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118話 ハイン、施設に帰還する

 一夜明け、皆で施設に向かう帰路へとついた。帰りの道中も特にトラブルは起こらず、無事に二日後の昼前には施設へと辿り着いた。


「さて、皆お疲れ様。今日と明日は休日としよう。遠征の疲れをゆっくり癒すも良し、自主鍛錬に励むも良し。各自好きに過ごしてくれたまえ」


 施設に戻り、開口一番ムシック教官が言う。その言葉を受けて皆それぞれ解散する。


「じゃあまたなハイン。俺はとりあえず久しぶりに彼女に逢いに行くわ」


「あ、僕もそうしようかな。じゃ、また明後日に」


 そう言って挨拶もそこそこにザガーモとカミラがそれぞれの目的地へと歩き出す。……というか、二人とも彼女持ちだったのか。……リア充め。


「……さてと。俺はひとまず部屋に戻って、一人で鍛錬でもするかな。休み明けに落ち着いたら鍛錬に付き合ってくれよな」


 そう言ってコーガも自分の部屋へと戻る。一人になったため、どうしようかと思った時、イスタハたちの顔が浮かんだ。


「……よし。とりあえず皆の様子を見に行くか」


 すぐに部屋に戻っても良かったのだが、イスタハたちの様子が気になったのでひとまず食堂へと足を運ぶ。この時間なら誰かは食堂にいるだろう。


「……っと。流石に混んでるな。こりゃあいつらを探すのは難しいかな」


 昼頃と混み合う時間帯だったため思っていたよりも人が多く、この中で三人を探すのは難しいと判断し、ひとまず大人しく食事を済ませて出直そうと思ったその時、叫び声が聞こえる。


「師匠ぉおおおお!」


「ハインさまぁああああ!」


 反応する間もなく、こちらに向かって勢い良く突進してきたヤムとプランに抱きつかれる。あまりの速さに抵抗出来ずに押し倒される形で地面に倒れこむ。


「痛てて……お前らちょっとは加減しろよな……」


 そう自分が言うも、二人は倒れた自分にしがみついたままである。周囲の視線が痛いので離れて欲しいのだが二人はお構いなしである。


「無事をお祈りしておりました師匠!私、師匠の帰還を首を長くしてお待ちしておりました!」


「うふふ……久しぶりのハインさまの温もり……匂い……幸せ……」


 ……駄目だこいつら。何も聞こえちゃいない。そう思ったところに救いの手が差し伸べられる。


「はいはい。二人ともそこまで。ハインが困ってるでしょ」


 イスタハが自分へしがみつく二人を冷静に引き剥がしながら言う。若干の抵抗を試みる二人だったがイスタハの目が笑っていないのに気付くと慌てて自分から離れる。解放された事に安堵し、落ち着いたところで三人に声をかける。


「……ったく。助かったぜイスタハ。ヤムとプランは本当自重してくれよな。下手に騒いで注目されるのは困るからな」


 そう言うとヤムとプランがしゅんとした様子で口を開く。


「すみませんでした……久しぶりに目にした師匠の姿に思わず昂ってしまいました」


「わ、私もハインさまを見て感情を抑えられませんでした……」


 やれやれと思いながら二人が落ち着いたのを見て安心しているとイスタハが言う。


「……本当に大変だったんだからね?ハインの留守中、君の部屋に忍び込もうとする二人を捕まえて説教したりお仕置きしたりと色々あったんだからさ」


 ……イスタハの言葉に冷や汗が浮かぶ。留守の間に何が起きたかは容易に想像出来た。


「うぅ……留守を預かるは将来の伴侶の役目と思い、部屋の掃除を始め諸々の管理をしようと思ったのですが……」


「ハインさまの部屋に入り、肌着や衣服が欲しかったのですがイスタハさまにことごとく阻まれてしまいました……」


 二人の発言を聞き留守の間、何かあったら頼むとイスタハに頼んでおいて良かったと心から思った。


「……助かったぜイスタハ。とりあえず何も言わずに昼飯を奢らせてくれ」


 周りのざわめきが落ち着いたところで食事を取りながら改めて今回の任務についての一部始終を三人に話した。


「……なるほど。では止めを刺したのはコーガ殿だったとしても無事にその少年の無念は晴らせたわけですね。しかし、師匠の新たな高みに届いた技は是非ともお目にしたいです。……ただ、あわや死にかけたという点に関しては見逃せません。後でゆっくりとマッサージをしながら聞かせていただきます」


「わ……私がいれば即座に回復出来ましたのに……もしハインさまが旅先でまさかの事態に備えられます……いつも一緒……一生一緒……えへへ……」


 話が変な方向に飛躍するのを回避しようと、サラダをつまむイスタハに声をかける。


「まぁ、かいつまんで言えば今回はそんな感じだったな。イスタハ、お前たちは何か大きな動きはあったか?」


 そう自分が言うと、フォークを皿に置いてイスタハがこちらを見て真剣な顔で言う。


「……ハイン。僕から君に頼みたい事があるんだ。出来れば協力して欲しい」


 その表情に並々ならぬ覚悟を感じ、イスタハの方に向き直り改めて聞き返す。


「頼みってなんだ?詳しく聞かせてくれよ」


 そう自分が言うと、イスタハが再び口を開く。


「……協力して欲しいんだ。僕が『特級』に上がるためのクエストに」


 そう言ってイスタハがこちらをまた見つめて言った。


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