霧の中から明確な殺気は伝わるものの、その姿を見つけることは出来ない。


(……行動パターンは通常種のウルフを思い出せば一定の動きがおおまかだが予測出来るんだがな。ま、いまのあいつらじゃすぐに気付くのは厳しいか)


 ホワイトウルフの発生させた霧を確認しながら様子見を続ける。ホワイトウルフの中でも変異種クラスのレア個体の場合、霧の中に毒や麻痺の成分が混じった霧を発生させるタイプが存在するがこいつは通常の霧のようだ。これなら予定通り自分は見に回れるだろう。


 そう思って再び三人の様子を見守る。霧の中の殺気がより強まる。どうやら次の狙いはイスタハに決まったようだ。


(……気をつけろよイスタハ。警戒しているようだがそいつの攻撃は思っているより早いぞ)


 万が一の際には即座に駆けつけ『回復(ヒール)』を唱えられるように準備をしつつ、目の前の光景を見守る。自分の推測通り、程なくしてホワイトウルフが霧の中からイスタハ目掛けて襲い掛かってきた。


「うわぁっ!」


 イスタハの眼前にホワイトウルフの爪が迫る。だがその爪がイスタハに深々と突き刺さるよりも早くプランがすかさず反応していた。


「……はいっ!」


 間一髪というところでプランのメイスがホワイトウルフの爪を弾く。頬を若干切ったものの、すぐに体勢を立て直してイスタハが叫ぶ。


「ごめんっ!フォローありがとうプラン!おかげで助かった!」


 頬の傷からつたう血を手の甲で拭いながらイスタハ。出血したもののダメージはないようだ。


「はいっ!……また姿が霧の中に消えました!お気をつけくださいイスタハさま!ヤムさまも!」


 二人の元へヤムが合流し、両手に剣を構える。


「大丈夫かイスタハ!怪我は大丈夫かっ!?」


 イスタハの前に立つようにしてヤムが叫ぶ。


「ありがとう!かすり傷だから大丈夫!」


 ヤムに答えながら前を向くイスタハ。不意の一撃を受けたショックは微塵もない様子だ。


(成長したな。以前までのあいつならいくら軽傷でも精神を立て直すのにもっと時間がかかっていた。魔力だけじゃなく、精神面も確実に強くなっているな)


 この様子ならまだ静観して大丈夫そうだ。三人がこの後どのように仕掛けるのかを見守る事にする。


(……落ち着け。お前たちはもう特級クラスの実力を兼ね備えているんだ。お前たち三人ならそのレベルの魔獣は仕留められる。考えて戦うんだ)


「……ヤム、プラン。聞いてくれる。僕に考えがあるんだけれど」


 自分がそう思っていた時、イスタハがヤムとプランに声をかけた。二人に何やら小声で説明をし始める。


「……成程。了解だ。それならいけるだろう。頼むぞイスタハ、プラン」


「り、了解です。タイミングを合わせて……仕掛けます」


 三人の間で打ち合わせが終わったようで、即座にヤムが剣を構えて叫ぶ。


「……風よ!剣に宿れっ!」


 ヤムが両手の剣に風の魔力を纏わせる。それとほぼ同時にイスタハが詠唱を唱える。


「……【風の精霊よ。汝の疾さを我に与えん】」


 第一詠唱を唱えるイスタハ。ホワイトウルフが仕掛けてくる気配がないのを察し、引き続き詠唱を続けていく。


「……【我が魔力を糧として、風を放たん】」


 第二詠唱を唱え終えたイスタハの両手に風の魔力が収束していく。ここまでくれば向こうが動くよりも早く魔法を発動する事が可能だろう。そう自分が思うと同時にイスタハが第三詠唱を唱え終えた。


「【汝の力をここに示せ、風よ、爆ぜよ】……『風爆破(ウインド・ボムズ)』!」


 イスタハの手から風の球弾が放たれる。球弾が目の前に立ち込める霧の前に炸裂し、轟音と共に風が巻き起こる。


(……そう、正解だ。ホワイトウルフの対処法は魔法でも技でも良いからまず邪魔な霧を取っ払う事だ。万一霧に毒や麻痺成分が含まれていても吹き飛ばせば回避出来る)


 爆風がみるみるうちに周囲の霧を吹き飛ばす。やがてホワイトウルフの姿があらわになる。戸惑うホワイトウルフであったが、イスタハの魔法の風圧により咄嗟に動けないようだ。そこへ即座にプランが仕掛ける。


「……はああああっ!」


 ホワイトウルフ目掛け、プランが勢い良くメイスを振り下ろす。間一髪のところでホワイトウルフが跳躍しプランの一撃を回避する。


(イスタハの魔法の風圧で動きが制限される中、左右に回避するより本能でその場で後ろに跳躍。……なるほど。これを狙っていた訳か)


 空中に跳んだホワイトウルフ。そこにヤムがすかさず剣を構えて叫ぶ。


「計算通り!『流転双斬』っ!」


 ヤムの双剣での一撃により、空中でホワイトウルフの体が二つに分断された。


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