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117話 ハイン一同、打ち上げで語らう

「えー……それでは今回なし崩し的にとはいえ、パーティーを組んだ面子がめでたく全員Aチーム入りが決まった事に……乾杯!」


 ザガーモの言葉に全員で麦酒の入ったジョッキをぶつける。がちん、と音を立てた後に皆で勢い良くジョッキに注がれた麦種を飲む。


「かぁーっ!美味ぇ!……しかし自分でいうのも情けない話だが、よく俺もAチームに入れたなと思うぜ。コーガやハイン、カミラはともかく、気絶していた俺がお情けでも入れた事に感謝しなきゃいけねぇな」


 そう言ってジョッキの麦酒を飲み干し、二杯目を店員のお姉さんに頼むザガーモ。自分もお代わりを頼みつつザガーモに話しかける。


「……推測だが、お前の属性の使い分けの上手さやヒュドラへの攻撃の仕掛け方とかをきっちり評価したんだと思うぜ。それとあの人の事だから、成績を重視して序盤でワームを無視したり軽んじた面子にはその時点でかなりの大幅減点が科せられただろうからな。気絶しちまった事よりもカミラとのコンビネーションやヒュドラ亜種の首を落としたお前さんの加点が大きかったんだろうな」


 そう自分が言うとお姉さんが持ってきたお代わりのジョッキを差し出してきたため、ジョッキを受け取り一口ぐびりと飲みながらこちらを見てザガーモが話し始める。


「……お前、本当にまだ十代か?やけに達観したものの言い方するよな」


 ザガーモの言葉に内心ひやりとする。……しまった。つい素の口調で話してしまった。見た目は十代だが中身は四十路のおっさんなのだ。ついつい年長者発言をしそうになるため口数を減らそうと思い、慌てて麦酒を口に運び会話のリセットを試みる。


「ま、まぁそれはさておき意外だなコーガ。まさかお前さんまで飲みに付き合ってくれるとは思わなかったぜ」


 そう言って隣に座るコーガを見ながら言う。酒はそこまで得意ではないと見え、一杯目ですでに少し顔が赤くなっている。


「……そんな気はなかったんだがな。お前と少し話したいと思ってお前の部屋に向かう途中でこいつらに捕まったという訳さ」


 そう言って本当に一口ちびりと麦種を口にするコーガ。なるほど、そういう訳か。


「ま、何にせよ良かったよ。特級に入ってからどうにも居場所が無いっていうか居心地の悪い感じがあったんだが、それもようやく解消されそうだしな」


 そう自分が言うと、コーガがジョッキをテーブルに置いてこちらを向いて言う。


「……改めて悪かったな。そもそもこっちが勝手にお前を成り上がり扱いして絡んでいた訳だからな。お前の実力は本物だったし、成り上がりなんかじゃねぇ。それまでの俺の態度も発言も申し訳ないとしか言えねぇ。すまない。この通りだ」


 そう言って深々と頭を下げるコーガ。慌ててその頭を上げさせてから言う。


「もう良いって。それ以上謝ったりこれからも引きずったら今度は本当に怒るからな。気にしてないっていうか、そもそもテート以外に知り合いがいなかったから俺自身がクラスに上手く馴染めていなかっただけさ。お前は勿論、ザガーモやカミラとだって今回の任務が無ければこんな風に打ち解けられなかったと思うしな」


 そう。特級に入った時期と経緯がまったく違うため、見知らぬ面子とコーガ達のように過去の記憶で一方的にこちらだけが知っている面子に囲まれた状態だったため、上手くコミュニケーションが取れなかったのは事実である。


 今回の任務によって、自分とコーガたちの様に普段からあまり関わりのない者同士でのやり取りが行われる事が自然と増えたため、施設内とは違う繋がりが生まれた様に思う。自分達だけではなく、街や酒場に散らばるそれぞれの面子を見てもそれが分かった。


(……ムシックの姐さん、まさかここまで計算して今回の任務を受けたのか?あの人ならありそうな気もするが)


 可能性としては大いにあり得る。才能や年齢差など要素は様々だが、大半の連中は特級クラスに上がる頃にはほぼほぼ普段の人間関係が構築されている。ましてや危険が伴うクエストに挑むならますます気心の知れた面子でパーティーを組むのが定石だ。


(……ここで新たな人間関係を築き、交流を増やせばより多くのクエストを互いの得意不得意を補い合いながら出る事が出来るようになる。より多くのクラスと行動を共にする事が求められる勇者なら、特にそれが求められる。……流石だな)


 考え込みつい無言になった自分を見て、ザガーモが怪訝そうな顔で自分を見て声をかけてくる。


「……どうしたハイン?もう酔いが回ったか?」


 その声に我に返り、ジョッキの残りの麦種を飲み干して慌てて言葉を返す。


「いや、大丈夫だ。ちょっと考え事をしていただけだよ。さ、まだまだ飲むぜ」


 それからは自分の飛び級から現在に至るまでの話を三人に聞かれたり属性関連についてのプチ講義を行ったり、それぞれの話をして盛り上がった。最終的にコーガの顔が真っ赤になったところで宴はお開きとなった。部屋に戻った頃にはすっかり夜が更けていた。


「ふう……」


 部屋着に着替えてから窓を開けてタバコに火をつけ、一口吸って煙を大きく吐き出す。夜風が酒で火照った顔を心地良く冷ましてくれる。


(施設に戻ったら、今回の反省点や改善案を色々と考えないとだな。……姐さんの思惑も気になるが、まずは出来る事から取り組んでいかなきゃならねぇ)


 Aチームに振り分けられた事で、また様々な任務や訓練が与えられることだろう。だが、言われた事をこなすだけでは到底首席どころかハキンスやテートには追い付けない。


「……魔王を倒すだけじゃなく、犠牲者を可能な限り減らし、救う。そんな勇者になるには今この時間を最大限に活用するんだ」


 そう一人つぶやき、タバコを消して窓を閉めベッドに潜り目を閉じる。酔いも重なり自分の意識はすぐに暗闇へと落ちていった。


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