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124話 ハイン、皆に宣言する

「師匠……こんな離れに私を呼び出していったい何の用でしょうか?はっ!?ま、まさか遂に私の想いに応えてくれる気になったのでしょうか……!」


 何やら一人でつぶやき身をくねらせているヤムを放置してそのまま歩き続ける。


「……何言ってんだお前。あまり他の奴らに聞かれたくないだけだよ。ほら、着いたぞ」


 視界の先には既に集合していたイスタハとプランが自分たちを待っていた。


「なんと……私の『師匠と結婚!夫婦で冒険者デビュー』の夢がまた遠のいてしまいしましたか……」


 目に見えてテンションの落ちたヤムを引きずるように二人の元へ連れて行き、全員揃ったところで本題に入る。


「よし、んじゃ早速だけど要件を伝えるぜ。次のイスタハのクエスト任務までにお前らにやっておいて貰いたい事があるからな」


 そう言って六つの束に分けた書類を二つずつ三人に渡す。渡すと同時に三人に伝える。


「一つは三人とも共通の内容だ。旅先で自生している野草や薬草、可食可能な生物とそうでない物等の見極め用や、野営時の知識から救難方法が書いてある。全部とはいかないまでも、最低七から八割は任務までに頭に叩き込んでおいてくれ」


 三人が慌てて書類の束をめくる。その様子を見ながら更に言葉を続ける。


「もう一つの束には資料としてお前たちの長所と短所を俺なりに分析した内容が書いてある。理屈でどうこうなるものじゃない部分もあるが、一部の内容は今日からでも取り組んで改善出来る点もあるはずだ。しっかり読んで任務までに少しでも改善に取り組んでくれ」


 もう一つの束をぱらぱらとめくりながらイスタハが感心した様子で眺めながら口を開く。


「すごい。僕の癖や行動パターンが丁寧に記されているね……。ハイン、これ本当にこの短期間でまとめたの?」


 ヤムとプランも同様なのだろう。無言で食い入るように資料を読み進めている。


「おう。……って言っても大分俺の主観も入っているけどな。ただ、そこらの教官よりもお前たちについては分かっているつもりだけどな」


 これに関しては胸を張って言える。初めてのクエスト以降、自分は共にパーティーで過ごしていく中で三人の様子を観察していたのだ。共に戦う仲間として少しでも強くなって欲しいと思い、皆の癖や得意不得意を自分なりに分析して記憶していた。


(……三人が壁にぶつかった時、何かの足しになればと思って記録していたが、こんな所で役に立つとはな。三人が特級に上がれるかもしれないこの機会。ここが活かしどころだろう)


 渡された資料を夢中で読み進めている三人に向かって声をかける。


「よし。読みながらでいいから聞いてくれ。ムシックの姐さんの事だ。おそらくクエストの詳細説明自体はザラ教官からになるだろうが、裏ではあの姐さんが色々動いてここぞとばかりに俺たちに厄介なクエストを持ち掛けてくるはずだ。今までとは次元が違うクエストになる事を今から覚悟しておいてくれ」


 自分の口調が真剣な事を悟った三人が表情を変える。イスタハが資料から目を離して尋ねてくる。


「……そんなに厳しいの?僕の……いや、僕たちの受ける任務って」


 不安げな表情になったイスタハが言う。下手に取り繕うよりも正直に事実を伝える事にする。


「そうだな。まぁ半分以上は俺のせいってのもあるだろうが、今の時点で良い意味でも悪い意味でも目立ちすぎたのさ。お前たちや俺の実績が普通じゃ考えられないレベルになったのもデカい。『お前たちの実力ならこの難易度でもいけるだろ?』って思われているだろうな」


 そこまで言うとヤムが会話に加わってきた。イスタハとは正反対に表情にはやる気が伺える。


「上等です。それは既に私達が特級に足るレベルだと思われているという事ですよね?見事期待に応えてやろうというものです」


 その意気や良し、と言いたいところだが過去最高の難易度になると思われるクエストを前に自信がありすぎても困るし無さすぎても困る。今のヤムとイスタハがまさにそれである。


「プランはどうだ?現時点での率直な意見を聞かせてくれ」


 そう自分が声をかけるとプランがおずおずと話し始める。


「わ……私はハインさまがここに書いていただいた内容を熟知してから任務に挑みたいと思います。……特級に足ると思われる評価を得るには並大抵の難易度とは思えませんので……」


 満点の回答だ。任務に向かう前に限られた時間の中で三人の知識と実力の水準を出来る限り高めたいと思っていたからだ。そういった意味では三人の中でプランが一番自分たちの状況を客観的に把握出来ていると思った。


「あぁ。その通りだ。あの姐さんが普通のクエストを俺たちに振る訳がねぇ。想像を超えた難易度になる事は間違いないと断言出来る。だから呼び出しが来るまでの間、お前たちには悪いが個別に俺が訓練をさせて貰う。しかも、かなり厳しい形でな」


 自分のその発言に、皆が驚いた表情を浮かべる。構わずそのまま言葉を続ける。


「いいか?多分今回のクエストは今までとは次元が違う。誰かの助けを期待出来ない状況に陥る可能性もゼロじゃない。任務の達成は当然として、全員無事に帰還するためにはこれまでの修行じゃ難しい。悪いがかなりビシバシ鍛えさせて貰うからな」


 そう皆に告げると、皆の顔が真顔になる。自分の事場が冗談や脅しではない事が伝わったのだと信じ更に続ける。


「話したかった事は以上だ。明日から交代で稽古を始める。小訓練所を貸し切る許可は取ったから明日昼前に皆で集まってくれ。じゃ、今日はこれで解散だ。各自その資料をしっかり読んで明日に備えてくれ」


 そう三人に告げ、その場を後にする。


(……皆には悪いが、ここでの指導が任務の成功を左右する事になる。……嫌われる覚悟で厳しくいかせて貰うぜ)


 皆を振り返ることなく、一人胸中でそう決意して施設へと足を進めた。


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