12話 ダンジョン突入、そして初戦闘へ
「うっし。じゃあ、さっそく向かうとしますかね」
あれから四人で指定のダンジョンへと到着し、内部へ侵入する。
「へぇ……中は意外と綺麗なんだね……ダンジョンって、もっと汚くて、カビ臭かったりするイメージだったんだけど」
意外そうにイスタハが言う。
「あぁ。このクラスなら事前に最深部までとはいかなくても、ある程度事前に多少整備や調査がされているだろうからな。入口から危険な所なら、俺たちにゃまだ参加すら出来ねぇさ」
言いながらダンジョンの奥へと進んでいく。
「ハ、ハイン大丈夫?少しは警戒した方が……」
「大丈夫だって。イスタハは魔法をいつでも唱えられるように構えててくれよ。ヤム、前線は俺とお前で向かう事になるだろうから、周囲の警戒はしといてくれよな」
そう言うと二人がきょとん、とした顔をする。
「師匠……初めてのクエストだというのに、とても慣れているように見えますが……」
「うん、びっくりしたよ。まるでハイン、クエストに行くのが初めてじゃないみたいだ」
……しまった。またやってしまった。
ついつい普段の様に振る舞ってしまった。どうごまかしたものかと思案していると、助け船を出してくれたのはプランだった。
「あ、あの……わ、私はどうすればよろしいでしょうか」
プランの言葉にこれ幸いと、半ば無理矢理ではあるが話題をそらす。
「お、おぅそうだな。プランはソロの経験も多いだろうし、回復呪文が使える時点で助かるから、イスタハの魔法の軌道に立たないように気を付けてくれりゃあ大丈夫だろ。くれぐれも怪我しないようにな」
「は、はい!ご、ご迷惑をおかけしないようにき、気を付けます……あ、あと……」
「あと?」
そう自分が聞き返すと、プランはおずおずと自分たちを見ながら言う。
「わ、私……クラスは僧侶なのですが……ちょっと他の方と戦い方がその……何というか、人と違って、と、特殊でして……ひ、引かないでくださいね……」
恐縮しきり、といった表情でおずおずと言うプラン。
「……んー、よく分からんが、回復呪文が使えないとかって訳じゃねぇんだろ?ま、怪我さえしなけりゃ自分なりに立ち回ってくれりゃあ良いさ」
「あ、ありがとうございます……よ、良かったです……」
プランとの会話で、ひとまず話題がそれたため一安心し、警戒しつつもダンジョンを進んでいく。
「……と、皆、ストップだ。いたぞ。三体だな。初戦にしてはちょうど良い感じだな。……イスタハ、一番手前の奴、任せて良いか?奥の二体は俺とヤムでやる。プラン、お前さんは何かあったら回復呪文を唱えられる範囲で好きに動いてくれ」
そう言うと三人がそれぞれ頷いたのを確認し、自分も剣を構える。
「よし、じゃあイスタハ、頼むぜ」
「……うん。やってみるよ」
そう言うと同時に、イスタハが静かに詠唱を唱える。
「【炎の精霊よ。汝の力を我に与えん】」
イスタハが第一詠唱を唱える。どうやら炎の魔法を選んだようだ。
「【我が魔力を糧として、炎を起こせ】」
続けて第二詠唱を唱えていく。イスタハの手にみるみるうちに炎が集まっていく。
「『火炎球』!」
イスタハの手から、大きな火の玉が放たれる。
火炎は手前のゴーレムに炸裂し、そのゴーレムを炎で焼き尽くす。
「いくぞ!ヤム!」
「はいっ!師匠!」
ゴーレムが火に包まれ崩れ落ちたため、それを見て動き出そうとした他のゴーレムに即座に駆け寄る。
「ほらよっ!」
こちらに腕をふりかざそうとするゴーレムの懐に潜りこみ、脇腹のあたりから心臓の位置にかけて剣で切り払う。
例外はあるが、人間で言うところの心臓の辺りにある核を壊すか、頭を破壊することでほとんどのゴーレムは動きを止める。
倒すだけならどちらでも構わないが、素材として欲しいのが核なら後者、ゴーレムの母体の素材自体が欲しいなら前者で倒す形である。
今回は特に狙いの素材でもなく、まだクエスト序盤のためゴーレムの殲滅のみに集中する。
「ふっ!」
自分が一体を仕留めた直後、もう一体のゴーレムの頭をヤムが的確に切り飛ばす。
才能と鍛錬の成果が着実に実を結んでいる。この様子ならもっと大型の魔物や魔獣でも難なく相手が出来るだろう。
あっという間に三体のゴーレムは動きを止めて、その場に崩れ去った。
「ふぅ。ま、これくらいなら余裕だな」
剣を鞘に収めて、改めて周りを見渡す。
「……うん、緊張したけど上手くいって良かった。第三詠唱まで唱えた方が良かったかなと思ったけど、第二で充分だったね」
そう言って胸を撫で下ろすイスタハ。こともなげに言うが、本来第三詠唱までしっかり魔力を維持して唱えるにはかなりの集中力を要するのだが。
ぶっちゃけ、今の自分が戦闘時に同じ魔法を放とうとすれば、第二詠唱がやっとだろう。安全が確立された訓練の場でならともかく、戦闘の場では自分には無理である。改めてイスタハの才能を認識する。
「おぅ。その様子なら大丈夫そうだな。不意打ちや向こうから襲い掛かって来た時にだけ気を付ければ問題ねぇさ。ヤムに関しては何も言う事はねぇな。的確な良い一撃だった。あれだけ早く動けるんなら、三体くらいなら一人で相手出来そうだな」
「はい。これも全て、師匠のおかげです」
「違ぇよ。お前の努力と教官達の指導の賜物だって」
何か言いたげなヤムを押しのけ、自分が倒したゴーレムの亡骸を確認する。
「あー、こりゃダメだな。素材にも金にもならねぇクズ鉄ばかりだわ。純度も低いし、集める必要もないな」
クリスタル・ゴーレムの特徴として、核を基にして使われる鉱石によって強さも素材としても価値が大きく変わる事が挙げられる。
純度が高ければ、より硬度の高いゴーレムになるし、素材も高級なものになる事が多い。鉄やら他の鉱石等が雑多に混じるゴーレムは硬度も低く、素材の価値も二束三文になりがちである。
ともあれ、イスタハに自信を持って貰うのと、ヤムの実戦での実力を確認するという意味では初陣としては上々の仕上がりであった。
「ま、これなら不意打ちに備えて気をつけりゃ大丈夫そうだな。……っと、どうやら次の奴らがお出ましのようだ」
イスタハの魔法か、こちらの声を聞きつけたのか、近くにいたと思われるゴーレムが二体ほどこちらに近づいてきた。
「どうやら、近くに他の群れはいないようだし、ちゃちゃっと片付けとくかね」
そう言って剣を抜こうとすると、おずおずとプランが声をかけてくる。
「あ、あのう……わ、私にやらせていただけますか?わ、私も素材が欲しいですし、み、皆様のお役に立ちたいので……」
そう言いながら、杖を構えてプランがこちらに言う。
「ん、そうかい?……じゃあ、二体だけど任せていいか?」
そう言うと、プランが笑いながら言う。
「は、はい!あ、ありがとうございます!せ、精一杯頑張ります……!」
杖をぎゅっと構え、プランが笑う。
「で、では行かせていただきますね……えへへ……」
僧侶クラスであるプランが、どの様に戦うのかが気になっていたのもあるし、ソロだけであの成功率を成し遂げていたのかが疑問だったので、良い機会と思い、プランの戦闘を見てみたかったのが正直な気持ちだった。
恥ずかしながら僧侶、といっても自分は傷の手当ての回復、毒の類を受けた時の解毒、呪いの解呪などのエキスパートのクラス、としか認識していないため、サポート外での戦い方に興味があったのも事実だ。
「無理すんなよ。何かあればすぐ加勢するからな」
そう自分が言うと、プランはまた伏し目がちに笑った。
「お、お気遣いありがとうございますぅ……で、では、行ってきます……」
次の瞬間、プランの目付きが変わった。
いや、変わったというか変貌、と言っても良いだろう。同時に、プランがその場を駆け出した。
そのまた次の瞬間には、プランは既にゴーレムの眼前まで移動していた。
「なっ……!?」
ヤムが驚嘆の声を上げたと同時、プランは手に抱えたロッドの先端に付いた水晶の部分で、ゴーレムの頭を打ち砕いていた。
「あははは!遅いっ!弱いっ!あはははっ!」
返す勢いで杖を振りかざし、もう一体のゴーレムの頭部を打ち砕く。
……何が起きているのかを理解するよりも早く、ゴーレムの頭を正確に破壊して、プランがこちらに戻ってくる。
「え、えへへ……ど、どうでしたか……わ、私、ちゃんと出来ていましたか……?」
いつもの感じに戻り、おずおずとした表情で杖を抱えてプランは恥ずかしそうにこちらに向かって言ってきた。
「あ、あれ……な、何かおかしなこと、あ、ありましたか?」
きょとんとした表情を浮かべるプランに、三人とも今目の当たりにした光景にしばし言葉が出てこなかった。




