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122話 ハイン、ムシックと面談す

「……なるほど。魔術師クラス上級、イスタハ=バーナン君の特級昇格の為のクエストにパーティー参加という訳か。うん、良いだろう。彼の実力なら本来はもう特級に相応しい実力を持っていると担当のザラからも耳にしているよ。そのクエストへの参加を認めよう」


 内容と難易度的にも大丈夫だとは思っていたがムシック教官のその言葉に安堵する。事実、訓練を避けたいがために難易度の低いクエストを受注しようとして跳ね除けられた者もいたからだ。


「ありがとうございます。それではイスタハからの連絡を待って再度クエスト内容を報告したいと思います」


 そう自分が言ったところで、ムシック教官がおもむろに机にあった資料をぱらぱらと捲りながらつぶやく。


「……ふむふむ。イスタハ=バーナン。元勇者クラス初級。後に魔術師クラスに転入、転入後にその才能を開花させ間もなく上級に飛び級。以降のクエスト成功率はほぼ一〇〇パーセント。それも自身のミスによる失敗はゼロ。やむなく臨時でパーティーを組んだメンバーの勝手な行動による負傷や不測のトラブルを除けば自身の成功率は君と同じく実質完璧という訳だ」


 イスタハの実績を淡々と読み上げるムシック教官。更に書類を捲りながら続ける。


「なかでも君に加え、剣士クラス上級ヤム=シャクシー、僧侶クラス上級プラン=ネイルス。この四人で受注したクエストの成果は素晴らしい。受注数が多いのにこの四人でのクエストの成功率は何と一〇〇パーセント。実に素晴らしい成績だ」


 引き続き書類を見ながらムシック教官が言う。


「それだけじゃない。成績だけにとどまらずその内容も素晴らしいね。単純に達成するだけではなく稀少部位の素材回収、厄介な魔獣の殲滅に加えてその発生源の巣窟を特定し根絶に至る等々、その実績は過去最高と言っても差し支えない。正直に言って君たちのこの成果は過去も含めて初めてのケースだよ」


 改めてそう口にされると言葉に詰まる。確かに、この実績を見れば教官たちが疑問に思うのも無理はない。知識も経験も乏しい隊士でこの結果はまずあり得ないからだ。


(……自分が早く特級に上がるためと、皆の実力や実績を上げるのを急ぎ過ぎたか?ここで姐さんに勘繰られるのは嫌な予感しかしねぇ)


「……ありがとうございます。自分たちもこの結果に驚いています」


 達成率や成果に関しては、いくら体が全盛期に及ばないとはいえ、そこは二十五年の経験が存分に活かされていた。魔物や魔獣の生態や弱点、自生する薬草の種類や食に適した果実や野草の採取、不意の襲撃やトラブルに対する対応策などなど。自分の知識に驚く皆をよそに淡々とそれらをこなし伝えた。


 それら全ては冒険者として旅立った先で自身が身を持って学び経験した事である。そのノウハウを全て活かせばこの結果に繋がるのは必然だった。


「いやいや、まったく君には驚かされるよ。初級時代、君の評価は将来性含めて中の上程度かなと思っていたからね。私の見る目もまだまだだって事を思い知らされたよ」


 ……本来なら適切な評価です、とも言えずに無言で次の言葉を待つ。そもそも素直に『今の人生は二週目ですから』と言った所で信じて貰える訳もないのだから。そう思っているとムシック教官が書類をぽんと机の上に置く。


「ま、とにかく了承だ。ザラには私からも話をしておくよ。『()()()()()()()()』クエストを用意したい、ってね」


 ムシック教官のその言葉にどこか嫌な予感を感じるものの、一礼して教官室を後にすることにした。


「……ふふっ。楽しい事になりそうだなぁ」


 背中越しにそんな声が聞こえたが、あえて無視してそのまま歩き出した。



「なるほど。では我々はイスタハの報告とクエスト受注待ち、という事ですね」


 あれからすぐにヤムとプランを食堂に呼び出し、来たるべきイスタハの試練に備えて予定を確認する事にした。


「わ、私は大丈夫です。講義や必修のノルマは終えていますし、クエストの達成率はクリアしていますので……」


「私も同じく、です。むしろ最近はクラスでは組み手の相手がおらず、教官に稽古をつけて頂いている状態ですので」


 二人の返答に安心すると共に、二人とも自分の実力を持て余しているように思えた。本来ならここで出会う事のなかった二人が過去にどのような未来を送ったのかは分からないが、確実に今の方が成長しているのは間違いない。もはや二人の実力は今の環境では物足りないのかもしれない。


(……考えてみりゃ、イスタハは当然としてこの二人だって現時点で冒険者として酒場やギルドでパーティーを組むなら申し分無い実力なんだよな。むしろ、こいつらより上のレベルを探すのが難しいくらいだ。自覚はしてねぇかもだが、二人とももうとっくに上級の枠からはみ出ているな)


 イスタハだけではなくこの二人にも高みを目指すきっかけを与える必要がありそうだ。そう思ったその瞬間、こちらに向かって駆け出してくるイスタハの姿が見えた。


「お、噂をすれば何とやらってやつか。あの様子だとクエストの内容や時期が決まったみてぇだな」


 そう自分が言い終わるとほぼ同時にイスタハが自分たちのテーブルにぶつかる勢いで駆け寄ってきた。自分が声をかけるよりも早く、イスタハが叫ぶように声を上げる。


「……ハイン!君何かした!?僕の進級試験……「S+」ランクのクエストクリアが条件だって言われたんだけど!」


「……はぁあああ!?」


 イスタハの言葉に周囲の目を気にする事なく思わず大声で叫んだ。


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