表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/149

127話 イスタハ、試練の詳細と自身の思いを告げる

 イスタハによってテーブルの上に広げられた書状を見る。堅苦しい定型文の下に試練の内容が記されている。その内容を見てヤムがまず口を開く。


「……『ドラゴンとドラゴン亜種の討伐、及び素材の一部確保』ですか?……確かに過去最高の難易度かと思いますが、正直いささか拍子抜けですね……」


 ヤムの言葉にプランが続く。


「は、はい……今の私たちなら楽勝とまではいきませんが、決してクリア出来ない内容ではないかと思います……」


 二人の会話を聞きながら、無言で書状の全文を読み終えたところで自分よりも先にイスタハが口を開く。


「うん。僕も最初に口頭でザラ教官から告げられた時はそう思った。クリア内容は事前に聞いていた『S+』ランクには及ばないんじゃないかって。だったんだけど……肝心なのはここから下の文だね」


 そう言ってイスタハが問題の箇所を指で指し示す。無言でその箇所を読んでいたヤムとプランが驚きの声を上げる。


「なっ……!」


「えっ……!」


 驚く二人に代わり、自分が問題の内容を声に出して読み上げる。


「『【任務先環境】……山岳地帯。生態系すこぶる不安定。ドラゴンの他に山から生じる瘴気にあてられたBからSランク級の魔獣、魔物の存在を多数確認。それらを状況に応じて討伐及び回避して任務にあたる事』……か。つまり、討伐対象と同ランクに近い連中が周囲にごろごろいる中で目当てのドラゴンを片付けろって訳だ」


 そう自分が言うと、イスタハが自分に声をかけてくる。


「うん。それもかなりの難易度だと思うけど、僕が気になるのはここなんだハイン。……ここ、もう一度よく見て」


 ……イスタハの指差した文を読み上げる。自分もこの点が一番気になっていた。


 それは普段の任務やクエストならせいぜい任務先の気候や、調査隊の感想が記されている程度の【備考及び注意点】の項目であった。普段であれば一行に収まる程度しか記載されていないはずの項目に記された長文に違和感を覚える。


「『【備考及び注意点】……調査報告資料と情報が不足しているため可能性の範囲内ではあるが、エリア一部区画が魔王軍の偵察範囲に重なっている恐れあり。該当区域周辺に足を踏み入れる際は充分に注意する事。また、それが事実であった際は任務よりも生存を優先し無事に帰還すべし』……か。こりゃ、事実だったらかなりの大事だな」


 ヤムとプランも無言で自分が口にした内容を食い入るように見つめている。無理もない。ただでさえ最悪の環境での過去最大の難易度であり、魔王軍というキーワードまで飛び出たのだから。そう思っているとイスタハが口を開く。


「……どうしようかハイン?一応、ザラ教官からは辞退の申し出も受け付けるし、その場合は日を改めて別の任務を用意するって言われたけど……」


 そう口にするイスタハの目を真っ直ぐ見つめ、ある種の確信を持ってはっきりした口調で告げる。


「それはお前が決めろイスタハ。これはお前の任務だ。俺はお前の判断に従う。これを機会と取るか、時期尚早と取るかはお前次第だ。お前自身が後悔しない方を選べ」


 そう言うとイスタハは一瞬びくりと反応するが、すぐに落ち着きを取り戻して目を閉じる。やがてその目を開き、真っ直ぐ自分を見返してから言った。


「……僕は、受けようと思う。いや、受けたい。自分の力が特級に値するという事を証明したい。……正直言って不安もあるし……怖い。でも、ここで引いたら他の試練で特級に上がっても悔いが残ると思うから。でも、これはあくまで僕個人の意見。誰か一人でも嫌なら無理強いは出来ない。皆の意見を聞かせて欲しい」


 そう話すイスタハを見て、ヤムとプランに声をかける。


「だってよ。お前たちはどうする?」


 そう二人に尋ねると、二人も口々に思いの丈を即座に述べる。


「イスタハがそうと決めたのなら、どんな難関な試練だとしても私は師匠と共にそれに従おう。剣士としてより高みに上り詰めたい私にとっても今回の経験はきっと役に立つだろうからな」


 ヤムがそう言うと、プランがそれに続く。


「わ……私も一人なら話は別ですが、皆様と一緒ならきっと乗り越えられると思います……何より、ここで私一人皆様と離れるなんて考えられません」


 二人のその言葉を聞いて、イスタハが再び口を開く。


「……ありがとう二人とも。ハインも……一緒に来てくれるよね?」


 そう尋ねてくるイスタハに、笑いながら答える。


「おいおい。これで俺が行かねぇなんて言うわけないだろ。……決まりだな。全員でこの任務をクリアする。教官連中が驚くような結果を出してやろうぜ」


 自分の言葉に皆が力強く頷く。それを見ながら予想通りの流れになったと思った。


(……期待以上の反応だったな。この数日で皆、本当に成長したな)


 三人へそれぞれ課した課題を真剣に取り組んだ結果が表れているのを実感する。事実、イスタハはあの項目を見た上で臆する事なく自身の意思を伝えたし、ヤムとプランの二人からも『無理』という言葉は一度たりとも出なかった。


(これで腹は決まったな。……あとは、俺の戦いだ)


 試練の先で、どんな敵が来ようが何が起きようが、必ずこの三人を守りきる。


(……皆の成長を見届けクリアする事が最優先だが、有事の際は皆を必ず生きてここに帰らせる。たとえ自分に何があったとしてもだ)


 試練に向けて早速作戦会議を始める三人を見ながらそう心に強く誓った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ