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128話 ハイン一同、いざ試練へ

「……詳しい話は以上だ。では、諸君らの健闘を祈る」


 出発当日を迎え、自分たちに詳細を伝えたザラ教官がそう告げる。


 あれからすぐにイスタハがこの任務を受注するとザラ教官に申し出て、数日の準備期間を経て当日を迎えた。伝達事項は全て伝え終えたにも関わらず、普段はあまり感情を表に出さないザラ教官が自分たちの前に立ち再び皆に向かって口を開く。


「……君たちも察している通り、今回の試練の内容だが表向きはS+ランクとあるが実際は何があるか分からない。イスタハは勿論、他クラスのハイン君を筆頭に君たちの実力は私も把握している。……だが私はムシックの様には考えられない。いいか?何があっても任務より自分たちの命を最優先に考え動いて欲しい。死以上の失敗は無い。生きて戻れば負けではない。それだけは常に念頭に置いて今回の任務に臨んで欲しい。……私からは以上だ」


 ザラ教官からの言葉を聞いていたヤムとプランが以外そうな顔を浮かべる。あまり関わり合いがない上に、一見すると冷静沈着かつ無愛想に見えるザラ教官から発せられた言葉に戸惑ったのだろう。二人と違い普段から指導を受けているイスタハは勿論、何度か言葉を交わしている自分はそのクールな態度の奥にあるザラ教官の温かさを知っているためあえて黙っていた。


「……はい。ありがとうございますザラ教官。必ず、無事に帰って戦果を報告します」


 イスタハがそうはっきりと答える。出発までに二人だけでもう少し話したいだろうと思い、自分たちが二人から少し離れたところでそのタイミングを狙っていたかのようにムシック教官が自分に声をかけてくる。


「やぁ。若干不安だったけれど皆素直に受けてくれて感謝だよ。表向きはイスタハ君の昇級をかけての試練だが、私は君たち全員の働きにも注目しているからね」


 白々しい姐さんのこの言葉に、任務に向かう前に一言言い返してやろうと思い立つ。……多分お約束の言葉が出るだろう。そう思いながら言葉を返す。


「……分かってますよ。実質、今回の内容を取り仕切ったのはムシック教官ですよね?他の教官たちの意見を抑えてこのクエストを設定。異を唱える他の教官に対して自分たちの実力やこれまでの経歴を踏まえて『多少何かが起きてもこの面子ならギリギリでクリア出来るレベル』と称してこの任務を決めた。違いますか?」


 そう自分が言うと、一瞬驚いた顔を浮かべるムシック教官。が、すぐにいつもの表情に戻って会話を続ける。


「……驚いたね。まるで私の手の内を見透かしたような物の言い方をするね。うん、確かにそうだ。私はね……」


 姐さんが言葉を発する前にすかさず自分が口を開く。


「『才能ある君たちが試練を乗り越えそれを成し遂げる姿が見たい』……ですよね?」


 虚を突かれた形で自分のこれから言わんとする台詞を先に言われた事にぽかんと口を開けて驚くムシック教官。すぐに眉をひそめて自分の顔を見つめながら真面目な顔になって口を開く。


「……本当に君には驚かされるね。まさか自分が言おうとした台詞を一言一句違わずに言い当てられるとは流石に思っていなかったよ。……似たような事は言ったかもしれないが、君の前で直接それを言ったつもりはまだなかったと思うんだけど」


 そう訝しがる姐さんを見てしてやったりと思った。たしかにこの言葉は今の自分にはまだ言われていない。過去に散々自分を含めた他の隊士に向けては聞かされていたが。


 座学や訓練、クエストに至るまで自分には荷が重い、本当に達成できるのかと皆が半ば諦めに似た感情で嘆くように声を上げる際に毎回この言葉が姐さんから発せられた。そして、その言葉を告げられた者は紆余曲折あれどもほぼ確実にその課題を乗り越えていた。


「教官ならこのタイミングでそんな事を言うと思っていましたからね。大丈夫です。何があっても必ず全員で無事戻ってきますよ」


 そう返す自分にまだ少し釈然としないものの、すぐに普段の調子に戻ってムシック教官が口を開く。


「……うん。私の判断が今回も正しい事を願っているよ。ただハイン君、本当に気をつけておくれ。私が君たちにそう思いながら課した課題はあくまで同レベルの魔獣や魔物が生息する中での任務達成だ。……もし備考に関する事が事実だった場合は決して無茶や深追いをせず、全員で直ちに任務より施設への帰還を優先してくれたまえ」


 真剣な顔でムシック教官が言う。自分たちが気にしていた備考と注意点についての事だろう。その予想は正しかった様でムシック教官が話を続ける。


「事前の調査では可能性については低いが、魔王軍のいる可能性は決してゼロではないとの事だ。だが致命的に情報量が不足している。なんせ高ランクの魔物や魔獣を相手にしながらの調査だからね。討伐、散策、索敵をしながら調査をするにはそれら全てを兼ね備えた面子を中々揃えられないというのが本音なのさ」


 申し訳なさそうにそう話すムシック教官を見つめ返して思う。確かに、このレベルの魔物達を相手にしながら調査をするなら特級クラスかつかなりの手練の面子が必要だろう。


 だが、リスクを負ってここを調査するぐらいならもっと実入りの良く安全なクエストや調査依頼がある。それ故に人数が集まらず情報が不足している理由という訳だ。当時の自分も旨味の少ないクエストや調査依頼はほとんど受けた記憶は無いだけに今回の事情も頷ける。


(……だが、今の俺にとってはチャンスだ。仮にその情報が本当であればイスタハたち三人の昇級に加えて魔王の現状が少しでも把握出来る。全員の生還、そしてイスタハの任務達成が最優先だが余裕があればその辺りも探っておきたいところだな)


「……その辺りの事情は何となくですが察しがつきます。可能な範囲でではありますが、全員での帰還と任務達成を最優先事項としつつその点も把握して望もうと思います」


 自分の言葉にムシック教官が頷いて言う。


「うん。頼んだよハイン君。君に、君たちに幸運があらん事を」


 かくして、自分たちは教官たちの見守る中試練へと向かう事となった。


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